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波乱の初夜 ①

朝だけど初夜のハナシ…





文官勤めをしている頃に幾度か、ハリエットは他の王配候補者たちと共に王女に侍るルキウスを目にしたことがあった。

主家の令息であることから幼少の頃からその存在を意識していたし、王配候補という稀な立場であることからつい目を向けてしまうのだ。


その時に感じた王女と候補者たちの印象は、仲良しこよし。

他者はあの空間に入り込むことは出来ないだろうと感じた。

王女と王女のために生きる候補者たち。

俗に言う逆ハーレムとはまた違う、だけど王女を中心に回る世界に住んでいるという印象があった。

そんな絶対不可侵の聖域の中の彼らを、ハリエットは王配が決まった後の関係性はどうなるのだろうと他人事ながら何の気無しに考え、眺めたものである。

実際にその時は他人事だったのだから……。


そして襲爵の報告のために国王への謁見と(まか)り相成った際に、ルキウス自身から直接声をかけられた事があった。

だから本当は婚約式が初顔合わせとなったわけではないのだが……果たしてルキウスは覚えているのだろうか?


──覚えいないのでしょうね……。一般的な弔辞だったし。


だけどあの時、ハリエットは…………


そんなことを緊張した面持ちで考えながら、ハリエットは夫婦の寝室の前へと辿り着いた。

この主寝室を使うのはある意味初めてである。

幼い頃、悪夢を見て泣きべそをかきながら両親が眠るこの寝室のドアをノックして一緒に眠ったのは、もう遠い昔のことだ。


今宵は初夜。

今ハリエットはこの寝室の主の一人としてドアの前に立っている。

付き従っていたメイドに下がるように告げ、ひとつ大きく息を吐く。

そして意を決して寝室のドアをノックした。

この部屋へ向かう前に、今日夫となったルキウスは既に入室したと知らされている。


ノックの後に室内からくぐもった声で「はい」という返事が聞こえ、ハリエットはドアを開いた。


やや暗めに明かりが落とされた室内に所在無さげなルキウスが佇んでいる。

彼はベッドではなく、寝室の窓辺に設えられた小ぶりなティーテーブルの椅子に座っていた。

その姿を見た途端に、ハリエットの心臓はそれ自体がひとつの生命体のように胸の中で大暴れし出した。


らしくもなく怖気付く足を心の中で叱責し、ハリエットは寝室へと足を踏み入れた。

そしてルキウスの元へとゆっくりと歩みを進める。


固い表情で向かうハリエットと固い表情で彼女を迎えるルキウス。

どちらの表情も固いのは、どちらも緊張していることを如実に表していた。


ルキウスは王配候補として、一流の閨教育を受けているはずである。

一分の隙もないという完璧な閨教育の中で、講師との実地経験は無かったのだろうか。

そんな馬鹿なことを考えてしまう自分が相当動揺し(テンパっ)ていることを、ハリエットは自覚した。


そしてもうすぐルキウスの元へと辿り着こうという距離で、彼は固い表情のままゆっくりと立ち上がる。


その眼差しは一心にハリエットへと向けられているが、アメジストの瞳は不安げに揺れていた。


「お待たせしてすみません」と、まずはそう声をかけようと思ったハリエットだが、ルキウスの信じられない第一声に掻き消されたのである。


「お待たせし…「ぼ、僕はキミを愛せるかどうかわからないっ……!」……は?」


小鹿のように怯えたルキウスの声と、狼のように低いハリエットの声が寝室に響いた。


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