第104話 黒い巨人
ケンジさんが膨らんで黒い靄に覆われた巨人になっちゃった……
これ、どうすればいいんだ?
とりあえず人型なんだから顔とか急所に槍を当てれば死ぬか?
やっつけちゃっていいのか? 浄化したら元に戻るとかないの??
ってか、攻撃しても元に戻らないよな……ナオエさんの『治す』で治るものなの? 巨人化って?
【残念ながらわかりません……黒い巨人の発生現場を見たのは……初めてです】
マジか……治らないの?
【……前回は湧いて出たところで終わってますね……もしかしたら『浄化』が効くかもしれませんが……この体積だとスキルレベルが足りないかもしれませんね】
……なるほど……体積依存って言ってたか。
って、世界の「やり直し」は確定かぁ……
【……あ】
俺が呆然として見守っていると、黒い巨人は完全に周囲にいた人間から「敵判定」されたみたいで、王国側の魔術師、多種族連合の港町防衛軍から色々な属性の魔法が飛び交い、黒い巨人を打ち抜いて……っておかしい。
なんか、届く魔法もあるけど、ほとんどが消えて行っている様に見える。ってか、黒い巨人が大きくなっていってるんだけど??
どこまで大きくなるんだ?? 大丈夫なのかこれ??
「魔法は撃つな!! 魔法は効いていない!! 撃ち方やめ!! 魔法撃つなっての!!!」
『魔法は撃たないで!! エーテルを吸収されているわ!!』
王国のリーダーと、アスティナさんが良く届く大きな声で場を納める。
桟橋からも不自然な動きの「何か」が黒い巨人に当たっている様に見えたが、それも止まった。
言葉が届いたんだろうけど……うーん。
やっぱり魔法を、エーテルを吸収して大きくなっちゃう系の敵か?
スキルを吸収する敵……と言うか「プレイヤー」の想定はしてたけど……
その時は物理強化でスキル、エーテルを直接撃ち込まなければ良い。みたいな結論だったけど……
十メートルもある巨人相手だと物理効く? 焼け石に水って感じじゃない?
……どうすればいいのコレ?
黒い巨人は棒立ちになりながら首を左右に回して状況を見ている……中身は……心はケンジさんなのか?
ん? ナオエさんの方を見た……手を振りかぶって……あ、これ、心が残ってない奴だ。
女性プレイヤーを抱えたナオエさんがスキルを使って凄い速度で回避する。
ドォオン!!!!!
完全にナオエさんか女性プレイヤーを狙ってるな。ってか地面を叩きつける音が凄いな凄い。重量もしっかりとあるのか。膨れたけど重量そのまま……ってパターンでもないのか……すごいな。魔法の世界って。
重量があるのに速度があるって……ズルいんだけど!?
「うぉおおりゃぁああ!!!」
『はぁああああああ!』
リキさんとウィンディードさんが凄い速度で黒い巨人の両膝目掛けて武器を振るう。
凄まじい一撃と、何でも切っちゃう勢いの斬撃が巨人の体勢を崩し、一瞬ふらつかせる。
膝は砕けたように見え、膝の裏の筋肉は完全に切れたように見えた。
だが、黒い巨人はぐらつきながらも倒れずに踏みとどまる。なんか傷跡がもこもこと……気持ち悪く盛り上がって元に戻っていく。
なにこれ……再生もすごいやつ? どうすればいいのコレ??
