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悪役令嬢にざまぁされたくないのでシリーズ

【短編】悪役令嬢にざまぁされたくないヒロインの婚約者

お読み頂き、ありがとうございます。

こちらの話は『悪役令嬢にざまぁされたくないので、お城勤めの高給取りを目指すはずでした』の続編になっております。

最初に何となく前回の話が分かるようにしたつもりですが、前作を読んでからの方がよりお楽しみ頂けるかと思います。


※お話が合わない場合は、ブラウザバックを推奨しております


 

 つまらなくて、つまらなくて、とにかく毎日がつまらなくって。

 少しでも面白いものを探していたら、出会ったんだ。

 誰よりも面白い彼女に──。


 彼女(カミレ)は、クラスメイトの物を盗んだという自身にかけられた冤罪に立ち向かう、勇敢な令嬢だった。

 相手が明らかに身分が上の人物でも怯むことなく、意見をハッキリと言う。向こう見ずでもあり、真っ直ぐな性格だと思った。

 ところが、学園から支給された物を卒業したら売ろうとしていたりと、思わぬ一面もあった。強かで、オレにはない発想が面白い。


 貴族なら誰もが持っていそうな価値観ではなく、別の価値観で行動しているように見えて、それが面白くって、オレの毎日を楽しくしてくれそうで……。

 カミレと一緒にいたいな……って思ったのが始まりだった。

 


 

「ねぇ、カミレ。今日のお昼は何なのぉ?」

 

 カミレの鞄の中を見ようとして、ぺちりと手を叩かれた。

 

「勝手に人の鞄の中を見るなんて、マナー違反ですよ」

 

 じろりと睨まれるが、そんな可愛い顔で睨まれても、まったく怖くない。

 代々騎士の家系で生まれ育ったオレにとっては、子猫がじゃれているようなものだ。

 

「お腹空いたんだもん」

 

 ぷくりと頬を膨らまして上目遣いで見れば、カミレは体を強張らせた。

 

「可愛こぶったって、駄目ですからね」

 

 そう言いながら、カミレは視線をそらす。耳が赤くなっていることに気付いてないのだろう。

 そんな無防備な姿も可愛い。



「今日の帰りさぁ、カフェに行かない? 期間限定のストロベリーフェアやってるんだってぇ」

「えっ!! あー、ごめんなさい。また今度でもいいですか?」


 パアッと一瞬だけど、嬉しそうにしたということは、行きたいってことだよね? 断られた理由も、たぶんこの間と同じかな……。


「全種類食べてみたいから、カミレも手伝ってくれない?」


 こう言えば、きっと来てくれる。そう思ったんだけど──。


「いえ、このあと用事があって……」


 答えは、まさかのノーだった。

 行きたいけど、遠慮しているってわけじゃないらしい。


「ふーん。用事って、ひとりで行くのぉ?」

「ひとりですよ」

「オレもついて行きたいなぁ」

「すみません。人と会うので……」


 また断られたぁ。カミレは、学園で仲良い人はオレだけだし。

 会うのは、学園以外の人ってことかなぁ……。


「何人で会うのぉ?」

「ふたり……ってことはないかな。うーん。三人? 四人? もっといるかもしれないですね……」


 人と会うのに人数が分からないって、どういうこと? 大人数ならともかく、そういうわけじゃなさそうだし……。

 曖昧な答えに、オレの勘がカミレを止めろと言っている。

 こういう時の勘って、馬鹿にできない。実際、何度も勘に従ったおかげで助かったことがある。


「心配だから、オレも一緒に行くねぇ」

「駄目です」


 決定事項のように言ってみたけど、やっぱり断られてしまう。


「オレたち婚や──」

「今夜ですか? 今夜は用事がありまして!!」


 両手でオレの口を必死に押さえて、カミレは言う。

 そんなに婚約を知られたくないのかねぇ? 

 

 うーん。面白くない。

 婚約したのにオレとのことを隠したがることも、放課後のデートを断られたことも、予定を教えてくれないことも、ぜーんぶが面白くない。


「お願いだから、内緒にしてください。ざまぁされるじゃないですか……」


 ちょいちょい言ってくるけど、ざまぁって何?

