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ログイン21 お兄ちゃん

貧乏高校生 当溜。格安ボロアパートに住みバイトをして生活費を稼ぐのが彼の毎日だった。明日から学校が夏休みに入る事で浮かれていた時に偶然おもちゃ屋で最新のVRヘッドギアを見つけ購入した。さっそくVRゲームを始めたまでは良かったのだが、本来なら無いはずのVRヘッドギアのホームにログインを果たした。彼は大嘘をつくAIの言う事を真に受け全てにYESと応えてしまった。身体構造スキャンを許し、問題箇所のリペアとしてハルモニア光なる謎の光を実際の身体に照射された。問題は解決したのだとAIに唆されてゲーム世界に送り出されてしまう。しかしこの事が当溜の生活をガラリと変えてしまう重要な出来事だった。ログインしたゲーム内でも問題が発生した。選択出来る性別が女性のみで男性の選択は不可能だった。なんとか女性アバターを男性的な姿に作る事に成功したが、間違えてランダム作成を押してしまい完成したアバターは幼女だった。


♤守ってください幼女な僕を♡ 

縮めて『守幼』をよろしくお願いします




 ニュービータウンに戻って来たが、あれから結局誰も来なかった

 

 それもそのはずで真央は里麻からのREONのスタンプ連打送信に疲れてスマホを見ていなかったし、里麻は真央からの返信がなさ過ぎてやはり飽きてしまいスマホを見てはいなかった


 そして航介と鯛蔵はそもそも漁に出かけていたのでスマホは見ておらず、魚を追いかけていたのだから紅優のメッセージを見る事はなかったのだ


スカイ「とりあえずみんなにはメッセージを送っておいたから、ログアウトしようか」


 相変わらず眠そうにしているシャーロットを見たスカイは、後はどんなに待っても来ないだろうとここで解散しようと提案した


イリスティナ「そうだね、待ちぼうけしてても仕方ないからそれがいいかも」


スカイ「じゃあ、これで解散ね!」

 

イリスティナ「あっ!そうだ、ログアウトの前にフレンド登録しておこうよ」


 イリスティナはスカイとシャーロットとフレンド登録を済ませた


 そしてログアウト前にイリスティナはスカイに許可を取り、シャーロットを抱きしめた


イリスティナ「はあ〜柔らかい、気持ちいいこのまま寝むれそう〜おやすみ、くぅ〜」


スカイ「え?まさか本当に寝てないよね?」


シャーロット「僕も眠いよ〜」


 早朝にベニのメッセージで起こされて、眠いのはスカイも同じだった


イリスティナ「う〜〜〜〜ん、よく寝た!シャーロットちゃんの可愛いらしさエナジーも貰ったしログアウトしようか?」


スカイ「可愛いらしさエナジー?何それ」


イリスティナ「疲労回復効果がある!」


スカイ「無いわよ!そんな効果は!」


イリスティナ「え〜〜〜〜!おかしいな、世の中のパパやママはそう言ってるけど?」


スカイ「それは可愛い我が子の事でしょ?シャーロットちゃんはイリスティナの子供じゃ無いわよ!」


イリスティナ「オ〜シット!うっかりしてた、そうだった私の旦那様だったわね!」


スカイ「わ、私の旦那様って!何言ってんのよ!誰がイリスティナの旦那様なわけ?」


イリスティナ「もちろんシャーロットちゃんよ!」


スカイ「それ、意味をちゃんと理解して言ってんの?」


イリスティナ「もちろんシャーロットちゃんよ!」


スカイ「なんでリピートしてるのよ!壊れたラジオか!」


イリスティナ「壊れても、まだまだ使える私!」


スカイ「アホか!どんな意味よ、それは!」


イリスティナ「もちろん夜の営み?」


スカイ「なんで疑問系なのよ!って夜の営み何て言葉をシャーロットちゃんの前で言わないでよ!覚えちゃうでしょ!」


シャーロット「夜の営みって何?」


イリスティナ「女の人と男の人がね……」


スカイ「こら〜!教えようとするな!」


 スカイはイリスティナの頭にチョップをかました


イリスティナ「あいたっ!もう、ベニくんと同じ事するんだから〜」


スカイ「教えんでいい!」


 スカイはイリスティナを睨みながら、まだすぐにチョップをできる様に手刀を構えていた


シャーロット「女の人と男の人がどうするの?」


スカイ「………一緒にご飯を食べるのよ、わかったかなシャーロットちゃん?『本当の事なんて教えられないから、これで勘弁してねシャーロットちゃん』」


 スカイはシャーロットに夜の営みをぼかして伝えたが、その肝心の内容をスカイは知識としては知っているようだった


シャーロット「ご飯?そうだ、朝ごはんまだだね!」


スカイ「そうね、ログアウトしたら朝ごはんにしようか?『流石、幼女ね!ちょっと前の事何てすぐに忘れてくれるからこ言う所は安心ね』」


シャーロット「うん」


イリスティナ「スカイも、あやすの美味いんじゃない?」


スカイ「ねぇ、今違う方の上手いを使わなかった?」


   スカイはだいぶ感が鋭くなっていた


イリスティナ「気のせいよ、木の精」


スカイ「あんまりふざけてると、シャーロットちゃんと接近禁止にするからね!」


イリスティナ「そ、そんな〜殺生なワテは年貢(ねんぐ)はちゃんと収めてますから〜接近禁止だけは〜!」


スカイ「それは、いつの時代よ!今は令和よ!それに年貢を収めているって働いているの?」


イリス「お代官さま〜!お許しを〜!それとまだ就活中でごぜいますだぁ〜!働いてなどおりませぬ〜」


 イリスティナは半泣きで平謝りを繰り返していて、周りにいたプレイヤーの注目を集めていたのでスカイは慌ててしまっていた


男性プレイヤー「はははっ!何だアレ時代劇かよ!www」


女性プレイヤー「時代劇でも就活中何て、聞いた事ないけどねWWW」


 周りの野次にスカイは顔を赤くしていた


 イリスティナのこの茶番劇に終止符を打って早くこの場所から去りたいと、ある条件を提示して終わらせようとした


スカイ「だ、誰がお代官さまよ!わかったわよ!接近禁止は無しにするわよ………ただし!変な事をシャーロットちゃんに教えない事これが条件よ!『こんなに注目されてて恥ずかしいじやないのよ!』」


