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商売ネクロマンシー  作者: 矢瀧 忠臥
ノーブクライワン国
6/15

幸せメーターと事勿れ主義者【1】

「後、20人くらいですか…」

そんなことをボヤきながら、ミファエルは紙に正の文字を入れていきます。残り20人、彼にとっては先の見えない不安がありました。人の噂も七十五日と言いますが、それほど長く続きませんでした。噂と言っても、城の門を出入りしただけで、それを見た人が勝手に騒いでいただけにしか過ぎませんでした。


ミファエルは、自分の前を通り過ぎて行く人々を眺めてばかりいました。数日前の栄華は何処へ行ったのでしょうか、彼は溜め息を吐いていました。それを木箱の後ろの陰で見ている人影が居りました。

「もし、そこのお方。何か用ですか?」

ミファエルが声をかけると、隠れていた者は身体を震わせて更に隠れてみせました。その行動に呆れたミファエルは、彼の元に徐に近付いていきました。

「分かった分かった、商人さん!変な行動とってすんませんっす」と素早く出てきて、潔く土下座をしていました。

そんな彼の格好は、お世辞にも綺麗とは言い難いものでした。


「顔を上げてください。...それで、ボクに何か用ですか?」

「いやぁ、此処のお城からアンタが出てきて驚いたよって言いにきた...っていうのは通用しないっすよね?」

彼は、汚い袖で汚い顔を拭く動作をしていました。そんな彼の顔はやつれているのですが、まだまだ若い青年でした。

「えーっと、無料の商品って...ないっすか?」

「えぇ、ありますよ。あまり質の高いものではありませんが...」

「それでも大丈夫っす!図々しく言える立場じゃないんで」

「ありがとうございます。」と袈裟の懐から四角い腕時計を取り出しました。

それは、針も無ければ数字も無い、謂わば画面の着いていないデジタル時計みたいな物でした。


「横に着いているボタンを押したら、起動しますよ」

ミファエルは、困っている彼に言いました。言葉通りに押すと、『0』と画面に表示されました。

「これ、なんて言う商品なんすか?」

「はい。『幸せメーター』と言いまして、画面に表示されている数字は、助けた人数です。因みに、上限は『100』です。」

「『100』行ったら、どうなるんすか?」

「良い質問ですね。『100』になれば、貴方様は幸せになれますが…本当にそうなるのか、ボクには皆目見当もつかないんですよね」


その言葉を聞いて、彼は逡巡していました。…彼は、事勿れ主義者でした。ニンゲンと関わることによって、変な事件に巻き込まれるのではと、そんな風に考えておりました。しかしそれは、『幸せになれる』という言葉で打ち消されてしまいました。

「分かりました。ください、幸せになりたいっす!」

「ありがとうございます。それと、お名前を聞いてもよろしいですか?」

「はい!ユーグ・ポトシーっていいます」

「ミファエル・クィンリッヒです」

ユーグがメーターを身に付けた時、『0』と表示されていたものが『1』となっていて彼は疑問に思いました。


「あの~、何か数字の『1』が出てきたんっすけど…」

「あー、それはボクの所為ですね」

「つまり、ミファエルさんを助けたってことっすよね?」

「そういうことになりますね」と笑顔を見せました。

ユーグは心做しか、胸の中がぽかぽかとし、良い気分に浸っていました。彼は、大事そうにメーターを包み込んでミファエルの元を離れました。


「おっ!ユーグじゃんw」

ニヤニヤしながら、憎たらしく太っちょの男が、取り巻き二人を連れて彼を囲みました。その男の名は、バンカ・ヤグフレア。ヤツの声を聞いた途端、メーターをパンツの中に隠しました。ユーグを見つけては、いじめるという非常に厄介な男でした。

「な…何か用っすか?」

「おいユーグ、分かってんだろ?金だよ、金」

「今は何も持ってないんすよ。」

そう言って、ズボンのポケットの裏地を見せました。

「はぁ~そうか。持ってないのか…」と言い切った後、ユーグの頬に拳を当てました。

彼は、床に打ちつけられて気絶してしまいました。バンカは、取り巻き達を呼び、寄って集ってユーグの身体を蹴りました。それを止める者は、誰一人として居ませんでした。街の中央の筈なのに…


「ごほっがはっ!」

彼は、身体の痛みと共に目を醒ましてしまいました。どれだけ血を吐こうが恥ずかしいくらいに涙や涎を流そうが、耐え続けていました。

「このくらいにしといてやるよ。その代わり、明日までには用意しろよな」と、痰と一緒にそう吐いた。

ユーグは、他人の目も気にせず地面を這いずり、路地裏に入り込みました。そこには、使われなくなった木箱達…彼の家がありました。彼は、家の前でもう一度気絶しました。


「もし、大丈夫ですか」

ぼやけた視界は、輪郭を捉えるのに時間がかかりました。どこかで聞いたことのある声は、ユーグの心配をしていました。

「アンタは…?」

「ミファエルです。後、ポーションを作ったので飲んでください」

彼は、差し出されたポーションを無言で飲み干しました。

「にっげぇ…」

「お口にあって何よりです…それで、一体何があったのですか?」

ユーグは、徐に口を開きました。

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