 意味を聞いても、知らなくていいと教えてくれないのも、面白くない。


「手を離しますけど、絶対に言っちゃ駄目で────っっ!!??」


 バッと音が出そうなほど大きく、カミレは手を離して仰け反った。口を魚みたいにパクパクと動かして、全身がりんごのように真っ赤になっている。

 その反応に、心が満たされていく。


「なっ……なななななめっ…………なめたぁ……」


 ペロリとカミレの手のひらを舐めてみたけれど、しょっぱかった。

 カミレなら、もしかして甘いんじゃないかと思っていた自分がおかしくて、笑ってしまう。


「かーわいい。本当に何でこんなにいちいち可愛くて、面白いんだろうねぇ」

「からかわないでください」

 

 本当に可愛い。こんなに可愛いのに、あんな目でカミレのことを見るなんて、許せないよねぇ。

 確かに最初は面白いかも! って近づいたのはオレだけどさ、たったひとり減るのがそんなに嫌かねぇ?

 善意に見せかけた悪意が正解だったってことかな? 前なら、それが面白かったけど、不快だよなぁ。カミレにそんな目を向けて許されると思ってんのかなぁ。

 

「カミレ、次の授業サボっ──」

「サボりません。レフィト様、もう行きましょう。遅れちゃいますよ」

 

 カミレの監視役を買って出てから三ヶ月。やっと一緒に行動することを当たり前だと思ってもらえるようになった。

 カミレの隣はオレのもの。学園を卒業したって、その場所を手放すつもりなんかない。

 だから婚約したのに、オレとの婚約をカミレは喜んでないんだよなぁ……。

 


「荷物はこれだけだよね?」

 

 カミレのトートバッグを持ち上げる。

 盗みの冤罪をかけられたからなのか、カミレは必ず自分の荷物を持って移動する。

 

「自分で持つから大丈夫です」

 

 当たり前のようにオレが手にしていた鞄を、カミレは自分の方へと持っていってしまう。

 何に対しても、やってもらうのを待つことが奥ゆかしい。そう思い込んでいる令嬢は多い。けれど、カミレは違う。

 

「オレ、カミレのそういうところ好きなんだぁ」

「何言って……」

 

 人として好ましいと思うところを伝えれば、カミレは照れたのか動揺している。

 褒められるのを当たり前と感じないところも、カミレの魅力だと思う。

 はぁ……。可愛いという言葉は、カミレのためにあるよなぁ。

 

 

「次の授業が終わればお昼! あとひと頑張りだぁ。早くカミレとご飯食べたいなぁ」

 

 放課後のことも、その時に聞き出そう。止めるのか、ついて行くのか、判断しないとだからね。

 それと、カミレの安全を脅かすものは、早急に排除しないとだよねぇ。たとえそれが、未来の王妃だとしてもさぁ。

 

「えっ、怖いんだけど……」

 

 いつも通り笑っているはずなのに、カミレは顔を引きつらせて呟いた。敬語じゃないってことは、独り言なんだろう。

 子どもの頃からずっと一緒にいた王子たち(あいつら)にも、バレたことないのに、カミレには笑顔の裏の感情まで見えたんだ……。

 カミレはこんなにもオレのことを見ていてくれる。気付いてくれる……。

 

「レフィト様は何時でも笑顔ですけど、理由があるんですか?」

「うん? 理由なんてないよぉ」


 そう。理由なんてない。

 ただ、気付いてしまっただけ。笑っていれば、大概のことは相手が良いように取ってくれるってことに。

 それに、油断もしてくれるから、聞いてもいないのにたくさんの情報をくれる。


「まだ一緒に過ごした時間は短いですけど、私、レフィト様の笑っている以外の顔をほとんど見たことないんですよね。もちろん、さっきみたいに表情を作ってることもありますけど……」

