覚醒者となった少女、残念ながら選択肢はなかった
普通の高校生だったカナタ・アオイは目を覚ますと覚醒者になっていると言われた。
普通の人間だと主張する彼女に、とある女性レインは事実を突きつける。
覚醒者になった事実と、これから自分に化せられた使命とやらに頭を抱えるカナタだった──
とある「存在」が統べる世界。
人々は「存在」に見守られながら、発展していった。
発展していく中で、人の中に特別な力を持つ者が洗われるようになった。
それを、人は「覚醒者」と呼び、畏怖する一方でその力に頼るようになっていった。
これはそんな世界で「覚醒者」となった少女の物語。
熱い、炎が周囲に燃え上がって息苦しい。
苦しい、痛い、熱い。
死ぬ?
嫌だ、まだ死にたくない、死にたくない。
死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない。
殺される。
殺されたくない、殺されたくない、殺されたくない、殺されたくない、殺されたくない、殺されたくない。
――殺してやる。
少女は目を覚ました。
目の前には病院のような天井があった。
病院のようなベッドに寝かされていた。
――助かった?――
――それともあれは夢?――
――……でも、確かに私はあの時バスに乗って……それで……――
少女は記憶を掘り起こそうとするも、朧気で思い出せず、ぼんやりと天井を見つめているだけだった。
それどころか、無理に思い出そうとすれば頭が自棄に痛んで、呻き声を上げてしまった。
「――所長!! 目を覚ましました!! 覚醒者になった子です!!」
「……覚醒者?」
少女は何のことかわからず余計頭が混乱したのか頭を押さえたまま起き上がる。
白衣を着た女性が誰かを呼ぶと、喪服のような黒い衣装の赤い長い髪の女性が姿を現した。
「初めまして、カナタ・アオイちゃん」
「え、どうして名前……」
「情報表示の覚醒者が調べたのよ。Sランクの覚醒者になった気分はどう?」
「覚醒者ってあれですよね……何か特殊な能力に目覚めた人達のことで……いや私普通の人間ですよ」
「リオン!! 情報開示を!!」
「はい」
喪服の女性が誰かを呼ぶと男の人が入ってきて、目の前にモニターのようなものが広がり情報が表示された。
少女――カナタの情報が全て明示されていたのだ。
生年月日、血液型、身長、体重、それだけでなく――
特殊な能力さえも。
「|武器製造戦士《メイカー&ファイター》。貴方は武器を作りだしてそれを用いて戦うことに特化してる……それ以外は不明ばっかね、ちょっとリオン?」
喪服の女性は顔をしかめて男性――リオンをとがめると、彼は慌てて首を振った。
「いや、これ私じゃどうにもならないんですよ!? EXクラス級の秘匿されてるらしくて……!!」
「……仕方ない、他には……」
「あった、空間転移それと、ここも表示されて……待て、なんじゃこりゃ」
カナタは二つの内容に目を丸くする。
女性もその箇所を覗き込む。
「えーと何々…『EX化条件、処女喪失。能力炎熱地獄無同意、催眠その他含む行為を使った本人の意志を無視したもしくは脅迫などで性行為を及ぼうとしたものその身を炎で焼き焦がされる』なにコレ?!」
「いや、私何もしてませんって!! そう表示が出るんですよ!!」
喪服の女性は深いため息をついた。
「貴方相当大変なSランクの覚醒者みたいね」
「……覚醒者になったらどうなるんですか?」
「ああ、その説明をするから、着いてきてくれるかしら」
女性はそういうので、カナタはベッドから降りて、女性の後をついていく。
しばらく歩いて、広い部屋に着く、女性はその部屋の奥にある椅子に腰をかけ机の上で手を組む。
「さて、ここの説明からしましょう、ここはドミニオン本部。私は本部長のレイン」
「ドミニオン⁇」
初めて聞く単語にカナタは首を傾げた。
「ドミニオンは覚醒者を管理またその能力を活用し、ドミニオンがまだ把握してない覚醒者による犯罪や、警察、国家からの依頼で犯罪を抑制――基鎮圧することが出来る特務機関なの」
「で、私はどうなるんですか⁇」
「ランクが低い場合は本人が望めば封印して一般人として暮らすという選択肢はあるけど、カナタちゃんSランクの皮被ったEXランク級の覚醒者だからね、国家から凄まじい監視を受けて暮らすか、ドミニオンで働くかの二択しか今のところないのよ」
「凄まじい監視なんて嫌じゃー!! 畜生、働くしかないのか、私の人権どこいった!!」
「覚醒者になった時点で人権なんてものは無視されます、残念だったね!!」
喪服の女性――レインは輝かんばかりの笑顔で言う。
「うわめっちゃ腹立つ笑顔!!」
