アンリアルエンジン用
その場でいると、砂の中に埋もれてしまいそうなぐらいの砂丘が聳え立っている。右手側の砂がサラサラと足元に滑り落ちて来た。辺り一帯砂の山なのかと思うと遠くに緑の山が見えた。左側からは潮風の気配がする。近くに海があるのだろうか。
私は砂に足を取られつつ、海に向かって走った。
砂丘が気のせいか人の頭の形をしているように見える。海の向こうの山は季節が春であることを示していた。青々と生い茂っている。夏の可能性を考えたが、それにしては蝉の声が聞こえない。
微かに肌寒い。
パーカーのフードが風に靡いている。
二つに重なった砂丘を越えたところで歩調を緩めた。急ぐ必要はない。私の探している人はここにはいない。絶対的な確信でそう思った。
彼女は私がこのバーチャル空間に入る前に事故で亡くなったのだ。凄惨な事故だった。時速80kmを越えたバイクにぶつけられ、加害者諸共死んだのだ。彼女の腕から流れる血がフラッシュバックし、閉じていた目を開けた。あれは何かの間違えだ。
私は蹲った。涙は出て来なかった。私が作ったバーチャル空間において涙は存在しなかった。それでも分かる。心が破裂しそうなぐらい痛感を味わっているのは、子供が好きな食べ物を識別するのと同じぐらい簡潔なことなのだ。
少し不思議な砂丘を見つけた。何かを覆うようにして固まっていた。まるで獲物を取り込もうとする蜘蛛の巣のような違和感を感じる。球体のブラックホールが通り過ぎた後のようだ。
私は足を止めてふと砂丘の先に触ってみた。
パラパラと砕けてみっともない形になるが、風が吹くとまた先端を補充していた。
何の法則なのか私は心無しか唸った。リリスを想った。すると、私の名前も徐々に思い出した。
アンジェリー・クレイシス。男だが、アンが愛称だった。私の死んだ彼女はリリス・ハーピーという名だと直感が告げる。リリスは菓子職人で、私を太らせようと試行錯誤していた。それに困って親友に泣き付いたのは良い思い出である。
確かリリスが死んだ夜、親友がリリスを家に届ける予定だった。しかし、何故か親友はその晩に限って飲み会で酔いつぶれていたようである。
葬式の席で何度も謝られた。私は幽霊のように立ち尽くしていた。謝罪の言葉はあまり届かなかった。離人症にかかったかのように呆然自失し、現実感を完璧に失っていた。
夢の中なら、早く覚めてくれ。
強くそう願った。
海が見えて来た。塩と海藻の匂いに自分でも満足する。海らしい海と言うより海そのものだ。
私がやらなければならないことは実に明確だ。バーチャル空間でリリスを創り、一緒に旅をする。もう現実に戻れなくてもいい。リリスの死後、人を寄せ付けなくなり、私は孤独を感じていた。
全てを失ってもいい。リリス、君だけはーー。