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商売ネクロマンシー  作者: 矢瀧 忠臥
ノーブクライワン国
5/15

お姫様と旅商人

「失礼します。ミファエル様をお呼びしました」

「ご苦労様。もう下がっていいですわよ」

一礼したグヒドと入れ替わるように、ミファエルがアリネの前に姿を現しました。


「久方ぶりです、アリネさん」

「こちらこそ。それはさておいて、あのネックレス本当に良かったですの」

「それはそれは、気に入っていただけて光栄です」

「そこで貴方に、いいお話がありますの」と自信たっぷりに胸を張って言いました。

「ミファエル・クィンリッヒに『大商人』の称号を与えますわ!」


その言葉に彼は、多少なりとも驚きました。それもその筈、『大商人』と言えば、全国各地の商人が喉から手が出る程欲しがっている称号なのです。それを手に入れるには、王様の許可が必要なのです。

「それは…本当ですか?」

「嘘を吐いているように見えますの?」

「いえ、そんなことは…ただ、信じられなくて」

ミファエルは、喜びで綻んだ口元を手で隠していました。そんな彼を見てアリネは、どこか誇らしげに笑っておりました。


王様の部屋の外でノック音が聞こえた父親は、誰だと威厳ある感じに訊ねると

(わたくし)です。アリネですわ」と可愛い愛娘の声が聞こえました。

案の定父親は、朗らかに目を細めて

「入って良いぞ~」と、猫なで声を発していました。

「…失礼しますわ。お父様に用がありますの」

「そうかそうか、アリネの喜ぶことなら、何だってしてやるぞ」

「そうですの。それなら、このお方を『大商人』にしてくださいまし?」

そう言って、後ろに居たミファエルを紹介しました。彼は、緊張しながらひょこっと顔を出し

「お初にお目にかかります、国王陛下。旅商人をやっているミファエル・クィンリッヒと申します。」と片膝をついて自己紹介をしました。


父親は、もう一回威厳のある顔つきになり、ミファエルを睨みつけました。

「何故、彼を『大商人』にしようと?見た所、商人っぽさわ感じられんのだが」

「このお方は、本当に立派な商人だと思いますわ。(わたくし)が保証します。この…ミファエルさんは、盗賊に襲われていた私達を助けてくれましたし、瀕死状態のグヒドを救ってくれました。」

「ほぅ…」

父親が腕を組んで、お姫様の話を聴いておりました。

「ミファエルさん、こう見えてもネクロマンサーですのよ?そんな彼に魅了されて、恩返しのつもりで(わたくし)は彼の売っている商品が欲しいと思いましたの。それで、買ったネックレスのお陰で、私は変わりました。」

「なるほどな。それで…ミファエルと言ったか?」

「はい」

「お前は、何人くらいと商売の話をしてきたんだ?」

「アリネさん…だけです」

「じゃあ無理だな、(わし)の娘だけでは『大商人』の称号は与えられんな」


現実はそう甘くないとミファエルは痛感しました。アリネは、肩を落として彼の事を気にかけました。

「すみません。力になれなくて」

「いいえ、十分力になりましたよアリネさん。それで、何人くらいで『大商人』を貰えるのですか?」

「そうだな…。ざっと50人くらいじゃないか」

「分かりました。それでは、失礼しました」

ミファエルの背中には、哀愁が漂っていました。


城に停めておいた荷台を引こうとしたその時

「待ってくださいまし!」

お姫様がミファエルを呼び止めました。そして、彼の元に近付きました。

「ミファエルさんのことを応援していますから…」

アリネは、モジモジした様子でそう言いました。彼は、何も言わずに微笑んで、その場を後にした。


城の門が大きい音を立てて閉じた時、ミファエルは胸を張って商品を売りに行くのでした。後ろの荷台は、レンガの凸凹によってガタガタと振動を繰り返す。建ち並ぶ家々が、妙に恐怖感を煽っているように、彼はそう感じていました。此処の住人の邪魔にならないように、荷台を道の脇に停め、手を叩こうとした瞬間でした。

「あんた、ミファエルさん?」

「はい、そうですが」

「!それなら、何か売ってくれよ。何でも買うからよ」

男がそう言ったら、歩いていた人々はミファエルを囲みました。案の定、彼は戸惑っておりました。

「これは…どういうことですか?」

「あんた、あれだろ?アリネ様を虜にしたって言うあの商人さんだろ」

聞こえはあまり良くないなとミファエルは思いましたが、そんなことは気にせず営業スマイルをつくり、商売の話を進めるのでありました。

とある小話

ミファ「そういえば、グヒドさんのお名前を聞いていませんでしたね」

グヒ「何故、グヒドが名字だと思うのですか?」

ミファ「まぁ、名前だけを名乗る人ってあまり居ませんから、そうなのかなって口にしただけです」

グヒ「…笑わないでくださいね。マヤって言います、マヤ・グヒド」

ミファ「何故笑う必要があるのですか?」

グヒ「それは…女の子っぽいと馬鹿にされたことがあるので、名前は言いたくなかったのです」

ミファ「そうですかそうですか。でも、自分の名前は誇りに思った方が良いですよ。親御さんが、一生懸命に考えたものですからね。」

マヤ「分かりました。名前に恥をかかず、精進していきます。」

ミファエルは、微笑んだ。

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