イリスティナ「それはもう、お代官さまに従いますとも!ありがたや〜ありがたや〜ナンマンダブ!ナンマンダブ!」


スカイ「ちょっと、拝まないでよ!もう!『う〜〜〜〜!あたし達はただでさえ目立つのに、イリスティナのアホ〜!』」


 女性プレイヤーが3人集まっているだけでも相当目立ち、それぞれのアバターがシャーロットは幼女のエルフである事やイリスティナが割りと美形でスタイルもいいしスカイもそこそこの美人であったのでさらに注目されていた


 目の保養になるほどの美少女1人と美人2人がいるのだから注目されない方がおかしかったのだ


 なんとか茶番劇を終わらせたスカイは、まずシャーロットをログアウトさせてからイリスティナを置き去りにする様に自身もログアウトした


イリスティナ「あ〜!ずるいよ!何も言わずにログアウトする何て〜!」


 そしてイリスティナも後を追うようにログアウトをしてその場にはもう誰もいなくなった





 ちょうどお昼を過ぎた頃、ここはとある探偵事務所


         コンコンッ


 事務所のドアがノックされて中の探偵と思われる男性が(こた)えた


???「ドアは空いてますよ」


 ガチャっと音をたててドアが開き、探偵事務所に1人の人が(おとず)れた


??「あの〜こちらは探偵事務所で間違いないですか?」


???「そうですが、ご依頼ですかなお嬢さん」


 よくある漫画みたいな探偵事務所に、割りとダンディな中年男性がいた


 探偵事務所の内装はとても綺麗にされていて、清潔感があり好印象が持てる感じだ


 中年男性は中に着ているYシャツもしわひとつみあたらずにビシッとしたスーツ姿で決めていた


 そしてダンディズムな探偵は依頼者と思われる少女を事務所内に招き入れた


??「あの、探して欲しい人がいるんです」


 ダンディな男性にお嬢さんと言われたこの少女は、人を探して欲しいのだと依頼して来たのだ


???「まずはこちらのソファーにお座りください」


 ダンディな男性はとても紳士的で立ったままの少女に座るように促した、そして少女は言われるがままソファーに座った


???「それではお互いに自己紹介をしましょうか、私はこの探偵事務所の所長を務めている璃治綿(りじめ)源太郎(げんたろう)です」


 璃治綿源太郎と名乗ったダンディな男性は、少女に名刺を差し出した


 その名刺には探偵事務所の住所や郵便番号と事務所に繋がる電話番号それと【探偵 璃治綿源太郎】の名前が中央に印刷され、他にもホームページへアクセスするQRコードなどがあった


