第二話 弓月みかん
ゲームX2のstartボタンを押した瞬間、来客用のチャイムが鳴った。
チェッ!
俺は急いでリビングに向かった。
お袋が受話器を取るところだった。
危ない危ない。
「はい」
『やっぴー。みかんだよぉ〜。お迎えにきたよ〜』
うざい。うざすぎる。
俺は受話器を置き、開錠ボタンを押した。そして自室に戻ろうとした時、母につかまった。
母は久米弓。会社の社長だ。しかも綺麗で優しい。30代で二人の子がいる。
俺の自慢の母親だ。
「何」
「何じゃないでしょ。着替えもしないで、みかんちゃんもう来るわよ」
「ああ、わかってるよ」
ピンポン!
玄関ドアのチャイムが鳴った。
会社の自動ドアを開けて1分、2分くらいだろう。早すぎる。
怪しいとは思っているが、かなり怪しい。
ここは会社の中にある母の執務室と自宅が一緒になっているのだ。自宅を出ると会社というわけだ。普通に会社の偉い人とも会うし、話しかけられる。近所のおじさん、おばさんみたいだ。
弓月みかんは中学校で俺に付き纏っている女だ。運動神経抜群、学力も申し分ない。
しかし、なぜかハブられている。すなわち友達がいない。俺と同じだ。
違うと言えば、俺はゲーム界のトップになる存在として怖がれている。俺と遊んでも必ず俺が勝つから面白くないんだと。バカな奴らだ。俺とパーティーを組めば無敵なのに。
母が玄関に向かったため、俺は自室に戻り、ゲームのコントローラーを手にして、saveをして電源を切った。
コンコン
「勇ちゃん。みかんだよぉ。出ておいで〜」
うざい。朝からムカムカする。
俺は仕方なくドアを開けると、満面の笑みで立っていた。
はぁ。
母だったら、抱きしめていただろう。あわよくばキ、キスもしたかもしれない。残念で仕方ない。
「勇ちゃん顔が赤くなってるよぉ。あたしが可愛いからって、もうキスしてあげる」
みかんに無理やりキスされてうざい。早く口を洗いたい。
その後みかんに着替えさせられ、一緒に自室を出た。
弓月みかんとの出会いは中学校に進学してすぐだ。みかんとの出会いは仕組まれていた様に思う。
俺はいつもの様に放課後、校庭の壇上に座りゲームをしていた。
校庭ではサッカー部や野球部の掛け声がし、陸上部の生徒が俺の目の前を通り過ぎていく。
「よしっ!ラスボスを倒した。アイテムを拾ってセーブっと」
アイテムも捕獲金も独り占めだ。
陸上部の生徒が走る方向とは別の方向から歩いてくる人影に目を向けた。
『弓月みかん』
背丈は俺とあまり変わらない163cmくらいで、女子の中では背が高い。色白で整った顔立ちをしている。目が吊り上がっているのが残念だ。
「勇司くん、一緒に帰ろう」
「やだ」
弓月みかんはみんなの嫌われ者。並んで歩いていたら、同類と思われる。絶対に阻止する。
「ねぇ、一緒に帰ろうよ。勇司くん」
「嫌だね。お前の様な嫌われ者と一緒に帰りたくない」
「そんなこと言わずに帰ろうよぉ〜」
壇上下にいたみかんが消え俺の後ろから声が聞こえた。振り向くと更に目が吊り上がったみかんが俺を見下していた。