第109話 時間のゆがみ
俺たちはヴェネトア王国人が集められた天幕の中に来ていた。情報を聞いていると、どうやらヴェネトア王国だけでなく、近隣諸国の人間もいるとかそんな感じの連合軍だったみたいだ。
アスティナさんが天幕に入ると一気にピリッとした空気になる。
豪華な服を着た貴族っぽい人間はことごとく隅に追いやられ、現場の狩人っぽい格好をした人や……あれ? 確かこの前見た人……商人と名乗ってた人がいるな。かなりまともな人だったような記憶が……
「ああ、カタシさん……アルドンタムです。やはり鬼人族側にいましたか……」
「鬼人族には助けられていますので、手助けをしただけです」
「なるほど……銃が相手に渡った、おそらく敵側に渡った……と進言したのですが、襲撃が続行されてしまって……もう散々ですよ」
「あー気持ちはわかります」
アルドンタムさんは苦労人っぽいもんな。常識があると、あの無能な上司に振り回されるだろうし。そういえばあの無能さんの姿が見えないな……処刑されたのか?
「あの人はどうなりました?」
「……あの人? ああ……処刑されることになっていたみたいですが、実験するとかでつれてかれましたね……」
「……ああ、あれか……」
アスティナさんが現在の王国側の代表の元へとずかずかと歩いていく。周りにいた人間は距離を取るようにアスティナさんから離れて行く。やはりエーテルを感じられるような人は恐れられているのだろうか?
『質問があるの……あ、リョウコお願いね』
「わかりました。通訳していきます」
それにしてもこの王国の代表さんから感じられるエーテルの量も凄いんだよね。他にはそこそこの力を持った人がいるけどこの人だけ段違いだ。外の世界にはこんな人が沢山いるのかな?
【そこまではいないかと。彼は英傑と呼ばれる凄腕の探索者だと思ってください】
なるほど……
「鬼人族の姫よ……なんの用だ? 撤退準備は明日からと言う話ではなかったのか?」
『ええ、それは知っているわ。あなた達の後から来た3隻の船はどういった理由でここに来たのかしら? それを聞きに来たの』
「……ちょうどそれについて話をしていたところだ……話がかみ合わなくてな。アルドンタム。一番最後に到着したお前らの話をもう一度……概要だけ彼女に伝えてくれ」
「はい、わかりました。私たちは補給物資の運搬のためにこちらに来ました。先遣隊からの折り返しの連絡が無く、1年近く経過しているとのことで、安否確認……と言うより失敗したかどうかの確認のために来たのです」
「……まぁ、それで俺たちも……別ルートからの依頼だったんだが、補給物資と安否確認のためなんだが、彼等よりも2か月前に出発しているんだ……」
『……』
「それで問題は、最初の調査隊が1年以上前に来てたんだが……なぜか、ここに来たばかり……と言い張りやがってな……」
隅っこに追いやられた貴族らしき人間が立ち上がって反論をする。
「それはあんたらもおかしいだろう!? そいつらの2か月前に到着したわけじゃなく、つい先日同じくらいに到着しただろうが! どこで道草を食っていたんだ!」
「ってな具合でな、どうやらこの島に入ったら時間がずれるみたいなんだ。信じられるか? こいつらの食糧、あと半年以上余裕でもつんだぜ? 現地調達もしてないのに」
『……』
何時も、歯切れよく答えるアスティナさんが珍しく考え込んでいる。
彼等の話が本当なら……この島だけ時間がずれている……んだろうなぁ。
魔法がある不思議世界だ。そんな事も起きるんだろうな。
【え? ……すぐに信じてしまうものなのですが?? 不思議な、とても信じられないような話だと思うのですが……】
リョウコがすでにやり直ししてるのは確定みたいだし、リンカさんが時間を巻き戻せるスキルを持ってる……みたいな感じだし、なんかもう、SF系ショートショートであるような感じになって来たな。
【……なるほど……創作の物語ですが……興味深い。あ、もう少し具体的に思い出してください。なるほど……ありがとうございます……となると、この時間の歪みの根源をなんとかしないと……と言う話ですか……なるほどなるほど、興味深い……】
……何かアーゼさんが別方向に行っちゃった……俺の相談相手が……俺の記憶は本屋がわりか……
ナオエさんがリョウコに耳打ちする感じで話しかける。
