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第三話 支配

 いつのまにかみかんがマウントをとっていた。


「勇ちゃん、一緒に帰ろうよ」

「やなこった。早くどけよ」

「もぉ、わからずや。あたし先に帰っちゃうよ」


 みかんの顔が小悪魔の様に見えた。


 彼女が壇上を降りて校庭を歩いていくのを見届けて、俺は立ちあがろうとした。


 あれっ


 おかしい。右足がぴくりとも動かない。


 記憶を探った。

 みかんにマウントされてからだ!


 俺は助けを求めようと口を開いたつもりがみかんを呼んでいた。


 校庭を横切って校門近くまで歩いていたはずのみかんが目の前にいる。

 まるで近くにいたかの様に。


「勇ちゃん、頑固だからちょっと細工したの」

「お前なぁ、なんてことしやがる。直せ」 


 みかんは首を振る。


「無理だよ。時間かかるもん」

「時間かかるってどれくらいだよ」

「う〜ん、明日の朝まで、くらいかなぁ」


 なんだこいつ、やはり頭に来る。異常者だ。

 

 助けを求めようと考えたがみっともないし、生徒ではどうにもなれないだろう。結局、先生を呼び救急車を呼ぶことになるだろう。母に心配もかけたくないし、母の仕事の邪魔もしたくない。


 しかし、右足の感覚がない以上歩いて帰れない。


 俺は仕方なくみかんに頼る事にした。


「わかった。みかん。一緒に帰ってやるから、俺を連れ帰ってくれ」

「はぁ〜。お願いになってないよ」


 みかんの目が吊り上がる。


 なんてわがままなんだ。彼女がやらかしたと言うのにお願いモードにしなければならないのが釈にさわる。


「みかん、頼む。俺を家まで連れてってくれ。みかんが困ったら助けるから」


 言ってしまった。言わざるを得ないとは言え、これからみかんが何を要求してくるかわからない以上、恐怖に怯えて行かなければならないだろう。


 頭が痛い。


「勇ちゃん。言葉が足りないよ。あたしが可愛い、とか愛してるとか」


 はぁ。

 みかんの思考がわからない。

 単にバカなだけだと祈った。


「わかった。みかん超可愛いから俺を家に連れてってくれ」

「仕方ないなぁ。愛してるが足りないけど、今日は許してあげる。でもお家に行ったらお仕置きだよ」


 なんだお仕置きって。

 

 しかもみかんは俺を軽々背負い、壇上から飛び降りると早歩きで進んでいく。


 やはりおかしい。


 学校から自宅まではかなりの距離があるが、あっという間に会社兼自宅のエントランスに着いた。

 

 みかんは笑顔でコンシェルジュに会釈をすると役員用のエレベーターに向かった。


 ここまで来るのに大人でも疲労感はあるだろうが、息さえ切らしていない。


 俺はとんでもない奴に魅入られてしまった。


 家に着くとみかんは俺を背負いながら靴を脱ぐと、俺の部屋まで直接行き、俺をベッドに寝かせ部屋を出ていった。


 俺はベッドに横たわりながら、右足を動かしてみる。右足はびくともしない。


 俺は転げる様にベッドから降りると這ってドアまで向かった。部屋の外から声が聞こえる。


 みかんと母だ。

 笑いながら俺の部屋に向かってくる。


 俺は気合いを入れて立とうとするが立てない。


 ドアが開くと、母は俺を見て目を丸くしている。


 みかんは、口に手を当てて驚いている様だが、口角が上がっているのが指の隙間から見えた。


「勇ちゃん何してるの?」

「そうよ。優ちゃん芋虫の様だわ」


 母は一瞬みかんを見て、それから微笑むと「本当だわ」と笑った。


 みかんの恐ろしさがわかった様な気がした。


 しかし、みかんの恐ろしさはこんなものではなかった。

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