第105話 黒い結晶
黒い巨人を討ち倒した後、不気味さも相まってか、両軍共に喜んではいないようだった。困惑、怯え、様々な感情が入り混じっている様に見えた。盾を構えたままだったり、物陰に隠れたり……まぁ、どこから狙撃されるかわからないもんな。
敵対していた両勢力の和平協議も進んでおらず、各勢力の仲間内で何やら話し合いが続いていた。
目の前の新たな脅威に対して一致団結……なんて方向になるんだろうか?
俺も黒い巨人が倒れた場所へと近づいていく。何やらあったみたいだ。
ナオエさんが俺に気が付き手を振り、こちらに早く来いとのジェスチャーを送ってくる。
黒い巨人が倒れた後には黒いモヤを纏った黒い石のかけらしか残っていなかった。
槍の穂先で黒い石の欠片を転がして調べているようだった。
「黒いエーテルのかけらかしらね、どれも尖ってる?」
「砦の黒いやつを倒したら出たやつか?」
「同じように見えるな。相変わらず禍々しいな」
「ヨウカさんかライトさんに「浄化」してもらう方向かな?」
リョウコとテストプレイヤーのサナエさんが他のプレイヤーの倍の距離を取り、困惑している様に見える。
「……黒い粒子が渦巻いてるんですけど?? やっぱり見えないんですか?」
「え? この人たちに見えないの?」
やっぱりテストプレイヤーには見えて、俺たちに見えない、その逆もある……仕様が違いすぎるんだろうなぁ……
「黒いモヤみたいのはチラチラ見えるが……」
「やはり見えませんか……」
「本当に? うねうねしたのも出たり入ったり、黒い渦……なるとみたいなんだけど?」
二人の発言から見るに……近づきたくないくらい気持ち悪いナニカが出てるんだろうけど……
「渦巻いているようには見えないな」
「私にも見えないわ」
テストプレイヤーの言葉だけはわかるアスティナさんがリョウコに何やら質問をしていた。
『リョウコには見えてナオエたち、「しんきぷれいやー」には見えないの?』
「そうなりますね。サナエさんも見えるでしょ?」
「うん。見える。これに飲み込まれたら私もケンジみたいに黒い巨人になっちゃうの?」
「……おそらくそうかもしれないし……そうじゃないかもしれません。私の記憶が正しければ……サイズは大小色々いましたし、このサイズの黒い巨人はいませんでした」
サナエさんが巨人の倒れた周囲を見回す。
「ケンジは……死んじゃった……のね……身体も残ってないのね……」
「残念ながら巻き戻らない限りは……ゲームオーバーです」
「イイ男だったのに」
「そうなんですか……」
「あっち戻ったら探さないとな」
「まぁ、現実の日本じゃ死んでませんからね」
「報酬獲得したら、あっち戻って彼を探さないとね」
「……みつかるといいですね」
「必ず見つけてやるわ」
……すごいな。ケンジさんにベタ惚れじゃないか?
現実世界だと、彼女がいるか、結婚とかしてそうだけど、ここは突っ込むところじゃないな。
やっぱりあっちの世界で生きている……って思うと、死んでもそこまで悲しくならないのかな……あ、すみません、悲しいですね。サナエさんが泣きだしちゃった……
禍々しい黒い石の欠片からは黒い靄の様な粒子がリョウコの方へと伸びようとしては消えている感じだった。
リキさんが大盾を構えながら槍で禍々しい黒い石の欠片を転がし、なんとなく元の形っぽい形状にしていく。気持ち悪い事に、近づけていくと自動的に元の形に磁石のようにくっついていく。どう見ても弾丸の形状に見えるな。
「狙撃用の弾……だったんだろうな」
「……これを撃ち込まれたら、黒い巨人になるって事か」
「この弾は量産できるのかしら?」
「……だとすると、かなりヤバめな状況ね」
リョウコが近づこうとすると触手がにゅるっと禍々しい黒い石から出てくる。
「なんか、黒い触手みたいのが私の方に伸びてるんですけど?」
「やっぱりテストプレイヤーが標的?」
「みたいね。私たち……新規プレイヤーや、アスティナ、ウィンディには反応してないわね」
「テストプレイヤーキラーって感じね……」
アーゼさん、テストプレイヤーと、新規プレイヤーの差ってあるの?
【全く違う概念での生成になりますので、かなりの差があるかと】
生成……魂は同じだとしても、身体は借り物か、変な気分になるな。
「テストプレイヤーと新規プレイヤーは全く別物らしいぞ」
「それって、ナビの情報ですか? そんなことまで教えてくれるんですね」
「カタシさんのだけが、何故かよく教えてくれるんです。私たちのはそっけないんですよね……」
え? そうだったの?