「リョウコ、あなたはどう考えるの?」
「……え? そうですね……考えてみると、この世界に来る最初の説明で、この島の謎を解き明かせ……とかそんな感じの説明もあった気がするので、ありかなと……」
「ありとは?」
「要するにこの島、時間が歪んで別の時間帯を進んでいるんですよね。彼らの話が本当だとすると、外の世界では普通の時間の流れ、この島だけ時間が巻き戻っているせいで遅れている……ってな感じかと。物凄くドラえもん的な考えですが……」
「なるほど……」
島に近づくほど時間が変化する……何か相対性理論とか、ブラックホールみたいな話だな。
リョウコの説明は、アスティナさんだけでなく、王国側の人間の注目を集めていた。彼女の言葉は自動的に翻訳されて相手に伝わるんだもんな……そりゃそうか。
『ちょっと待って、リョウコ、それ本当なの?』
「……時間が歪む? どういうことだ??」
「時間に流れってどういうことです??」
「時間って水みたいなもんなのか?」
「あ、そこからですか……そうなりますよね……」
リョウコがこの部屋に備え付けてあった黒板に図解で説明を始める。
まずは時間の概念っぽいところからか。
さすが絵が上手……じゃなかった。説明も上手だな。さすがプレゼン女王。これだったら小学生レベルの認識力があれば理解してくれそうだ。
サチさんも説明を見ながら考えに吹けりながら呟く。
「説明を聞いていると、黒い結晶を壊すと、この島の時間のゆがみが直るんじゃないかしら?」
「そうだな。やっと目的と目標が合致したな……」
「だとすると、最後の一人にならなくても問題は無いような……」
「そこだけが分からないのよね……」
以前、リョウコからのヒントで、スキルオーブの所持者がこの世界の人も持っているとしたら……考えられることがあるんだよね。
「ああ、それなら、その時間の『歪み』を発生させている人間が、「スキルオーブ」を持ってるんじゃないか?」
「……ああ」
「なるほどな」
「倒せば自動的に『歪み』が消えるってことか、それか発動をやめれば良いんだもんな」
ナオエさんが眉間にしわを寄せながらこっちを見てくる。何か怖いんですけど……
「ねぇ……他のスキルオーブを全部持ってるくらいじゃないと倒せないってことよね?」
「……そう……なるのか?」
「だったらスキルを奪える仕様になんてしないでしょ?」
「確かに……」
「リンカさん以上に時間を巻き戻せる力なのは確実だよな」
「話を聞いていると1年以上巻き戻してるってことよね??」
「あの、ちょっと巻き戻すだけで凄いスキルポイント使うんですけど……1年なんて無理ですよ……」
「……スキルパワーが恐ろしい人間か」
「ステータスも高そうだな」
「妖魔側の人間だったり……」
「この島の外かもしれないな……」
「鬼人族の王とかもな……」
「黒い魔人とか言ってたよね、そういえば……」
「魔王とかそういうやつか?」
俺たちの間でしばらく沈黙が続く。
リョウコの時間の概念の講義の受けが良く、活発に意見が交換されている向こう側と大分雰囲気が違う。
まぁ……そうだよね。
どう考えても超常現象的なすごいことが出来る「神」みたいなものを相手にしないと駄目ってことだもんな……
「黒い結晶を壊す事を目的にした方が良さそうね……」
「だな」
「そうね」
「一応保険でスキルオーブ集めとステータス集めをしながらね」
気が付くと意志が統一されていた。まぁ、そうだよね。未知の強敵を倒そう……なんて思わないし、黒い巨人を操ってるやつがスキルオーブを持ってたら……取れそうにないもんな。
俺たちの意見がまとまるころにはリョウコの講義も終わり、議論が開始されていた。
情報が得られたので俺たちはこの場を立ち去る。
中央神殿の奥にある「母なる大結晶」の調査をするべく、明日の出発の準備をすることになった。
テストプレイヤーのサナエさんには一旦テストプレイヤーの集落に帰ってもらって、「セイナ」を止めるべく奔走してもらう事になった。「狙撃手」の存在を知らせるのと、対応策を取ってもらうためだ。うまく行かないようだったらリョウコもそちらに参加……すると翻訳する人がいなくなるんだよな。困ったな……人手不足だ。
余りに濃く、長い一日だった。
用意してくれた宿の風呂と布団は、心も体もかなり癒してくれた気がする。
S S S