「リキ!! そのまま続けて!!! 時間稼ぎを!!」
「わかってる!!」
リキさんとウィンディードさん、それに王国の厳つい狩人達が参加し巨人の膝を集中攻撃し続ける。まるで子供と遊ぶ親……のような光景だが、膝からは黒い血しぶきが上がり砕け、もこもこと盛り上がって自己治癒を……気持ち悪いな……ってかスゴイ動きだ。巨人の攻撃が遅く見える。
ん? いつの間にか隣にリョウコがいた。
と言うか、みんな俺の後ろに逃げてる…そうですか、『固定』の盾に隠れたいですよね。俺もあなた達だったらそうします……
「先輩……どうしましょう。あれなんですよ……最後に湧いて出たの」
「これが大量に?」
「はい。魔法撃っても吸収されちゃって……」
「倒す方法は?」
「普通のサイズだったらコアを……心臓を打ち抜けばなんとかなるんですけど」
「あのサイズは?」
「同じかと思いますけど、あのサイズは見た事ありません……」
「貫く系のスキル……無いのか?」
「エーテルを纏ってなければ攻撃は通じるんですけど……」
「さっきのビーム魔法はエーテルだもんなぁ……」
俺は後ろを見回す。避難してきたテストプレイヤーも混じっていたが、みんな困っている感じだった。有用なスキルは無いか……後は物理……拠点砲台におびき寄せて魔改造バリスタの一撃か……弾が残ってればいいけど……あとは……
あ、あるじゃない。
そこに。物理攻撃手段が大量に。
「リョウコ。王国の人に砲撃準備をしてもらって。誘導して撃ち抜こう」
「へ? あ~なるほど。誘導……エサは……サナエさんを使えばいいか……さっき狙ってましたし」
「……テストプレイヤーを狙う方に一票」
「はぁ、私もエサになりますかね……ちょっと行ってきます」
リョウコが黒い巨人に向かっていくと入れ違いにナオエさんが女性プレイヤーを抱えてコッチに来る。と、同時に女性プレイヤー「サナエさん」をこちらに向かって推進力そのまま放り投げてくる。ってか人間投げないで!?
「カタシ君、この人もお願い! 私も参加する」
しょうがないからそのままキャッチする。お姫様抱っこ状態だ。
「わかった。死なないでくれよ」
「もちろんよ。クリアしてやるんだから問題ないわ……」
女性プレイヤーをすぐに地面に降ろすと、ナオエさんの方を見つめていた。
「す、すごい……王子様……」
「……ナオエさんは女ですが……」
「カッコイイ……」
「……そうですか……」
そう言えば……下級生の女子達にモテてたな……なんか仲良くしてたら目の敵にされたこともあったような気もするし……どこ行っても扱いは同じになるのか。
SP残量……全然無いな……もしもの時に取っておくしかないな……
すると突然、頭の中にジンパチさんの声が聞こえた。
「交信石」か。貴重だからあまり使えないんだよね……とりあえず約束通りに手を振っておく。恐らくあっちからは見えてるはず……
(聞こえてますか!? カタシさん! 聞こえてます? あ、よかった。カタシさん。こちら拠点砲撃組。残段数が10です。必要でしたらこちらの海岸に引き寄せてください。とっておきの魔法金属弾頭のものもあります)
(わかりました。連絡ありがとうございます。海賊船の砲撃が失敗したらそちらに誘導します)
(承知しました)
残段数10か……五門から2発ずつ撃って終わりか……とっておきも外せば終わりだよな。心もとないな……アヤノさんとショウコさんの重量物質ピンポイント爆撃……やってもらうしかないかもな。命中率がまだ低いんだよな……困ったな。
ドオォォォン!!!!
そんな事を考えている内に凄い音が鳴り響く。
黒い巨人が盛大に転んで……と言うより、戦士達の攻撃で倒された感じか。
片足には槍が突き刺さり、片方の膝はぐちゃぐちゃになりながらも再生をしている……起き上がろうとする手もリョウコやこの街の戦士達が空を舞う様にして切り刻んで動きを封じている。
普通の生物だったらこのまま押せば倒せるだろうけど……
もこもこと再生したり、黒い煙がジュワっと出たり、黒い触手みたいのが傷口に出たりして……なんか気持ち悪いなぁ、ほんと。
「準備はまだか!!!」
「あと2分ほどお待ちください!!!」
王国側のリーダーらしき人が戦いながらも海賊船の指揮官らしき人に声をかける。どうやら作戦は言わなくても伝わってるみたいだな。
リョウコがわざと黒い巨人の視線に入るように動き、黒い巨人を誘導していく。足が動かなくても這って追っていく。テストプレイヤーへの執着? それともケンジさんだった時の記憶のせい? どっちだ?
