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波乱の初夜 ③

「つまり、これまでの貴方の発言を要約しますと、白い結婚にするつもりはないけど初夜は待って欲しい、そういうことですわね?」


ハリエットがそう言うとルキウスは大真面目な顔をして鷹揚に頷いた。


「そうだ。初夜とは夫婦にとって特別なもの。それを責務や打算で行うべきではないと僕は思うんだ」


イラ……


としたが、ハリエットは努めて冷静にそれに反論する。


「責務や打算、よろしいではありませんか」


政略結婚なのだから。


「いやよろしくないよ。少なくとも僕はこんな心境で女性に触れることは出来ない」


イライラ、


「私がそれでいいと申しておりますのに?」


「僕が無理なんだ」


イライライラ、


「殿方は愛がなくても女性を抱けるのでは?」


「それは一部の(人間)だよ」


イライライライラ、


「そうでしょうか?生殖本能のなせる技であるなら全ての男性が可能なのでは?従って貴方も……」


「僕はそんな野獣ではない」


ブチッ、


イライラを抑えつつもルキウスとの会話の応酬を重ねていたハリエットの堪忍袋の緒が切れた。

生来短気で男勝りな性質(たち)なのである。


ハリエットはあの日、初顔合わせの日にルキウスの祖父が目の前で繰り出した、東方の国の最上級の怒りの表現を咄嗟に真似て行動に出た。

伝家の宝刀、ちゃぶ台返しである。


「えーい!ててーいっ!」


ハリエットはルキウスとの間に置かれている小振りのティーテーブルをひっくり返した。

勢いよく倒れたティーテーブルが寝室の床に打ち付けられ、派手な音を立てる。

ルキウスが驚愕して悲鳴に近い声をあげた。


「わーっ!?な、なんてことをっ!キミ、それちゃぶ台返しかっ?僕の祖父を真似たのかっ?しかも掛け声まで真似てっ?でも『えーい!ててーい!』だなんて祖父のとは少し違うぞっ?そんな可愛いものではないぞっ」


「やかましいですわ!さっきからああ言えばこう言う!ネチネチネチネチと男らしくない逃げの発言ばかりで、そりゃいい加減腹が立ってちゃぶ台のひとつでもひっくり返したくなりますわよ!」


「キミが気分を害するのは尤もだとわかってるっ……でも大切なことだから最初に話し合わなくてはならないと思ってだなっ……」


話し合いより肌を合わせてくれればいいのに。

それが初夜というものなのだから。

普通の女性だったらこんな散々な初夜は早々に心が折れて諦めてしまうのだろう。

そして枕を濡らしてひとり眠るのだろう……。

が、如何(いかん)せんハリエットは並の女性ではない。

令嬢時代から職業婦人として自立したいという気概があり、家族を亡くしてからはその細腕で当主としての責務を果たしてきたのだ。


そんなハリエットが夫に初夜を頑なに拒まれたからといって、泣き寝入りするなど有り得ない。


──要は心の問題に体がついていかないということでしょう?


では体が心を凌駕すればいいのだ。


ハリエットの中の悪い子ハリエットがニヤリとほくそ笑む。

きっと今夜、初夜を敢行せねば自分たち夫婦はこのままズルズルと白い結婚まっしぐらだろう。

そんな効率の悪い、生産性のない無意味なことはご免蒙(めんこうむ)る。


スン……となったハリエットは徐に、転がったままのティーテーブルを戻そうとした。

それを見たルキウスが慌てて「あ、僕がやるよ」と言ってハリエットの代わりにティーテーブルを起こす。


「ありがとうございます。……感情的になってしまってごめんなさい。ワインでも呑んで少し落ち着きましょう」


落ち着いた口調でそう告げたハリエットに、ルキウスは安堵の表情を見せた。


「いや、僕の方こそ本当にすまない……。そうだな、少し落ち着こう」


ルキウスの返事を聞き、ハリエットは頷く。

そして寝室のサイドボードに予め用意されていたワインとグラスをティーテーブルに運んだ。


ルキウスは流れるような動作でワインの栓を開け、二人分のグラスにワインを注いでくれた。


深みのあるバーガンディーの水面(みなも)がグラスに揺蕩(たゆた)う。


先程までの喧騒が嘘のように、落ち着きを取り戻した二人がぎごちないながらもグラスを合わせた。


「……乾杯」

「乾杯……」


喉が渇いていたのだろう。ルキウスはぐいっと勢いよくグラスを煽る。

それでも不思議と品良く映るのはやはり王配教育の賜物だろう。

男性的なルキウスの喉もとが嚥下のために上下したのを見て、満足そうにハリエットもワインを口に含んだ。


初夜のために《《とある細工》》がされたワイン。

出来ればこれに頼らず自然な流れで初夜を迎えたかったのだが仕方ない。

ルキウスにも、そしてハリエットにも、この夜を無事に過ごすためにはこのワインが必要なのだ。


媚薬入りの特別なワインが……。



そしてその効果はすぐに現れた。


「な、なんだ……?妙に体が火照って……熱いな……」


頬に赤みが差し、少し息遣いが荒くなったルキウスがそう告げた。


「でしょうね……」


そう返したハリエットも火照りと不思議な高揚感が体の内側から感じる。


「でしょうねって……どういうことだ?」


「だって、そのワインは媚薬入りなんですもの。王配候補として毒への耐性は付けられていても、王女殿下と違って媚薬の耐性まではつけられていないのでしょう?」


「なっ……媚薬っ……?」


「心配いりませんわ。私も同じものを口にしましたから……」


それを聞き、ルキウスは驚愕に目を丸くして言った。


「し、心配の方向性が違うんじゃないかなっ……」








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サーセン┏○ペコ


次の更新は明日の夜でっす


サーセン┏○ペコ


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