 名刺の裏には調査例などが書かれていて、紛失物捜索や不倫調査と行方不明者捜索などの依頼例が細かく印刷されていた


??「私はの名前は宇城(うしろ)羽琉(はねる)と言います」


 少女は差し出す名刺が無いので、代わりに学生証を見せて来た


 学生証には通っている中学校の名前と住所などが書かれていて、少女がまだ中学1年生である事がわかる物だった


源太郎「では、羽琉さんとお呼びしてもよろしいかな?」


 依頼者がどんなに幼くても真摯(しんし)に対応する源太郎


羽琉「はい」


源太郎「それでは羽琉さん、探して欲しい人の詳しい特徴などはご存知ですか?」


羽琉「いいえ、現在の姿はわかりません」


源太郎「現在の姿がわからない?失礼ですが、探して欲しい人とはどの様なご関係でしょうか?」


羽琉「探して欲しいのは、私の兄なんです」


源太郎「お兄さんですか、それならなぜ姿がわからないのですか?」


 普通なら兄と妹とは同じ家に住んでいて、姿もわかるはずなのにこの少女は兄の姿をわからないと言っていた


羽琉「兄とは幼少期に親の離婚で離ればなれになってしまいまして、今の兄の姿はまったく知りませんし苗字も母方の苗字に変わってしまって………」


源太郎「なるほど!つまり現在は一緒にお住みでは無いのですね、ではお兄さんの姿がわかりそうな写真などはお持ちですか?」


羽琉「はい、コレが唯一家にあった写真です!そしてこれが私です」


 少女が見せた写真はとても古くてお兄さんの姿はどう見ても幼児で、写真を指差して教えてくれた少女の姿はまだ赤ちゃんだった


 家族で取った物と思われる写真でそこに写っていたのは羽琉とその兄と両親で、母親が兄の手を握って並んで立ち父親が赤ちゃんである羽琉を抱いている写真だった


源太郎「この見た目では、成長具合がわかりませんね」


羽琉「なんとか探し出して貰えませんか?やっと母の所に行けたのに兄とは会えず、一人暮らしをしていると聞いたので訪ねたらもう誰も住んでいませんでした」


源太郎「もう誰も住んでいなかった?………羽琉さんはお兄さんに会って何かしたい事でもあるのですか?」


 羽琉の語った事はずいぶんと妙な話しで、一人暮らしをしているはずなのに現在は誰も住んでいないという


 しかし源太郎はその事はひとまず置いといて、兄と会った時に羽琉が何かをしたい事があるのではないかと推測し聞いてみる事にした


羽琉「父が亡くなったのでその報告と、できれば一緒に暮らしたいんです」


源太郎「お父様が………それは、ご愁傷様です」


羽琉「いえ、父の死は突然でしたから………」


 詳しく聞くのも(はば)かれるほどなんとも悲痛な表情の少女に源太郎は何も言え無かった


 身近な人の死、それは源太郎にも経験があり少女の心情は自身の胸が痛むほどわかりきっていた


源太郎「そうですか………羽琉さん、お兄さんの名前などを詳しく教えて頂けませんか?」


羽琉「私が知ってる限りならお応えします」


 源太郎は羽琉の兄が住んでいた住所と名前それと現在の年齢などを詳し聞き出しメモに書き留めた


源太郎「それでは羽琉さん、お兄さんは必ず探し出して見せますので!」


羽琉「よろしくお願いします」


 とそこへ無遠慮(むえんりょ)に事務所に、ある人物が入って来た


茶恋「パパ?もしかして依頼者?」


源太郎「なんてはしたない格好をしているんだ、茶恋!」


 茶恋はTシャツ1枚で、下は下着姿でウロウロしていた


 依頼者が少女で良かったのか悪かったのかいまいち頭が回らない源太郎は、手のジェスチャーであっちへ行けとい追い返す事しか思いつかなかった


茶恋「あ〜ズボン忘れてたよ、あはははっ!あ〜おかしい」


羽琉「………探偵さんの娘さんですか?」


源太郎「いや〜お恥ずかしい所を見せてしまって申し訳ない!」


羽琉「いえ、ずいぶんとひょうきんな娘さんですね」


 自分の娘よりもこの羽琉と言う少女の方が歳の割にはずいぶんとしっかりしている様に源太郎は思った


 茶恋はズボンとかいいながらスカートを穿いて戻って来た


茶恋「で?どんな依頼なの?パパ!」


 はたから見るとまるでパパ活にしか見えない親子のこの状況を見ても、羽琉はいっさい動じなかった


源太郎「依頼者の守秘義務があるんだ!たとえ家族でも教える訳にはいかないんだよ!」


羽琉「私は別に構いませんよ」


茶恋「ほら〜依頼者もこう言ってるし、教えてよ!パパっ!」


源太郎「いいから向こうへ行きなさい!」


茶恋「けち!パパ!略して、けパパ!」


 源太郎は父の威厳(いげん)をフルに活用して、娘の茶恋を追い返した


源太郎「羽琉さん、本当に申し訳ない!『けパパって略しきれてないだろそれは………』」


羽琉「いえ、大丈夫です」


 少々遠い目をしている少女に源太郎は何も言わずに少女に近づき、そっと頭を撫でてあげた


羽琉「え?何で頭を撫でているのですか?」


源太郎「いや〜すまない、少しでも心を癒やしてあげたくなってつい」


 やってる事は若干セクハラに近い気がして、源太郎はすぐに少女の頭から手をどけた


 父親を亡くしたばかりの少女に同情した源太郎は、頭を撫でてやるくらいしか思いつかなかったのだ


 遠い目をしていたのはおそらく亡くなった父親を思っての事だろうと、源太郎は推測していたから思わず頭を撫でてしまった


羽琉「兄も、私の頭を撫でてくれるでしょうか?」


源太郎「お兄さんと会えればいくらでもして貰えますよ!先ほども言いましたが羽琉さんのお兄さんを私が必ず探し出しますから!そう、前髪当溜くんをね」


 それをこっそり聞いていた茶恋は………


茶恋「えぇ〜〜〜〜〜!」


源太郎「なんだ、いきなり大声を出して!」


羽琉「探偵さんの娘さん、凄く驚いてますよ」


源太郎「まさか盗み聞きか?とんでもない娘に育ててしまったな…………はあ〜!」


 父子家庭(ふしかてい)で親子関係は良好だが、とてもぶっ飛んだ性格になってしまった娘の奇行に日々頭を悩ませている源太郎だった


茶恋「だって今、前髪当溜くんって言わなかった?」


源太郎「そうだが………なんだ知ってる人なのか?」


茶恋「知ってるけど、知らない!」


源太郎「は?どっちなんだ、知ってるのか知らないのかはっきりしなさい!」


茶恋「もちろん!あー………当溜くんの事は知ってるけど、居場所までは知らないよ?」


源太郎「なるほど、知ってるけど知らないはそう言う事か!ならその当溜くんにコンタクトは取れないか?」


 いくら自身が探偵でも娘の言動を推理するのは、古代言語を翻訳するくらいもの凄く困難だった


茶恋「当溜くんにコンタクト?してたかな?コンタクトレンズなんて………そもそも眼鏡してたっけ?」


源太郎「はあ〜!そっちじゃない!連絡は取れないのかと聞いているんだ!」


 コントの様な親子のやり取りにも羽琉は、くすりとも笑わなかった


茶恋「なぁ〜んだ、そっちか!連絡ね………ごめん知らないや!」


源太郎「ならその当溜くんには、どこに行けば会えるんだ!」


茶恋「会うの?パパが?何で?」


源太郎「いいから教えなさい!」


茶恋「ん〜とね、ゲームの中なら会えるよ」


源太郎「ゲームの中?どんなゲームなんだ?」


茶恋「VRヘッドギアが必要な、MMORPGゲームの【忘却のイディア】ってゲームだよ」


羽琉「VRヘッドギア?MMORPGゲーム【忘却のイディア】…………それはどうしたらゲームができますか?」


源太郎「まさか羽琉さん、ゲームの中でお兄さんを探すつもりですか?」


 源太郎が見た感じでは羽琉はVRゲームと言うよりは、言動からしてゲームそのものをやった事が無い様に思えてならなかった


羽琉「それが唯一、兄と会えるなら私はどこにでも行きます」


 兄に会う為だけにまったくゲームをした経験が無い羽琉が無謀にもゲームをしようとしているのだから恐れ入る所ではあるが、このままでは本当にVRのゲームに入り兼ねない羽琉を見た源太郎は頭をフル回転させて名案を捻り出し茶恋にそれを聞いた


源太郎「茶恋、他に連絡する方法は無いのか」


茶恋「そうだね〜スカイちゃんかベニくんに連絡を取れば現実でも会えるかもね………」


源太郎「スカイさんにベニくんだな、なら連絡を取ってくれないか?『何だ?名前からして外人か?』」


 源太郎はゲームをやらないのでプレイヤーの名前とは知らずに名前で外人だと思っていた


茶恋「別にいいけど、お小遣いアップよろしくね〜パパ!」


源太郎「許可した覚えは無いが、仕方ないか………『茶恋よ、バイトをすると言う考えは無いのか!』」


羽琉「もしかしたら、もうすぐに兄に会えるかもしれないなんて夢みたい」


 羽琉は涙を流して喜んでいたが、源太郎は少々複雑だった依頼を受けたのにその依頼が無かった事になってしまったのだから


 事務所から1ミリも動かずに依頼が完遂する事は、まず無い事だろうと源太郎は思っていた


源太郎「こちらの不手際で情報漏洩(ろうえい)がありましたので依頼料は頂けませんが、代わりにお兄さんに必ず会わせると約束します」


 源太郎は行方不明者の捜索依頼が入りその依頼を受けたが、情報が漏れそこから行方不明者に繋がるという不可思議な状況になってしまい謝罪と依頼料は受け取れないと羽琉に伝えたのだが………


羽琉「いいえ、依頼料は支払います」


 涙をハンカチで拭いながら羽琉はそう言って、決意ある瞳で源太郎を見つめた


源太郎「………それでは、こうしましょう依頼料の4分の1を支払って貰うと言う事にいたしましょうか」


羽琉「それでは依頼したとは言えないじゃないですか!」

 

源太郎「そ、それなら依頼料の3分の1でどうでしょうか?


