知らないで欲しいこと
カナタは仕事で待ち合わせをしていた。
ただその際、レインが任せたくない仕事と言ったことに首をかしげており──
「んぐー……今日の仕事は本当は任せたくないとか行ってたのにレインさんは何を考えているんだ?」
カナタは悩みながら待ち合わせの研究所の前に来ていた。
正確には目的地の前。
「今日は君とか」
「えっと……シャッチョさん」
「ジュラス・ロランだ! 変なあだ名で覚えるんじゃない!」
「あ、ごめんなさい……」
カナタは相手の気に相当障ったのだと思い謝罪した。
「い、いや。怒鳴りつけて悪かった……そういえばあと、一人──」
「やぁやぁお待たせ」
眼鏡をかけ、白衣を着た男性が近寄ってきた。
「レインさんが派遣してくれた人達だね、僕はクリス・アルフォード。こんなんでもEXクラスの覚醒者なんだ。あ、でも戦闘能力的な意味では役に立たないから護衛を頼むよ」
「あっはい」
「戦闘で役に立たない? では何を──」
「それは、ここの研究所に侵入しつつ話そうか」
男性──クリスは腕時計をいじった。
すると、閉ざされた門が開いた。
「さ、入ろうか」
クリスはにっこりと笑ってスタスタと中へと入っていった。
「お、おい待て!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
戦闘能力がないと言う事を聞かされたカナタとジュラスは、慌ててクリスの後を追いかけた。
クリスが進むと仕掛けらしき物は全て解除され、何事もなく研究所の中へと入っていくことができた。
「あの、クリスさんって機械系特攻の覚醒者なんですか?」
カナタは気になって尋ねた。
「うん、それが近いね。僕は機械には強いんだ」
「もしかして、クリスさんが先導してるのって、機械系の仕掛けを解除しているからですか?」
「そうだよ、さすがだね」
「い、いえ」
純粋に褒められて、カナタはなんとなく居心地が悪かった。
「目的地到着だよ」
そんなカナタをよそに、クリスは巨大なゲートを開けた。
ゲートの向こう側には──
人が混じり合ってできたような生物がいた。
「う……」
「大丈夫か?」
吐き気がするほど気持ち悪さを感じるそれに、カナタは顔をそらす。
ジュラスはそんなカナタを気遣うように手を握った。
「ねぇ、狂科学者さん。こんなことして、楽しい?」
全く動じてないクリスが、ガラス張りの向こうにいる男に、科学者に問いかける。
『楽しいとも! 私の研究を理解しない連中を有効活用できるのだからな!!』
「この生物、もしかして……!!」
科学者の言葉にカナタは目の色を怒りに染めて、問いただす。
『そうだ、人間共を生きたまま利用したのだよ!! 何度も再生可能、新たな生命の誕生だ!』
「ふざ……」
「ふざけんなぁあああ!!」
カナタはガラス張りの向こうの科学者へと突っ込んでいった。
『ふ、ふん! この耐久ガラスを壊すことなど──』
「その位なら、彼女は壊せるよ?」
クリスはそう言った。
その言葉と同時に、ガラスは粉々に割れ、カナタの拳が科学者の顔面にめり込み、科学者は吹っ飛んだ。
カナタは荒い呼吸を繰り返し、必死に自分を抑え込もうとしていた。
「カナタ、落ち着け」
ジュラスが、カナタの手を再び握り、目を見つめる。
「……ジュラスさん、ありがとうございます」
「ジュラスでいい。君は無理をするな」
ジュラスはそう言って、カナタが落ち着いたのを目にすると、科学者に近寄り、襟を掴んで立ち上がらせた。
「貴様、彼らを戻せ!」
「ふ、ふん! 不可逆的な物だ! 戻せるものか!」
「貴様……!」
バチバチとジュラスの周囲に電撃が走り始める。
「ま、待ってジュラス!」
今度はカナタがジュラスを止めて、クリスを見る。
「クリスさん! これ機械とかでやられたものなんでしょう?! だったら、クリスさん戻せますよね?!」
「──うん、戻せるよ?」
その言葉を聞いたカナタは頭を下げた。
「お願いします! あの人達を戻してあげてください!」
「うん、わかったよ」
クリスはそう言うと、時計をいじった。
空間の穴が開き、そこから無数の機械が出現し、組み合わさった。
「カナタちゃん、その人達をそこに」
できあがった機械の中心をクリスは指さした。
「は、はい!」
カナタは急いで融合された人達をそこに入れると、黒い何かに包まれ──そして複数の人達に分離していた。
みんな自分の顔を触ったりして、確認しあい喜びの声を上げて裸のまま抱き合っていた。
「戻った! 戻ったぞ!」
「ああ、嬉しい!」
「助けてくれてありがとう!!」
「カナタちゃん、他の人達も」
「はい!」
助かって喜んでいる人達を見て、カナタは他の融合された人達も機械の中心に入れて行き、全員が分離し、元の姿に戻ったのを確認すると胸をなで下ろした。
「そ、そんな馬鹿な……!!」
ジュラスに捕らえられている科学者にカナタは近づいてビンタを食らわした。
「アンタ最低!」
「そうだね、でどうするんだい?」
「……レインさんに任せます」
「そっか、じゃあそうしようか」
『あーカナタちゃんいる?』
「レインさん」
レインから連絡が入ったカナタは声を上げる。
『仕事終わったっぽいね、じゃあカナタちゃんは帰ってちょうだい、後始末はうちらでやるから』
「え、でも……」
「いいからいいから」
クリスにも勧められたので、カナタは大人しく帰ることにした。
「カナタちゃん帰った?」
「帰りましたよ」
クリスは何でも無いように答えた。
「被害者さん達は?」
「保護課の人達に」
同じようにレインの問いにクリスは答える。
「で、なんでジュラスくんがいるのかなー?」
「……その男をどうするかが気になっただけだ」
「ん? こうするだけよ?」
「わ、私にな──ぎぎぎぎげげげげげ?!?!」
レインが手をかざすと男は不気味な姿に変わり果てた、先ほどの人間が融合してできた生物に近い姿に。
「貴方は死ぬまでその姿でいなさい、それがお似合いなんでしょう?」
レインは表情を変えず、微笑みを浮かべたままそういった。
その様にジュラスは唖然とした。
レインが指を鳴らすと、怪物と化した科学者はいなくなった。
「ど、何処へ転送した?!」
「永久監獄、死ぬまで出られない牢獄へよ」
「……」
「カナタちゃんと違うのね、貴方はそこまでしなくても、とは思わないのね」
「!!」
レインの言葉に、ジュラスは困惑する。
レインは微笑んだまま口を開いた、どこか悲しそうに。
「そこが、覚醒者と、覚醒者のカナタちゃんの違いなのよ。だから彼女には見せられない」
「……」
「彼女には、彼女のままでいて欲しいの」
「血まみれの私達とは違って──」
「ぶえくしゅ!」
風呂の中でカナタは盛大にくしゃみをした。
「風邪かなぁ? いや、覚醒者は風邪ひかんだろうし……噂?」
首をかしげながら風呂から上がり、タオルで体を拭いてパジャマに着替えた。
「おやすみなさいー」
そう言って電気を消して、カナタは眠りについた。
何も、知らずに。
カナタは精神が普通の人間なんです。
人を殺すのをためらうような、もし殺してしまったら自分を保てないような。
覚醒者とは異なる精神なんです。
だからそれをレインは貴重としています。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。




