崩御
ハリエットとルキウスの結婚生活は表面上、とても穏やかで順調であった。
……それは偏に、恐妻家であるルキウスの涙ぐましい努力の下において。
『やぁハリエットっ……キミも食事の間に行くの?』
『えぇ。だってお夕食の時間だもの』
『奇遇だね、僕も今から行こうと思っていたんだ……!』
『?……そうでしょうね』
『せっかく会えたんだから食事の間までエスコートするよっ……』
『?自分の邸のいつもの食事にわざわざ?』
『お、夫として当然の事をするだけさ』
『そうなの?じゃあ……お願いするわ』
『よ、喜んでっ……!』
と、互いの執務も(すでに執務室は分けている)あり、毎回ではないが時折待ち伏せでもされていたのか?と思うタイミングで邸の中の移動にエスコートされたり、
またある日は……
『ハ、ハリエットっ……こんな重い物を運ぶときは誰かに申し付ければっ……もしくは僕を呼んでくれたら代わりに持つのに……!』
『重い物って……たかだか大判の貴族名鑑じゃない』
『キミの小さな手では持ち辛いだろう?』
『そうでもないけど』
『とにかくこれは僕が持つよ、キミの執務室に運べばいい……?』
『ええ……じゃあお願いするわ?』
『う、うんっ……任せて!』
と、あたかも重大な任務を引き受けたかのような緊張感をもって本を運んでくれたりと、まるで始終ハリエットの行動を見張っているかのようなタイミングで声を掛けてきて、夫としての務めを果たそうとする。
そしてそう、その夫の務め……この場合は“努め”であろうか、ルキウスの最大のオツトメである夜の営みの方も彼は下手すれば執拗いくらいに励んでいるのだ。
王配候補としてフェミニズムを叩き込まれたルキウスは、まるでハリエットを愛しているかのように優しく甘く時に情熱的に彼女を抱く。
なんとまぁ責任感の強いことかと、翻弄されヘロヘロになったハリエットは毎回そう思うのだ。
一度引き受けたのであれば、ルキウスは何事においても真摯に取り組む性格である事は、結婚してから嫌というほど解った。
そんな性格だからこそ、覚悟の無いまま無責任に婚姻など結べないと固辞していたのだろう。
──でもそのおかげで、これならば早く子どもを授かるかもしれないわ。
夫婦となって三ヶ月。
婚約式での初顔合わせから数えれば半年間。
もうこれ以上、彼に余計な感情を抱く前に早く当主夫妻の義務を果たしてしまいたい。
後継となる嫡子もしくは嫡女、そして言い方は悪いがスペアとなる第二子を儲ければもう閨を共にする必要はなくなる。
王宮で家族を悼む言葉をルキウスに告げられて以来、ハリエットの心には何かが芽生えていた。
その何かに名を付けるのをずっと避けてきたのだ。
だから早く、一日でも早く、その何かが名を持たぬままハリエットの胸の内に仕舞い込んでおける内に、彼と適切な距離を保つ夫婦となりたいと願っていた。
そんな日々を送る中、
ミラフィーナに玉座を渡し療養していた前国王の容態が突然急変し、薨ったのであった。
前国王崩御を告げる大聖堂の鐘の音が王都中に響き渡り、
社交シーズンがはじまるために滞在しているオーラウン伯爵家のタウンハウスにも聞こえてきた。
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るちあんはあるでござる…
申しわけサーセン(o_ _)oペコリン