「カミレもオレのこと、怖いのぉ?」


 最初は優しいって言われるけど、最終的には何を考えているか分からないとか、怖いって言われることが、たまにあるんだよなぁ。

 あぁ、あと馬鹿だって思われることも多いかなぁ。あいつらが、そうだもんねぇ。


「怖くはないです。ただ、たまには思うままに振る舞えばいいのにな……とは思います」

「えっ? オレ、結構好き勝手に振る舞ってるよねぇ?」

「私相手には、割とそうですね。婚約(あの)ことも、そうですし。でも、あのことで私が不利益を被ることはないようにしてくれてますし……」


 そう言うカミレの気持ちがよく分からない。

 婚約を嫌がってるくせに、オレの心配をして、認めてくれている。


「ねぇ、どうしてオレじゃ駄目なの?」

「駄目って?」

「カミレの言いたくない、あれ(・・)だよ。オレがカミレのことを笑ったから? 断れないの分かってて、申し込んだから? カミレの気持ちを無視したから?」


 あーぁ。カッコ悪い。

 こんなんじゃ余計に嫌われるだけだって分かっているのに、止められない。


「オレのこと、嫌いになった?」

「そんなことないですよ。私のことを馬鹿にしていたわけじゃないって、知ってますし。解消はして欲しいと思ってますけど」

「解消はしない。絶対に」

「一度解消して、卒業した後もレフィト様が望んでくれていたら、また結ぶんじゃ駄目ですか?」

「駄目。その間に、別の断れない相手から申し込まれるだろ」

「そんなこと起きませんよ」


 呆れたような視線を向けられる。

 何だかバツが悪くて、カミレから視線を逸らせば笑われた。


「何?」

「いえ。はじめて、本当のレフィト様に会えた気がしただけです。いつものレフィト様もレフィト様なんですけど、レフィト様の笑顔ってバリアみたいだな……って思ってたので…………。って、いつものレフィト様が偽物ってわけじゃなくてですね──」


 失礼なことを言ってしまった……と、わたわたと慌てながら言葉を紡いでいくカミレを見ながら、いつものように笑みを浮かべることも、間延びした話し方をすることもなく、素で話していた自分に気付く。

 

「オレ──」


 カミレじゃないと駄目だ。そう言いそうになったところで、ちょうど予鈴が鳴った。


「急ぎましょう」


 カミレに腕を引かれて、早足になる。

 心臓が走っていて、掴まれた腕の部分から熱が体中に広がっている気がする。


 オレ、カミレのことが好きなんだ……。


 今更、何を言っているんだって感じだけど、やっと分かった。

 執着したのも、隣がオレじゃなきゃ嫌なのも、守りたいのも、ぜーんぶカミレのことが好きだからだ。


 恋愛なんてクソだと思っていたけど、気が付いたら落ちていた。

 面白いから興味を持っただけのはずが、すこーんと底なしの落とし穴に落ちてしまった気分だ。

 腕を引かれながら、自分の馬鹿さ加減に笑ってしまう。

 あーぁ。王子たち(あいつら)のこと馬鹿だと思ってたけど、オレも大概だなぁ……。


「オレさぁ、カミレの自分でどうにかしようとするところ、好きだよ。だけど、心配なんだぁ」


 驚いて振り向いたカミレと視線が交わる。

 カミレの瞳に映るオレは情けない顔で笑っていた。

 こんな時でも笑ってしまう自分が嫌になる。だけど、習慣なんて簡単に抜けてくれるものじゃない。


「……サボりましょうか」

「えっ?」

「きっと、今必要なのは勉学じゃないんで。誰かに休む旨を伝達──」

「すぐ頼むから待ってて!!」


 大急ぎで、ほとんど話したこともないクラスメイトに言付けを頼む。

 我ながらカッコ悪い。でも、気分は悪くない。

 こんなに嬉しくて心臓が跳ねることがあるんだって、知らなかった。カミレといると、つまらなかった世界が塗り替えられていく。


「お待たせぇ」


 ダッシュで戻ったオレに、カミレは肩を震わせている。


「どうしたのぉ?」

「いえ……、何でも…………」

「えー。何でもってことはないでしょ? 声が震えてるよ?」

「気を……悪くしませんか?」

「うん、しない」


 カミレからなら、何だって嬉しい。


「犬……みたいだなって……」

「犬?」

「う、嬉しそうに戻って来るレフィト様に、尻尾の幻覚が見え……」

「うん」

「かわ……可愛いなって……」


 可愛い……。オレが? カミレに可愛いって思ってもらってるの?


