幸せメーターと事勿れ主義者【4】
ユーグが子供の頃の話。ポトシー家は、困窮状態にありました。ですのでユーグの父と母は、ノーブクライワン城の最東端に位置する屋敷に盗みに入ろうと、何とも愚かな考えを実行に移してしまいました。
「その時俺は、会話を聞いてたんっすけど…止めたら何されるか分からないって自分は、子供ながらに怯えていたっす」
屋敷に侵入した父母は、思いもよらないアクシデントに見舞われます。それは、家主に見つかるというものでした。その場でお縄につけば良いものを父は気が動転していたのか、持っていた短刀を家主に突き刺しました。そしてその場を後にしようしましたが、門番に見つかり取り押さえられました。
父は殺人で、母は強盗未遂で捕まりました。そして少年は、一人になってしまいました。
「それで俺は、生きるのに必死だったんっす。最初は物乞いをしてたんすけど、これじゃ食っていけないって思って...食べ物とかを盗んで生きていきましたっす。」
「確かに数年前に、度々貴様は、此処でお世話になっているな。でもその時私は、憲兵庁には居なかったんだがな」
「...勿論なんっすけど、俺を雇ってくれる所は無かったっす。『やっぱり、蛙の子は蛙だな』って何回も言われたっす」
「成程な...それで貴様は、見返したいとは思わないのか?」
「えっ?」
ユーグは思わず、顔を上げました。彼の目には、自分を真っ直ぐに見つめるグルエラの姿がありました。
「言われっぱなしで本当にいいのか?強くなりたいとは思わないのか?」
「俺は...おれは...」
一文字一文字発声する度に、彼の目からは大粒の涙がボロボロと膝に落ちていました。
「私も…あの事件、旦那が殺された事件が起きて変わりたいって思ったんだ」
「事件って…?」
「貴様の親が引き起こした事件だ」
この言葉を聞いた瞬間、ユーグは土下座をしました。
「本っ当に親がすみませんでした!」
「いや、謝らないでくれ、貴様が引き起こしたものでは無いだろう。確かに、私の父は殺された。でも、そんな恨み言を言いたい訳じゃない」
ユーグの顔は、ぐしゃぐしゃに濡れていました。それを見てグルエラは、安心させるように、お母さんのような優しい顔付きで彼の涙をハンカチで拭き取りました。
「ユーグ、貴様はもう充分に苦しんだ。もう…苦しまなくていいんだ。一人でよく頑張ったな」
太陽に包み込まれたような暖かい言葉は、ユーグを優しく抱擁しました。彼の幸せと言うのは、グルエラと会うことだったのかもしれません。
「貴様は、人助けをしたことによって生まれ変わっている。だから、私と共に憲兵としてこの国を平和にしていこうじゃないか」
「…はいっ!」
掠れた声ではありましたが、ユーグは元気良く返事をしました。
「先ずは歓迎会…といきたいところだが、貴様の用事を先に終わらせなきゃいけないな」
そう言って彼女は、ユーグの借金した分の札束をドンッと渡しました。
「いやいやそんな!悪いっすよ…」
「遠慮するな。就職祝いと思って受け取れ」と歯を見せて、目を細めました。
「バンカさん!」
街の中央で呑気に歩いているバンカを、ユーグは発見し呼び止めました。
「お前っ、いつまで待たせーー」
「本当にすみませんでした」と札束をヤツの胸の前に差し出しました。
「お~、やれば出来るじゃんw」
言うや否や、踵を返そうとしたその時、ヤツは振り向きました。
「あーそれと。すまなかったな、ユーグ。」
「えっ」
「今まで散々殴っちまって、後…俺のツレの件、完全に俺の不手際だった。本当にすまなかったな」
頭は下げていないもののヤツ…彼の誠意は伝わってきました。ユーグは、大丈夫ですよと一言言って憲兵庁に戻りました。
「おっ!もう用は済んだのか」
憲兵庁前でグルエラとその娘、マグイが待っておりました。
「あっ!おじさん、ひさしぶりー」と満面の笑みを湛え、大きく手を振っていました。
「こら、マグイ。お兄さんだろ?」
「いや、気にしてないっすよ」
マグイに手を振り返した後に彼は、グルエラから憲兵の服を渡された。
「これを着れば、貴様も立派な憲兵の一員になる。覚悟は出来ているな?」
「はい、勿論っす!」
早速着替えて来いと彼女に言われ、彼は誰も入っていない取調室で着替えを済ませました。
「グルエラさーん、ってあれ?」
指定された、取調室を出て左奥の部屋に入ったユーグですが、何故か人の声は聞こえず一寸先も真っ暗闇な所でした。
ですが、それは一瞬にして解消されました。グルエラは勿論のこと、他の憲兵達も彼のことを出迎え、クラッカーを盛大に鳴らしました。
「「「ユーグ、おめでとー!」」」
「うぇっ、え?」
案の定、彼は戸惑いました。が、直ぐに歓迎会だと分かり笑顔が零れていました。
「いやぁ~、これで憲兵庁も安泰だな」
「いやいや、そんな事無いっすよ!」
突然、ビールジョッキを持った憲兵に肩を組まれまたもや戸惑いました。
ユーグは、幸せだなぁと感嘆の息を漏らしました。因みに彼の歓迎会は、一晩中続いたのだとか。