カナタはその笑顔を殴りたい気持ちになったが、何か本能的に殴ったら不味いというのを感じてぐっとこらえる。
「ところで貴方が覚醒者になった経緯なんだけど覚えてない?」
「いえ……記憶が曖昧で……」
「そうね、じゃあ説明させてもらうわ」
レインは笑顔から真面目な表情になって口を開いた。
「昨日の午前10時、貴方はちょっと遠出しようとバスに乗った。そのバスがトンネルに入った時に、ドミニオンが確保していない覚醒者がバスを破壊炎上、多数の負傷者が出た。その時、貴方も大怪我をした、その大怪我をした時に貴方の生存本能が貴方にある能力を覚醒させた、そして貴方は――」
「無意識のまま、その覚醒者と犯人グループを一人で対峙していた」
「ちょ、ちょっと待って無意識でって……」
「隠されていた情報の中には特定条件になると開示し発動するものがあるの、救助に向かった覚醒者は貴方の能力一覧に無意識闘争防衛本能が表示されてたと」
「え、さっきは無かった……」
戸惑うカナタにレインは言う。
「貴方の意識があるから開示されてなかっただけ、無意識になれば開示され発動する。そういう能力なのよ、能力名の通り貴方は無意識状態でも戦わなければならないと勝手に体が動くのよ」
「マジか……」
「止めるのに苦労したそうよ、あの二人」
「あの二人?」
「そう、EXランクの覚醒者なのだけど、うちの中でトップクラスに入ってる二人、救助行かせたら貴方がそうなっていたから情報確認して分かったそうよ」
「……」
「敵意を見せれば攻撃してくるから、敵意を見せずに捕獲して、能力を使わせなくする状態にするのが大変だったそうよ。貴方かなり強いみたい」
「いや、全然そんな感じしないんだけど……」
カナタは自分の状態に戸惑った。
「まぁ、いいわ。はい」
レインが手を伸ばすと、カナタの胸元に何かの陣が浮かび上がり、体に沈んでいった。
「ちょ?! 今の何?!」
「伝達能力の付加、これで私は仕事の連絡をするわ。あと学校にも連絡いくから」
「げぇええええ……」
レインの言葉にカナタは心底嫌な顔をした。
――くそ、こんなことで、私のできるだけ平穏無事な生活を送るという願望は潰えるのか……まぁ、使われるといってもこき使われることはないだろう――
カナタがそのようなことを考えていると、レインはそれを見通しているかのような発言でその願いをつぶした。
「うち、人材めっちゃ不足してるからこき使われると思ってね」
「畜生ー!!」
カナタは心の底から絶叫した。
カナタが怒りなが自宅へ帰るのを見送ったレインは一人きりのはずの部屋で口を開いた。
「ディオン、アルビオン」
影が二つあらわれ、姿かたちになる。
ともに美しい男の姿だった。
片方は金髪に黄金色の目の白い肌の中性的な顔立ちの黒衣に身を包んだ青年に見える男。
もう片方は黒髪に黒い目の白い肌をした言葉では表せぬ美しい顔立ちの黒衣に身を包んだ青年に見える男。
ともに人外じみた美貌の持ち主であった。
「――あの子、強かったんだって?」
「無意識の状態ならEXランク相当だろう」
黒髪の男が錆を含んだ容姿に見合った声を発した。
「なるほど……汎用性は」
「高い」
金髪の男が美しい男の声で答える。
「いやはや、最近多いからねぇ人間の犯罪も、覚醒者の犯罪も、取り締まるには重宝しそう」
「俺達の仕事は何だ?」
「今まで通りと――」
「カナタちゃんの監視をお願い、EXランククラスが暴走したらシャレにならないからね」
レインは静かに言う。
二人の男は頷き、その場から姿を消した。
「……さて、カナタちゃんはこれからどうなることやら……」
レインは手を合わせ、楽し気に呟いた。
「それに、基本あの方関係以外には興味を全くもっていないあの二人が興味を抱いたんだもの、どうなるかワクワクするわ」
誰にも聞かれることのない言葉を、レインは楽し気に口にしていた。
「あーあ、これから私どうなるんだろう」
カナタは家に帰ると、心配していた母親に覚醒者になった事を伝えた。
母親は一瞬戸惑ったが、娘の性格に変化がないのを見てほっとし、いつものように対応した。
カナタは部屋に戻り、一人呟いていた。
「あーあ、嫌だなぁ。なんで普通の人生歩ませてくれないんだよ……」
自分にこんな宿命を与えた「何か」に向かって文句を言う。
答えは返ってくることはない。
超能力、基異能力に目覚めたカナタ。
それは普通の生活よりスパイスが効きすぎた生活をすることになるようだった。
カナタの能力は有能と言われて、こき使われると宣言されて「畜生」とわめきたくもなりますよね。
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