リョウコが海賊船の側面で舞う様に黒い巨人の攻撃をかわしながら反撃していく。再生能力が無かったら恐らくもう倒せている……くらいに攻撃をしている感じだ。
このまま簡単にいきそう……と思っていたら黒い巨人の顔の前に黒い不気味な粒子が集まっていく。口の中からなんか集めてる??
「なんだあれ?」
「爆発しそうな……」
「ビーム系のなんかか??」
「やばそうだな……」
隣で観戦していたリンカさんが突然大声で注意を促す。とんでもない大声で耳を塞ぎたくなるくらいだ。
「リョウコさん! 躱してください!! レーザーみたいの撃ちますよ!!! 海方向に逃げて!」
「えっ?? レーザー??! それならっ!!」
ドゥーーン!!!! ガガガガガ……!
リョウコが的を絞らせないように桟橋や氷で固まった海の上で大きく回避運動をし始めると、黒い巨人の顔の前に集まった黒い粒子を撃ち放つ。黒い稲光みたいなものも発生しているし、なんだあれ?
それにしても思ったより黒い粒子を放つ時間が長い……あ、リョウコの足場が崩れ……海に落ち……ナオエさんが拾ってくれた。『伸びる』と言うよりもう空を自由に動き回ってるな……
黒い巨人は戦士達に体を刻み込まれながらもリョウコの方に顔を向けて次の黒い粒子砲の準備をしていた。リョウコ以外は眼中に無いみたいだな。ってか怯みすらしない……痛みを感じないのか??
「撃て!!!」
ドドドドドドン!!!!
船の側面にある二十門はある大砲から容赦なく砲撃が浴びせられる。
煙もすごいが威力もすごい。顔が半分ぐちゃぐちゃに吹き飛び、胴体からは黒い血がドバドバと出ている様に見える。片腕も千切れかかっていて……さすがにアレだけの数の鉄の弾を食らえばそうなるか。
【鉄の砲弾……にしては威力が大きすぎる感じですね】
ん? そうなの? 弾にエーテル阻害のナンタラを混ぜてるとか?
【なるほど、何かしらの「魔獣」対策をしてきたようですね】
黒い巨人は膝をつき動きを止める。だが、身体から黒い触手がうねうねと出始め、体をつなぎとめようとしていた。あそこからも再生できるのか?? それでも弾が当たったところを避けている様な……変な動きをしている様に見えるけど?
「魔核が見えたぞ!!」
「戦士達よ! 巨人の胸に見える黒い石を砕け!!」
いち早くリキさんがその言葉に反応し、凄まじい速度で突進をして妖魔の砦で拾った妖魔の将軍の大剣を胸の黒い石に叩きつける。
黒い石はひび割れて、そのひび割れが体中まで伝播し、黒い巨人は黒い粒子となり消えていく……
目の片隅に討伐メッセージが流れる。
【◎$♪×△¥●&?#$!ヲ討伐 ○▼※△☆▲※◎★● HP+1.82 MP+1.26 STR +1.53 DEX +1.64 AGI +1.68 INT +0.63 MND +1.94 SP+2.51 ……】
なんか色々おかしいな。エラー表記? バグった? この人数で頭割りのハズなのに……凄いエーテル獲得量だ。
【……なんてことでしょう。こんなことが起きるなんて……】
アーゼさん……管理側でも問題ある状態だったのか。ってかカミサマの力で何でもできるんじゃないのか?
【そこまで万能ではありません。あなた達を招き入れるくらいなのですから……】
……なるほど……やっぱり、なんか目的あるんだなぁ……
【……ここからは黙秘します。質問を考えないようにしてください】
はいはいっと、出来るならイレギュラーの元を何とかしてほしいけどね。
桟橋にある隠し入り口から出てきた新規プレイヤー達が凄く喜んでる。ステータスが一気に上がったからだろうけど。ほんと沢山いるな。40人はいるとか言ってたっけか……
これから情報を集めないと……か。ちょっと休ませてほしいわ。
あれだけあったSPがほぼ空になってるんだけど……




