0:御柱黎明_プロローグ
「あぁ、退屈だ。退屈すぎて死にそうだ」
よくある河原の土手で一人。大学生くらいの男がそう叫んでいた。
通り過ぎる人々はその声を聴いて驚いて振り返り、男が土手でごろごろしているのを見て「こっわ。近づかんとこ」と足早に去っていく。
だが、そんな周囲の反応など知ったことではないのか、男は一人独白をつづけた。
「こんなもんか……。こんなもんか世界」
男は、現状に退屈していた。
世界の現状に――退屈していた。
「俺がガキの頃はさぁ、正直夢見ていましたよ。扉一枚で世界中のどこでも移動できてさぁ……。金さえ払えばだれだって、宇宙旅行をできる未来を」
だが世界はそうなっていない。
AI技術の発展が声高に叫ばれている昨今だが、結局のところ地球の外に飛び出そうという技術が発展することはついぞなかった。
本当に、このままでいいのか?
本当に、向こう数世紀は変わらなさそうな世界を放置したまま、何者にもなれずに死んでいいのか?
そう、一人の男が思ったとき、運命を決める偶然が起きる。
誰にも読まれないような、二流ゴシップ誌を読んでいた学生が、呆れたようにため息を着きながら、その雑誌をぽい捨てしたのだ。
男との位置関係を説明すると、下の土手に寝転ぶ男に、土手の上に作られた道を歩く学生が、真上を通りぎたような形だ。
当然、ぽい捨てされた雑誌は男の上に降り注ぐ。
「った! おい、あんた!」
男は当然怒り狂い、少年に食って掛かろうとしたが。
「はは、マジかよ」
丁度開かれていたページに、それを忘れる。
「腐ってる場合じゃねぇ!」
男はそう叫んだ後、走りだした。
これが、男──御柱黎明が歴史に名を残す第一歩を踏み出した瞬間だった。