 この後はもはや2分の1しか無いと、源太郎は依頼料を3分の1と言ってみたが羽琉は源太郎の度肝を抜く発言をした

 

羽琉「いいえ、私は依頼料の全額を支払います!」


 なんと羽琉は全額支払うと言い出したのだ


源太郎『こんな依頼者は初めてだな………依頼料をケチるならともかく、まだ依頼が完遂していないのに全額払うと言いきるなんて………』


羽琉「それでいいですよね、探偵さん?」 


源太郎「わ、わかりましたそれで手を打ちましょう」


 結局、源太郎の方が折れて全額支払って貰うと言う形になった


源太郎『ぜんぜん依頼をこなして無いのになぁ、この羽琉という少女は結構頑固な所があるな』


 そしてようやく茶恋が事務所に戻って来て、連絡がついた事を伝えた


茶恋「パパ〜!なんとか連絡付いたけど、少し時間が欲しいって言ってるよ?」


源太郎「本当か?しかし、時間が欲しいとはいったい?」


羽琉「どれほど時間がかかってもいいと、お伝えしてください」


茶恋「OK〜!」


 茶恋は連絡の為にまた部屋に戻り、残された源太郎と羽琉はただ待ち続けて時間だけが過ぎしばらくすると茶恋が事務所に戻って来た


茶恋「とりあえず、半日待って欲しいって言ってたよ!だから明日くらいだね」


源太郎「半日?何で半日なんだ?」


茶恋「ん〜、いろいろあるみたいでねスカイちゃんに聞いたらベニくんと連絡が取れたらこっちに連絡くれるって言ってたよ」


羽琉「…………でも、なぜ兄は連絡できないのでしょうか?」


源太郎「確かにそうだな、茶恋は知っているんだよな?当溜くんの事を」


茶恋「私が知っているのは小学生の頃のあーちゃんよ!」


源太郎「あーちゃん?当溜くんの事か?」


茶恋「そう!そうなの!あーちゃん私の大好きな、あーちゃんよ!」


羽琉「あーちゃん?あの、茶恋さんは兄とはどんな関係だったのですか?」


茶恋「同じ小学校に通った仲だよ!年は離れていたけどね♡もの凄く可愛い男の子だったよ」


源太郎「あーちゃん………前髪当溜……まさか!同一人物だったのか!」


羽琉「え?同一人物?何の事ですか?」


源太郎「昔の事過ぎて忘れていたなんて、前髪当溜くんに私は会った事があったんだよ過去でね」


 源太郎は過去であーちゃんに会っていた事を思い出した


茶恋「あーちゃんとパパは会った事あったっけ?」


源太郎「茶恋が知らないのも無理は無いさ、あの日は酷いどしゃ降りの雨でひと晩あーちゃんを家に泊めただろ?その時の夜中にばったりと会ったんだよ!それになんせお前は寝てたからな」


 源太郎が夜中にトイレに起きた時に同じようにあーちゃんもトイレに向かっていて、そして用を済ませた後に2人で話しをしたのだと語った


源太郎「彼が当溜くんだったとはな、正直驚きを隠せないな」


羽琉「その時には兄と何を話したのですか?」


源太郎「そうですね、好きな子はいるのかとか友達とは仲良くしてるかとかそんな会話でしたよ」


羽琉「兄は何て応えてましたか?」


源太郎「好きな子はいると言っていましたよ、それから友達とは仲良くしているけど他の友達同士が喧嘩をしている姿を見るのが嫌だと言ってましたね」


羽琉「そうですか、兄は好きな子がいて友達同士が喧嘩するのは嫌だと言っていたのですね」


 羽琉はほんの小さな情報だったけど、僅かに兄を知る事ができたので嬉しく思っていた


源太郎「おそらくは現在は、好青年になっているだろうな」


羽琉「兄は私を覚えてくれているでしょうか?」


源太郎「彼が羽琉さんと離ればなれになったのは幼少期の頃だったのでしょう?たとえ覚えて無かったとしても、これから思い出を沢山作れば問題は無いはずですよ」


羽琉「そう……ですね、会う前からそんなんじゃ駄目ですよね」


源太郎「羽琉さんの様な妹さんがいるなら、お兄さんはきっと誇らしく思うでしょう」


羽琉「私は誇れるほど何かをした事はありませんが、探偵さんが言うならそうなんでしょうね」


源太郎「探偵と言っても、それほど頭の回転が早いわけでも無く依頼をミスしてしまう事もありますよ」


羽琉「それほどビシッと決めているのにですか?」


源太郎「探偵といえどもダダの人間ですよ、ミスもするし娘の奇行に日々悩まされるなんてザラにありますしね」


羽琉「ふふふっ、探偵さんの娘さん面白いですよね」


源太郎「やっと、笑ってくれましたね」


羽琉「え?」


源太郎「ずっと塞ぎこんだ表情だったのでね、それに探偵の一番の報酬は依頼者の笑顔なのでね」


 源太郎はちょっとクサイセリフかなと思いながらも、ずっと引っかかってた少女の表情が変わったのでつい嬉しくてそんな事を言ってみた


羽琉「私の表情………そうですね、確かに塞ぎこんでいたかもしれません」


源太郎「まぁ、本来は依頼を達成した後に依頼者の笑顔が見られるのであれば私は満足なんですが………今回は順番があべこべになってしまったのでね」


羽琉「依頼者の笑顔が報酬………なんか素敵ですね」


源太郎「娘の茶恋は、なんかパパキモいとか言いますけどね」


羽琉「そういう探偵さんって、なかなかいないと思いますよ」


源太郎「そう言って貰えるのは有り難いですよ」


 羽琉はソファーから立ち上がり帰る準備をはじめていた


羽琉「それでは私は帰りますね」


源太郎「先方から連絡がありましたら、先ほど書いて頂いた電話番号にこちらから連絡を致します」


羽琉「はい、よろしくお願いします」


    それから羽琉は帰って行った



 源太郎は椅子に腰かけてひと息ついていた


源太郎「ふ〜やれやれ!依頼が着手前に解決しそうになったかと思えば依頼者のお嬢さんは全額支払うと言うし、こんな依頼は今まで経験がないな………」


 源太郎は依頼料が貰えるのは正直嬉しいが、本来なら受け取り拒否をしなければならなかったのだから内心はとても複雑だったが依頼者がそれでいいと言えば納得するしかなかった


