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1-1:地方集権都市 近江の生誕 東條保文の接触

『世界に名だたる近代偉人。その言葉を聞いて、あなたは誰を思い浮かべるでしょう?』


『赤道連合初代総長──アラン・ロックウェル?』

『軌道エレベーター建築の父──御子柴秀之?』

『世界統一連合軍の設立を実現した辣腕外交官──楊雷?』


『西暦が終わり、宇宙歴となった激動の100年において、綺羅星のごとき多くの英雄たちが、生まれては消えていきました』


『ですが、誰もが口を揃えて、名を口にするのは彼以外には居ないでしょう』


『世界を変えた男。日本最後の独裁者。国家を──日本を終わらせた男』


『今宵の【激動近代史 ──近代偉人伝──】は、数々の伝説を残した日本最後の総理大臣──御柱黎明(みはしられいめい)について、語っていきたいと思います』


シリーズ動画アーカイブ「激動近代史 ──近代偉人伝──」より



   ■   ■   ■



 東條保文とうじょうやすふみは、自身の目の前に座っている珍生物を眺めながら、眉をしかめていた。


挿絵(By みてみん)

(東條保文 製作:AIイラスト)


「それで。君は一体どうしてあんなことをしたのかな?」


 一政治家として、彼は国民の声をできるだけ平等に聞こうといつも気を付けていた。

 どんな些細な声も聞き逃さず、国民が本当に笑顔になれる政策を寝ても覚めても考えていた。

 政治家基準どころか人間基準としてもかなり高潔な類の人間……東條保文はそういう人物であった。

 だが、その東條をもってしても、目の前の珍生物には眉をしかめずにはいられなかった。


 何せこの珍生物は、東條が街頭演説を始めようと、支援者の人たちと準備をしている眼前に飛び出し「俺を国会議事堂に連れて行ってぇええええ!」などと大声でのたまったのだ!


 まったくもって意味不明であったが、当然ただでさえ目立つ街頭演説の準備中にそんな珍事が飛び込んできたら悪目立ちもする。

 ヒソヒソという通行人たちの冷たいささやきと、何事かといわんばかりの好奇の視線に……良識人・東條はすぐさま悟った。


──あ。これこのまま演説してもたぶん誰もまともに話聞いてくれないな。


と。


 というわけで、東條は泣く泣く街頭演説を断念。

 せっかくの政策アピールチャンスをふいにしたこの珍生物を拘束し、自分の事務所へとご招待しながら、ケジメをどうつけてやろうか? と怒り心頭で問いをぶつけているのだ。


 だが、流石は政治家の街頭演説前に飛び出してくる珍生物だ。度胸だけはあるらしく、あからさまに怒りがにじみ出ている東條の問いかけに、シレット返答してきた。


「だ~か~ら~! 俺がアンタを総理大臣にしてやるから、代わりに俺を政治秘書として雇ってほしいのよ。ゆくゆくは俺も国政に打って出て、最終的には総理大臣になりたいんだ!」

「……あのね、君」


 目の前の珍生物──御柱黎明は、見た限りではいたって普通の学生だった。

 手入れがあまり行き届いていないと見えるぼさぼさの髪に、目があまりよろしくないのか、かなり度がきつめの眼鏡。

 身だしなみにもさほど注意を払っていないのか、よれよれのシャツがセーターの下から覗いており、はいているジーパンはダメージジーンズと言い張れない程度には、ぼろぼろになっている。


「政治家になりたいのならまずは身だしなみをきちんとして、手順を守りなさい。うちは政治秘書は募集していないし、していたとしてもきっちりとしたところに依頼を出して、求人をしてもらう。君のような身元も知れない、ド素人を雇って回していけるほど、政治秘書の仕事は甘くない」


 なにより、私もそれほど余裕がある政治家というわけではない。という言葉は何とか飲み込んだ。


 現在の東條は一地方都市の県議会議員でしかなく、秘書も父親の代からの懐刀である老人だけだ。

 一応新規の秘書も雇いたいと思っているのだが、現在の東條の地位と給金では、人件費は一人の捻出がやっとであり、新しい秘書を雇う余裕などなかった。

 だが、東條はその事実をあえて伏せた。

 他の誰になめられてもいいが、この珍生物になめられるのだけは癪だったのだ。


 というわけで東條は、ごくごく一般的なお断りの定型文を珍生物へとぶつけることにした。


「私のスケジュール管理もさることながら、政治家の秘書なら高い政策知識が求められるし、資料作成の量だってバカにならない。企業の代表や、国会議員の先生方との話し合いの場を整え、失礼のないようにする必要がある。今の君にそれができるとは到底思え……」

「先生さぁ、うちの県の最低賃金引き上げるつもりでしょう?」

「っ⁉」


 だが、そのお断りは珍生物……いや、御柱黎明から無造作に放たれたその言葉で、強制的に閉ざされた。


「……な、なにを言って」

「動き見てたらわかるよ。めったにしていなかった地元企業トップとの会食を多めにしているし、他の議員訪問にも余念がない。それなりに大きな改革を通そうとしている動きだ。そして最近うちの県は住民が増えて、けっこう賃金が上がってきている。ここいらを機に最低賃金を引き上げて、より県に人を流入させようという狙いは悪くないとは俺も思うよ」


 すべて言い当てられた。自分が水面下で進めていた政策を……。

 いまだマスコミにすら明かしていない、内容を。

 何だったらそれをしようとしている理由すらぴたりと言い当てたのだ。

 

 そのことに東條が愕然としている中、御柱黎明はさらにとんでもない言葉を放った。

 

「でもやめといたら。うまくいかないぜ、それ」

「なっ⁉」


 まさかの……全否定であった。



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