「すみません。嫌でしたよね?」


 どうにか笑いを止めようと努力しているカミレに、笑いかける。

 きっと、今笑うのは正解なはず。


「ううん。そんなことないよぉ。カミレは、犬が好き?」

「好きですよ。可愛いですから」

「だったら、犬みたいって言ってもらえて嬉しいなぁ。カミレに好意的に見てもらえてるってことでしょぉ?」


 そうやって聞けば、カミレは赤くなる。

 視線をうろうろとさ迷わせ、諦めたようにオレを見る。


「友だちとして……ですよ」

「うん。今はそれでいいよぉ。オレたちの関係も内緒でいい。カミレに嫌われたくないからねぇ」

「だったら──」

「でも、それだけは駄目。オレも譲らないよ?」


 カミレに言われる前に、言葉を被せた。

 だって、何度も振られたくない。



 のんびりとふたりで屋上へと移動する。

 堂々とサボろうとするオレとは違って、カミレはずっと周りを気にしていた。

 小動物っぽくて可愛い……とか思うなんて末期だ。そう思うのに、可愛くて可愛くて仕方がない。


「ねぇ、放課後は誰と会うの?」

「知ってどうするんですか?」


 ついた屋上で、壁に寄りかかってふたりで座る。

 授業をサボって好きな子と屋上なんて、青春してるな……とボンヤリと思う。

 これが、イチャイチャとまでは言わなくても、普通の会話なら良かったのに……とも。

 だけど、放っておく訳にはいかない。


「オレも連れて行くか、行くのをやめるか、一緒に決めようと思って。危険だしさぁ」

「お茶のお誘いなので、危険じゃないですよ」

「お茶会なんだぁ。どこでやるのぉ?」

「どこで、じゃないです。皆さんとお茶をするだけなので、危ないことなんかないですよ」


 オレからしたら危険しかないけれど、カミレには分からないかぁ。

 そうだよなぁ。置かれてる環境が違うんだから、きちんと説明しないとだよなぁ。


「お茶会には、危険がいっぱいだよ? まず、毒を混入される危険性があるでしょ。カミレ以外の全員がグルで、今度こそ冤罪をなすりつけられる可能性に、可愛いものなら何かに小型の刃物が仕込まれてて怪我をするとか──」

「ちょ、ちょっと待って!!」

「どうしたのぉ?」

「いくら何でも、物騒すぎない!?」

「そんなことないよ。常識だよ?」


 オレの言葉を聞いて、カミレは頭を抱えた。

 世間はしらないけど、言ったことはオレの中では常識だ。そういう事例を数え切れないほどに知っている。

 カミレはぶつぶつと独り言を呟き、聞いたこともない言葉がいくつも音になっては消えていく。


「お茶会は物騒なものなんですよね? それなら、どうして開くんですか?」

「自分の権力を見せつけるためでしょ」

「仲を深めるためじゃなく?」

「自分の立場を、今よりも確固たるものにするためだね」

「貴族って怖い……」


 怖い人なんて貴族じゃなくてもたくさんいるけど、そこは黙っておくことにする。


「そうだねぇ。それで、誰が主催のお茶会に行くのぉ?」


 ここまで脅せばあっさり言うと思ったけど、カミレは答えない。


「マリアン嬢のお茶会かな? カミレの誤解を解きたい。盗んでないって、皆に分かってもらいたい……とか言われた?」

「ど……して……」


 えー。当たりなの? そんなのをカミレは信じたわけ?

 勉強はできるけど、その他が阿呆なのかなぁ。騙されやすいみたいだし、やっぱり危険だ。


「身分が上の相手からの誘いは断りにくいよね? オレも行くよ。もしかして、オレを連れてこないように言われてる?」

「いえ。女子会だと聞いてます」

「エスコートする人がいたら駄目だとか聞いてる?」

「特には……」


 ふーん。なるほどねぇ。


「じゃあ、オレがエスコートしていくよぉ。監視の名の下に、ついていくことにすればいいよね。そういう話になってるわけだし」


 そう言って笑えば、カミレは何も言わなかった。

 どうやら、脅しが効いていたらしい。

 良かった。全部、実行しようと思えば、マリアンなら可能なことだったから。


 でも、大丈夫だよ。マリアンなんかに負けないから。

 もし、カミレに危害を加えようとしたら、すぐに処分するから安心してね。

 可愛い可愛いカミレ。どうか、オレに守らせて。

 もし、他の男がカミレを守ることになったら、オレはそいつを破滅させて、カミレを閉じ込めてしまいそうだ。


「カミレ、油断しちゃ駄目だからねぇ?」

「分かりました」


 真剣な顔で頷いたカミレの手を握る。

 婚約者なんだから、これくらいは許されるだろう。


 はじめてふたりで屋上に来た日は曇っていた。

 けれど、今日は青空が広がっている。

 握った手の小ささと温かさに、顔がニヤけるのを抑えることができなかった。


 


 


 

最後までお読み頂きありがとうございました。

短編を連載変更できないため、このような形になりましたが、まだまだ書き足りない気持ちでいっぱいです。

アザレアをまた書きたかった……。


そのため、連載版もスタートしました。

続きを読んでみたい……と思って頂けましたら、そちらもよろしくお願い致します。


少しでも面白いと思って頂けましたら、下の方にあります☆にて評価を頂けますと嬉しいです。


皆様の読書ライフがより充実したものになりますように……。


2024.9.12. うり北 うりこ

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