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悲しい気持ち

ルキウスがひっくり返したローテーブルがけたたましい音と共に床に叩きつけられた。

その騒音を聞きつけて、下令のドライと使用人たちが慌てて飛んでくる。


朴訥(ぼくとつ)とした普段のルキウスからは想像もつかない行動に呆気に取られているハリエットを尻目に、ルキウスが「問題ない」と告げて皆を下がらせた。


再び二人きりになった執務室でルキウスがハリエットに向き直る。


「すまないハリエット。乱暴なことをしてキミを驚かせてしまった。全てはこれまでの僕の言動が招いた結果だというのに」


そう言いながらルキウスがひっくり返ったままのローテーブルを元の位置に戻す。


「昔から祖父の乱暴なこの行為に呆れていたというのに、まさか自分がちゃぶ台返しをするとは思わなかったよ」


そう言って微笑むルキウスの目はやはり笑ってはいない。

何が彼を怒らせたのだろう。

彼にとっては長年の恋心が叶う千載一遇のチャンスであるというのに。

まがいなりにも妻であるハリエットに愛人となるお膳立てされたことにプライドが傷付けられたのだろうか。


──それね、それしか考えられないわ。


ハリエットは心の中でふむと頷いてルキウスに言う。


「私の口からではなく、王配殿下かもしくは陛下から直接お話があった方が良かったわね。少しでも早く貴方を喜ばせてあげたくて先走ってしまってごめんなさい」


「……」


「もう私はこの件には関わらないから、後は貴方の思うように行動して。……でも、できれば、その……情事の余韻などはこの家に持ち込んで欲しくないの……子ども達の教育に良くないと思うし……私も一応は貴方の妻として……家の者に対して面子(メンツ)というものがあるから……」


「……」


「だから……あの、陛下にお会いする日の前後は王宮に泊まってもいいのよ……。少しでも長く陛下のお側に居たいでしょうし……」


「……」


ルキウスの沈黙が痛い。

そして自分の胸も痛い。

どうして彼は何も言ってくれないのだろう。

これを最後に、ハリエットはもう二度とルキウスとミラフィーナの関係について口を挟むつもりはないのに。


──だってだからこそ、ルールというか約束事を取り決めておくのは必要な事でしょう……?


我ながららしくもなく心細くなる気持ちを抑え、ハリエットは尚も遠慮がちにルキウスに言う。


「……だけど何事においても、子ども達を最優先にすることだけは誓って欲しいの。誕生日とか一般的な祭日だとか、その日だけは父親として子ども達の側に居てあげて欲しい……。私の誕生日や結婚記念日は気にしなくていいから……」


なんだか言っていて悲しくなってきた。

酷く惨めで酷く寂しい。

ああ、どうしてこうなってしまったのか。

最初からだ。最初に間違ってしまったのがいけなかった。

ルキウスは待って欲しいと言ったのに、無理やり初夜を強行したのが間違いだったのだ。

そうすれば、もう少しマシな妻になれたかもしれないのに……。


もう嫌だ。

消えてしまいたい……。


と思ったその瞬間。

引き寄せられ、大きな体に包み込まれる。

結婚してから知った、ホワイトムスクの香りに包まれる。


「っ……?」


頬に、耳にルキウスの硬い胸板が触れている。

彼のトクトクと鳴る心臓の音が聞こえる。

ハリエットはルキウスに抱きしめられていた。


そして胸の音と同時に、くぐもった彼の声が聞こえた。


「ごめん……ごめんハリエット、最初に間違えたのは僕の方だ……キミは悪くない、キミは何一つ間違ってなんていないんだ……僕にとってキミは、完璧で素晴らしい妻なんだよっ……」


ハリエットは心の中で感じていたことを、知らず口に出してしまっていたようだ。

それを聞いたルキウスが苦しそうに否定し、自身の思いを伝えてくる。


「僕が最初に待って欲しいだとか、キミを愛せるかどうかわからないなんて口にしてしまったからいけなかったんだ……。僕の所為だ、僕のこれまでの言動が全て悪いんだ……」


ルキウスのその言葉を聞き、ハリエットの瞳からほろりと涙が零れた。








•*¨*•.¸¸☆*・゜•*¨*•.¸¸☆*・゜•*¨*•.¸¸☆




次回、ルキウスsideです





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