茶恋「あれ?依頼者の女の子は?」


源太郎「羽琉さんか?帰ってしまったが?」


茶恋「そっか〜紅茶入れたんだけどなぁ〜」


源太郎「遅すぎずだろ!」


茶恋「まぁ、いっか!」


源太郎「まぁ、帰ってしまったしな仕方ないな」


 茶恋は手に持ったお盆から入れて来たという依頼者の少女の分と源太郎の分の紅茶2つをテーブルに置いて、それを茶恋自身が飲んでいた







 一方、羽琉が探偵事務所から帰った時刻からだいぶ時間が過ぎただいたい夕方過ぎ頃


萃香「え〜〜〜〜!なんで、妹?当溜に?聞いて無いよそんな事は!」


 萃香は(なか)ばパニックになっていた


あゆむ「どうかしたの、萃香お姉ちゃん?」


萃香「え?あっうっそのえ〜と、なんでもないわよ」


 萃香の受け答えは完全にしどろもどろだった


あゆむ「なんでもないの?」


萃香「だ、大丈夫だからね!向こうで遊んでいていいよ」


あゆむ「うん、わかった」


萃香『紅優〜!早く連絡して来てよ!』


 萃香は紅優にREONでメッセージを既に20通以上送っていた


         ピロん


萃香「来た!えっと?何このわけのわからない顔文字は………」




 紅優が送ったREONの文面はこうだった




        〘_| ̄|○ il||li〙




萃香「察するに………下手こいた?違うわね、気持ち悪い?これもちょっと違うわね………あっ妹がいたのか!って事でショックを受けているって事?」


         ピロん


      〘Σヽ(`д´;)ノ うおおおお!〙


萃香「なんなのよ!いつもみたいに言葉で送って来なさいよ!こんなんじゃわからないわよ!」


 萃香はついにブチキレて、紅優に直接電話をかけた


      トルルルルットルルルルッ


萃香「もしもし、紅優?なんなのよさっきから!顔文字じゃわからないわよ!」


紅優「「すまん、ついさっきREONを見てびっくりしてな!普段使わない顔文字にしてしまったんだ」」


萃香「それで?紅優は当溜に妹がいるって知ってたの?」


紅優「「まさか!知ってるわけないだろ!そんな話しもした覚えが無いしな」」


萃香「妹さんが会いたいんだって、どうするの?」


紅優「「そりゃあ、家族なら合わせてやるしか無いだろ?」」


萃香「でも幼女化してるし記憶も無いし、そこはどうするの?」


紅優「「ありのままの姿と、今までの事を言うしか無いな………」」


萃香「とりあえず半日待ってて、ちゃこ姉ちゃんには言ったけどね」


紅優「「まさか親父さんが探偵事務所をやってるなんてな、まったく聞いて無かったぞ!そんな事は………」」


萃香「………それよりちゃんと寝れたの?」


紅優「「あの後薬局に行って睡眠薬を購入したからな、ちょっと前までぐっすりだったよ」」


萃香「そう、寝れたのならいいわ………それとよくも放置してくれたわね!あの後大変だったんだたらね!」


紅優「「悪かったよ!眠くてそうするしか無かったんだ!」」


萃香「ねぇ、半日待って貰うんだから何か準備とかした方がいいのかな?」


紅優「「準備?何の準備だ」」


萃香「幼女化した説明とか、それと敵の事もどうするの?」


紅優「「幼女化の資料は以前に調べた事を編集し直しておくが、敵か………もう当溜は狙われないと俺は思っているよ」」


萃香「どうして狙われないの?」


紅優「「既に役目を終えてるからな、記憶を抜き取るという事だったがなこれ以上狙われる確率はパーセンテージでいえば15%くらいだな!」」


萃香「15%?なんでその数字なの?」


紅優「「もしまだ狙うなら、今度は身体ごと奪われるとしか思えないからな」」


萃香「身体って、なんか響きがエロイわね」


紅優「「そういう意味じゃない!丸ごと奪われるって言ってるんだよ!」」


萃香「わかってるわよ!そんな事は、でももし狙われたらあたしだけじゃシャーロットちゃんを守れないわよ」


紅優「「まぁ、そうだなゲームはともかく!現実にも奴は現れ兼ねないからな!」」


萃香「もしそうなったら、勝ち目なんてまったくないよ………」


紅優「「そこもとりあえず考えておくしか今の所手は無いな」」


萃香「できれば、もっと仲間が欲しいわね」


紅優「「もっと仲間?………それだ!」」


萃香「え?それって?」


紅優「「仲間を増やして、対抗するのが正しい攻略法だ!」」


萃香「仲間を増やす?どうやって?」


紅優「「ゲームでも現実でも仲間を増やして、対抗手段を固めるんだよ!」」


萃香「だから、その肝心の増やす方法を聞いてるのよ!」


紅優「「具体的には決まってないが、協力者を少しずつでも増やしていくには今現在に脅威が迫っている事を知って貰えばいいんだよ」」


萃香「脅威?それってマキシリオンの事よね?」


紅優「「奴の映像はある」」


萃香「え?いつの間に………」


紅優「「以前に幼女化したプレイヤーが使った手と同じ手を使ったんだよ」」


萃香「同じ手って?」


紅優「「アプリだよ、VRゲーム内を撮る事ができるアプリ」」


萃香「アプリ?そんなのどこで使っていたのよ」


紅優「「例の謎の物体に突入する時にな」」


萃香「でもアレは現実から入ったじゃない、ゲームではないでしょ?」


紅優「「ものは試しってね、そしたらバッチリと映っていたよ奴の姿がな………ただ音声は撮れて無かったけどな」」


 紅優はマキシリオンの姿を映像に収めることに成功していて、それを仲間増やしの為に使うと言うのだから驚きを通り越してもはやクレイジー過ぎると萃香は思っていた


萃香「ちゃこ姉ちゃんに連絡するのは、あたしのままでいいの?」


紅優「「そうだな、俺からよりは萃香の方がいいだろと思うよ」」


萃香「わかったわ」


紅優「「当溜の妹か………どんな娘かな?可愛いかな?」」


萃香「それは会ってみないとわからないわよって、可愛いかったらどうするつもりなの?」


紅優「「まさか、俺が口説くとか思ってないよな?」」


萃香「紅優には前科があるしね!」


紅優「「前科?なんだそりゃ!」」


萃香「…………自覚してないならいいわよ『どうせ言ったってわからないだろうしね』」


紅優「「何かあるなら言ってくれ!」」


萃香「自分の胸に聞いてみたら?」


紅優「「…………『萃香のこの返しは怒っているのか?』」」


萃香「編集しないといけないんでしょ?」


紅優「「あぁそうだな、それじゃあ編集が終わったらそっちに連絡するよ『怒ってはいないのか?』」」


萃香「それじゃ明日ね」


紅優「「あぁ、また明日な」」


 紅優との電話を切った萃香はどっと疲れが出ていた


 萃香は早朝にベニからのメッセージで起こさてゲーム内で新装備を整えて、イリスティナ=茶恋に会いしばらくしてから現実に戻って来た


 そしたら茶恋の家兼探偵事務所に当溜の妹が現れて茶恋から萃香に連絡が来てなんとか時間を貰い猶予が与えられた


 しかし紅優と連絡がなかなかつかずやっと繋がったらいろんな事を聞かされて、萃香はもう既に頭がヒートアップしていた


萃香「なんか疲れた〜」


   するとそこへあゆむがやって来た


あゆむ「萃香お姉ちゃん、お風呂はまだなの?」


 時間的にもうお風呂の時間で、まだ浴槽すら洗っていなかった萃香はうなだれかけたが自身の心に鞭を打って準備をするからねと言って風呂場へ向かった


萃香「まさかお風呂を催促されるなんてね………綺麗好きなのはいいけど、ちょっとくらい休ませて欲しかったな〜コレじゃ身体が持たないよ………」


 あゆむが萃香の家に来てだいぶ日数が経ったが、以前の様な一人暮らしではないのだと改めて実感した萃香はかなり疲れが溜まっていた


萃香「もう1人誰かが入れば楽なのになぁ〜誰かいないかな?『紅優?駄目よ!ここは男子は無しで!あゆむちゃんは例外だからいいとして………ちゃこ姉ちゃんとかは?………あんなぶっ飛んだ人がここに来たらもっと疲れるわよ!無しで!』」