【変わった行動、興味深い行動、思考をするプレイヤーには専属が付いている感じですね】
……俺の行動が変わっていたのか……もっといろいろやってるやつも多い気がするけど……
【あなたが思うよりみなさん生きるのに精一杯みたいですね】
そんなもんなのかぁ……
『姫様、王国軍との協議を再開しますのでこちらへ』
『わかったわ。リョウコ。情報がまとまったら教えて頂戴。協力するわ』
「わかりました。時間がかかるとは思いますが……」
アスティナさんと盾を持った護衛達がこの街で一番しっかりした外壁を持った建物の方へと警戒しながら歩いていく。領主の館? 世界遺産とかで見る明治前後の宮殿みたいだな……まぁ、壁が無いと狙撃されるから……部屋の中での交渉になるのか。
サチさんが若干疲労した感じの目でこちらに訴えかけてくる。
「私たちも場所を移動できないかしら……定期的に「狙撃手」を全方向にスキルで探しているとSP消耗が厳しいわ」
……え? ずっとスキル使っててくれたのか? 気が付かなかった……
「わかりました。とりあえずこの黒の弾丸を……どう持っていけばいいんだ?」
「トングとかないですかね?」
「槍二本で挟む?? 掴んだらヤバいのよね?」
「スコップなかったっけ? 上に乗せてけばいいんじゃない?」
「あ、それなら少し待っててください」
桟橋にいたであろう新規プレイヤーの一人がそう言うと、凄い勢いで樽やら木の大きな箱が自動的に移動し、周囲を取り囲み、即席の壁となっていく。
『移動』とか『念動力』とかそういったやつか? 魔法みたいだな。
「びっくりした……」
「すごいな……」
「便利ね」
「これなら狙撃されませんよね?」
「大丈夫ね。ありがとう」
「いえいえ、移動させることしかできないので」
桟橋で不自然な動きをしている王国軍がいたけど、彼のおかげだったんだな。これ、ワールド座標で使えば……岩を動かして相手を挟んで潰せないか? すごい戦闘に使えるスキルな気がするんだけど……
俺たちが黒い結晶の弾丸、黒い巨人になってしまう事についての議論をしていると、ジンパチさん達拠点砲撃組が到着する。我らが知恵袋たちの到着だ。ありがたい。
「お疲れさまでした。どうなってるんです? 壁なんて作って?」
「あ……連絡をし忘れてました……狙撃手……スナイパーがいます」
「……マジですか?」
「すいません……」
「何かあったのは理解してましたが、てっきり黒い巨人が問題だっただけかと」
「あのビーム砲みたいなやつを突然撃ったのはそれだったんですね」
「対岸に向けて何やってるんだろうって……」
「住人が逃げるように建物に隠れてた理由はこれか……」
しまった……余りに色々起き過ぎてジンパチさん達への連絡を忘れてた。
拠点砲撃組がマジかと顔を見合わせた後、戦勝を祝うにこやかな表情が一気に消えていた。
ごめんなさい……狙われているかもしれない中こっちに来てもらっちゃって……
カンジさんが静寂に包まれる中、フォローを入れてくれる。
「あ~まぁ、俺たちが撃たれなかったって事は、スナイパーはもういないんだよな?」
「そうなりますね」
「五分ほど前まではスキルで探ってたから、そうなるわね……」
「……標的はテストプレイヤーだけ……かもしれないけどな」
「なるほど……」
気が付くと、拠点組にも港町にいた新規プレイヤーに顔見知りの人間がいたらしく雑談も随所で始まっていた。割と現実の日本での知り合いが多い気がするんだけど?
【説明が楽らしいので日本が選ばれたらしいですよ?】
な、なるほど。
異世界転移とかゲームとかに馴染んでるからか……
まぁ、俺もそうだけど……
それからは拠点砲撃組への現状説明を終え、今後の事を話し合う。
ただ、思ったよりやることが多いので手分け……と言うよりかなり困ったことになってる感じだった。タスクが積まれ過ぎてどれからやればいいかわからないな。
ジンパチさん達が紙に書かれた項目を整理してくれる。
「まとめましょうか、現在の問題点を箇条書きにしていきますね。リョウコさんが爆発魔法を撃った爆心地の調査、これは新規プレイヤーの討伐ログがあるので必須。黒結晶の弾丸が新規プレイヤーに影響があるのか、これは危険なのでヨウカさん達が浄化できる範囲でテスト……すぐに浄化して無害化。そして狙撃手の目的と調査……こちらはすぐにはわかりませんね。リョウコさん達テストプレイヤーは黒い巨人に変わってしまう事をテストプレイヤーに伝達、あとは元々の目的の、救助組の拠点への避難ですかねぇ……もっと安全な状態で計画を立ててたので……ちょっと考える必要がありますね」
ナオエさんが周囲を見回した後、補足する。
「あとはアスティナとのこの世界の情報共有と、このゲーム……ゲームと言って良いかわからないけど、クリア目的の明確化、調査ね。何やら知ってるみたいだったし。リョウコもね」
「はい、大分変わっているので、お役に立てないかもしれませんが」
……やることが沢山だな。
新規プレイヤーもかなり増えて……知らない人ばかりになってる。後で自己紹介とか……しないと駄目だけど……そんな暇も無さそうだな。
「とりあえず、先に爆心地で何人かプレイヤーの討伐ログがあるので、調査しないとですね」
探索組が目を合わせる。ナオエさんが槍を四次元収納ポーチから出して準備を開始する。
「それなら私達が行く。あ、リンカさんも来てくれる?」
「え? 私もですか??」
「そうね。どうやらこのゲームをクリアするのに、あなたの力が必要な気がするから」
「……そこまでお役には立てないですが……そうなりますよね……アハハ……」
リンカさんが若干諦めた目をしていた。ケイさんが心配そうに彼女に寄り添う。
俺は留守番かな……ナオエさんが俺に微笑む。行くんですね……わかりました……