 その他の真央や里麻を思い浮かべたが、やはり無理だと判断した萃香だった


萃香「妹かぁ〜!あたしも一人っ子だしなぁ………それに今はあゆむちゃんが妹みたいな感じだから、結果的に妹がいるみたいになっているもんね」


 お風呂を洗い終わって今は浴槽にお湯を貯めているのでしばらくかかる


萃香「晩ごはんはウーサーイーツでも頼もうっと」


 アプリを起動して頼む料理を選んで送信したので届くまで待たなければならないが、だいぶ手を抜けるのは今の萃香には有り難かった


あゆむ「お風呂は?まだなの?」


萃香「もう少し待ってね」


あゆむ「うん」


萃香『本当にこうして見ると幼女そのものね………』


 萃香がもう少し待ってと言ったら、あゆむはリビングに戻りテーブルの上でノートにお絵かきをしていた


萃香『初めて一緒にお風呂に入った時はまだ当溜の記憶が残っていたから楽だったのね………もしもずっと幼女の姿のままでも当溜の記憶だけは取り返したいなぁ〜』


 萃香は当溜がたとえ幼女の姿から元に戻れなくても記憶だけでも取り戻したいと強く願っていた





 そして翌日になり早朝に紅優から連絡を貰った萃香はすぐに茶恋に連絡した


 現在の時刻は朝の8時半を過ぎた頃で紅優と萃香それにあゆむの3人は外で合流して探偵事務所の前までやって来ていた


 ちなみにぬいぐるみ達はやはりあゆむが背負ったリュックにひっそり忍びこんでついて来ていた


 探偵事務所は同じ市内だったので探すのは比較的に楽だった


紅優「ここが璃治綿探偵事務所か………漫画みたいな所だな」


萃香「既に中で待っているみたいだから、行きましょう」


あゆむ「ここはどこなの?」


萃香「あ〜そうね、説明して無かったわね………え〜とねイリスティナは覚えてるかな?あゆむちゃん」


あゆむ「イリスティナお姉ちゃん?うん覚えているよ」


萃香「ここはね、そのイリスティナの本当の家よ」


あゆむ「じゃ会えるの?本当のイリスティナお姉ちゃんに」


萃香「そうよ」


あゆむ「じゃあ早く行こうよ」


紅優「本当に無邪気だな………」


 そして3人は事務所のドアの前に立ち、萃香がノックをしたら中から茶恋が飛び出して来た


茶恋「あゆむちゃん〜!会いたかったよ!」


 突然茶恋に抱きつかれたあゆむはびっくりした顔をしていたが、声でイリスティナだとわかると微笑んで見せた


萃香「い、いきなり抱きつかないでよ!あゆむちゃんが驚いてたでしょ!」


紅優「現実でもイリスティナ状態だな………」


あゆむ「イリスティナお姉ちゃん、お姉ちゃんの本当の名前はなんて言うの?」


茶恋「璃治綿茶恋よ!ちゃこ姉ちゃんって昔みたいに呼んでいいからね」


源太郎「こら、茶恋いつまでそんな所にお客様立たせているんだ!事務所の中に入れて差し上げなさい!」


茶恋「はあ〜い!こっちよ」


 茶恋に招き入れられて事務所内に入ると、そこにはダンディズムな男性と中学生くらいの少女が待っていた


源太郎「茶恋、紹介してくれないか?」


茶恋「OK〜!こっちがスカイちゃんで、そっちがベニくんでそしてこの娘がシャーロットちゃんよ」


紅優「いや!待てくれよちゃこ姉ちゃん、それで通じるのか?」


源太郎「茶恋、どう見ても日本人じゃないか!彼らの本名を教えなさいと言っているんだ!」


萃香「あの〜それなら、あたし達の方から自己紹介しますね!あたしは小玉萃香と言います」


紅優「俺は大森紅優と言います」


萃香「それでこの娘はあゆむちゃんと言いますが、ちょっとわけがありまして偽名です」


源太郎「偽名?それはなぜ………いや、その前に私とこちらのお嬢さんの自己紹介をしましょう」


 源太郎は本題に入る前にどんな場面でも自己紹介をお互いにするのが大人のマナーであるという信条で自己紹介を始めた


源太郎「私はここの璃治綿探偵事務所の所長を務めている璃治綿源太郎と言います、そしてこちらのお嬢さんは………」


羽琉「いえ、探偵さんそこは私が自分で自己紹介します」


源太郎「そ、そうですね」


羽琉「私は宇城羽琉と言います、行方不明の兄を探して貰う為に璃治綿探偵事務所を訪ねました」


 源太郎は立ち話もなんだからと応接用のソファーに全員に座って貰った


源太郎「さっそくですが、まずは前髪当溜くんは今現在どちらにいらっしゃいますか?」


 源太郎は単刀直入に羽琉が一番聞きたい事を聞いた


萃香「その〜、目の前にいるのですが………」


源太郎「は?目の前にいるとは、どこに?」


紅優「この娘ですよ」


 紅優はあゆむを指差した、その瞬間だった突然テーブルを叩いて羽琉が声を荒らげた


羽琉「ふざけないでください!どこからどう見ても、まだ子供じゃないですか!それにその娘は女の子ですよね?」


 羽琉の言う事は誰が見て正しかったが、紅優と萃香にとってはそれは真実では無かった


紅優「ふざけてなんかいません」


萃香「そうなんです、本当の事なんですよ」


 紅優と萃香は真剣な表情だが、羽琉はあまりにも嘘が下手過ぎると思い言葉を失った


 しかし、羽琉はある事を見てしまった


 あゆむが羽琉に対して怯えた表情をしていた事に、そしてその表情を見た羽琉は自身がテーブルを叩いた事でそんな表情を見せているのだと気づいて少々胸を痛めた


源太郎「そうですか…………ではこの件は警察に介入して貰うしかありませんね」


紅優「警察!なんで警察なんですか?」


萃香「そうですよ、ここにちゃんといるのに!」


源太郎「紅優くんそれと萃香さん、私の見立てでは君達2人には誘拐(ゆうかい)(およ)拉致監禁(らちかんきん)の疑いがあります」


紅優「誘拐?」


萃香「拉致監禁って!」


源太郎「ここに前髪当溜くんが来なかった事と、それと君達は虚偽(きょぎ)の言葉で私や羽琉さんを(だま)そうとしているのではありませんか?」


紅優「俺達は騙そうだなんて思って無い!」


萃香「本当の事なんです、信じてください!」


源太郎「では、前髪当溜くんをここに連れて来て貰えませんか?」


紅優「だから目の前にいると何度も言ってるじゃないか!」


萃香「紅優………駄目よ、この人には通じないのよどれほど本当の事を言ってもね…………」


    そこへ茶恋が口をはさんだ


茶恋「パパ酷いよ!2人を誘拐犯とか拉致監禁とか、いい加減にして!」


源太郎「だがな、ここに当溜くんが来ないならそうなるだろう?」


茶恋「2人が嘘をついているって、なんで決めつけるの!」


源太郎「それならどうすればいいと言うんだ!」


羽琉「あの探偵さん、もう少しお2人の話しを聞いてみませんか?」


 茶恋の直談判と羽琉の提案でとりあえずは警察沙汰は免れた紅優と萃香だが、源太郎はすぐにでも警察に通報する準備を密かに進めていた


源太郎「まぁ、羽琉さんがもう少し聞きたいと言うのであれば、私の方からは異存はありませんよ」


羽琉「ありがとうございます探偵さん、それでは紅優さんと萃香さん話しを続けましょうか!それと………さっきはごめんねあゆむちゃん」


あゆむ「もう怒ってないの?」


羽琉「もう怒ってないよ」


  羽琉はあゆむに笑顔でそう答えた


紅優「こちらとしてはありがたいです、それでは俺が調べた情報と映像がありますのでこちらを見て頂きたいのですが…………あまりにもショッキングな映像なので目をそらしてもらっても構いません」


 紅優は持参したノートPCを起動して、例の幼女化したVRゲームプレイヤーが収容されている児童養護施設の映像と編集し直したネット記事を源太郎と羽琉に見せた


羽琉「え?何、そんな嘘…………こんな事って!」


源太郎「この幼女はベッドから起き上がらないな…………馬鹿な!何故ずっと眠った様にぴくりとも動かないんだ!」


 後から覗きこんでいた茶恋も映像を見て青ざめた顔をしていた


茶恋「…………こ、こんなの酷いよ」


 萃香は思い出していた幼女がベッドから起き上がらずに何日も過ぎて行ったあの映像を………


萃香「………」


紅優「萃香?顔色が悪いが、大丈夫か?」


萃香「え、えぇ大丈夫よ」


紅優「あんまり無理するなよ」


源太郎「あ、あり得ない事だ!こんな事が本当にあったのか?」


紅優「その映像ならネットに公開されているので検索すれば誰でも見れますよ」


羽琉「この映像とそしてそちらのあゆむちゃんはどう繋がるのですか?」


紅優「ここからが本題です、当溜はVRベッドギアを使ってゲームをしただけなのに幼女化してしまったのです」


源太郎「ゲームで幼女化?そんな馬鹿な!何かの間違いじゃないのか!」


 源太郎は冷静な判断ができず、思わず娘に言う様な言葉使いをしてしまっていた


紅優「間違いではありません、実際に俺と萃香は幼女になった後の当溜と会話をしましたから………」


羽琉「でも、今のあゆむちゃんはまるで本当の幼女みたいですけどそれはどうしてですか?」


紅優「現在の当溜は………記憶を奪われてしまったんです」


源太郎「記憶を奪われた?誰に奪われたと言うんだ!」


 もはや源太郎は冷静さを失って、乱暴な言葉使いになっていた


紅優「俺達の敵です」


羽琉「敵って………」


源太郎「その敵の名前は!どんな姿で!今どこにいる!」


茶恋「ちょっと、パパ落ちついてよ!」


 源太郎はただのダンディな中年男性ではなく、以前は警察に務めていた事もあって人一倍正義感が強かったのだ


  あれはまだ茶恋が幼い頃の事だった


 茶恋の母親が病気になってしまった時に一時的に源太郎は警察から離れて、妻の病気療養の為に家族で田舎まで引っ越した


 しかし高額な医療費を払い続けても治療の効果はほとんどみられずにどんどん衰弱していき治療開始から僅か1年で、源太郎の妻は亡くなってしまって残されたのは源太郎と茶恋の2人だった


 源太郎は妻の病死をキッカケに警察を辞めて現在の場所に探偵事務所を開き今まで娘の茶恋を男手ひとつで育ててきたが、ここまで激怒したのはその刑事だった時以来だった


茶恋『こんなパパを昔見た事あったけど、最近は無かったはずだよね?』


源太郎「すまない、つい興奮して昔の刑事の血が騒いでしまいました………それでその敵と言うのは名前などはご存知で?」


紅優「え、あぁ………そいつの名前はマキシリオンって言います『刑事?以前は警察に務めていたのか…………(どお)りで誘拐だの拉致監禁だのすぐ出るわけだな』」


 紅優は少々ビビっていた、まさか温厚そうな源太郎がここまで激怒するとは思っていなかったのだ


源太郎「マキシリオン?ソイツもゲームでのの名前か!」


萃香「いいえ違います、ゲームではありません」


羽琉「ゲームではありませんって、それなら現実にいるのですか?」


紅優「俺や萃香はまだ奴をこの現実では見てはいませんが、奴はこう言ったそうです「お前達の基準で言えば紛れもなく、俺様は地球外生命体だ!」と俺の仲間が直接聞いたので間違いありません」


 いつの間にか紅優の中では、黒鎧が仲間の位置になっていた


源太郎「地球外生命だって!そんな知的生命体が、なぜゲームをしているプレイヤーを幼女にしているんだ?」


紅優「奴は記憶で世界を変えると言っていたそうです」


羽琉「記憶で世界を変える?そんな荒唐無稽(こうとうむけい)な事、できるわけが無いじゃないですか!」


紅優「奴の持つ科学力は地球の科学力を上回っているようですから、できないとは言い切れません」


源太郎「その科学力で当溜くんや他のゲームプレイヤーを幼女化したと、そう思っているのか?紅優くん」


紅優「それしか原因が見当たりませんから」


源太郎「信じられんが、確かにこうして目の前にいるわけだしな………しかし記憶とはどれほどの記憶を奪われたのかはわかるかい?」


 会話の中でようやく平静(へいせい)さを取り戻した源太郎は口調がだいぶ戻っていた


紅優「当溜の16年間の記憶だけでしたよ、幼女化した後の記憶は残っていましたからね…………ただ知識がほとんど無いゼロの状態ですけどね」


源太郎「知識がほとんど無いゼロの状態か、確かにそんな感じだな…………」


紅優「それとこれを見てください」


 紅優はノートPCを操作してある映像を源太郎と羽琉に見せた


紅優「この映像の中央にいる奴、これがマキシリオンの姿です」


源太郎「こいつがマキシリオン!普通の人間の様に見えるが………」


羽琉「この人が兄を幼女にしたのですね?」


紅優「えぇ、直接ではないけど間違いないと断言できます」


茶恋「変な人だね、ずっと笑っているし」


源太郎「この映像には音声とかは?」


紅優「俺も慌てていたのでそこまでは気が回らなかったので音声は撮れてませんでした」


源太郎「声が聞ければ分析など依頼する事もできたが………仕方ないか」


羽琉「あの紅優さん、兄は元に戻せるのですか?」


紅優「俺達も元に戻す為にゲームにログインしたりしてますが、今の所何の手掛かりも無くて………申し訳ない『あるにはあるが幻のアイテム何て言ってもわからないだろうしな』」


 紅優の望んでいる幻のアイテムはまだ誰も手に入れた事がない物なので、ここでは伏せる事にしておいた


羽琉「いえ、紅優さんが謝る事ではありませんよ」


源太郎「紅優くんそれと萃香さん、先ほどは君達を疑ってすまなかった!」


   源太郎は頭を深々と下げて謝って来た


紅優「顔を上げてください!確かに冷静に考えれば俺や萃香は、誘拐犯で拉致監禁の疑いがかけられるのはあたり前ですよ」


源太郎「だが、1人の大人として間違った判断をする所だったんだ!」


萃香「それでもちゃんと話しを聞いてくれたじゃないですか」


羽琉「探偵さんばかり謝るのはおかしいですよね、私も謝りますごめんなさい」


あゆむ「ごめんなさいしたら、もう仲直りだよ!」


 あゆむの一言でその場には笑い声が広まった


紅優「どこでそんな事覚えたんだ?あゆむちゃん」


萃香「たぶん、教育番組ね最近夢中で見てるのよ」


源太郎「幼女なら確かに教育番組が一番だな」


羽琉「知識を吸収する早さは、まるで水分の無いスポンジみたいですね」


紅優「覚える速度はそんな感じかもしれないな」


茶恋「そこが唆るでしょ?」


あゆむ「唆るって何?」


源太郎「こら!茶恋、変な言葉を教えようとするんじゃない!」


茶恋「変な言葉じゃないよ!」


羽琉「唆るって言うのはね、興味深いって事なんだよ」


あゆむ「興味深い?」


羽琉「あゆむちゃんにわかり安く言うとね、アリさんが歩いていたら見ちゃうでしょ?」


あゆむ「アリさんどこ?」


羽琉「あゆむちゃんは、今なんでアリさんを探しているの?」


あゆむ「アリさんいるんでしょ?」


羽琉「ごめんね今はいないの、でもアリさんがいるって聞いたから探していたんだよね?」


あゆむ「うん、そうだよ」


羽琉「それが興味って事なんだよ」


 羽琉はあゆむに優しく教えてあげていた


紅優「凄いな………俺もへたげな事は言えなくなったしな」


萃香「覚えちゃうからね〜!特に誰かさんの言葉は覚え安いのかな?」


紅優「俺は難しい言葉を言ってるつもりだけど?」


源太郎「まぁまぁ、2人共そこまでにして貰えないかな」


羽琉「私………兄を探してここまで来たましたけど、兄が妹でもいいかもしれないって少しだけ思っちゃいました」


紅優「あゆむちゃんは、確かに可愛いからな」


萃香「兄が妹か………」


源太郎「兄が妹で妹が姉になるなんて、この世の中どこを探してもそんなケースはありませんよ………」


茶恋「私にとっては、あーちゃんは弟で妹で旦那様よ!」


萃香「またそうやって言うだから!あゆむちゃんは、ちゃこ姉ちゃんの旦那様じゃないって言ってるでしょ?」


茶恋「弟と妹って事は言っていいの?」


萃香「年齢的にはそれは正しいけど、実際は弟でも妹でも無いからね!」


茶恋「年齢!このままあーちゃんが年頃になったら、私はおばあちゃんって事?」


萃香「今のままなら、そうなるよね」


茶恋「が〜〜〜〜ん!」


紅優「萃香、それ正論過ぎだぞ!」


源太郎「まぁ、間違ってはいないから問題はありませんよ」


茶恋「…………それでもおばあちゃんは頑張って、あーちゃんと一生涯生きて生きたいとここに誓います!」


紅優「ブレねぇな………」

 

 どうあっても「めげない・逃げない・曲げない」というスタンスを崩さない茶恋だった



イリスティナと言う強烈なキャラと、そして現実では当溜くんの妹ちゃんが登場しましたね

次回はVRゲームとはなんですか?です

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素人の作品です   


           福望華雫でした

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