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商売ネクロマンシー  作者: 矢瀧 忠臥
ノーブクライワン国
14/15

キューピットアローと転生者【3】

それからというもの…ヴァイルは数日もしないうちに、大賢者が居なくなった世界を支配していた魔王を弱体化させ平和にさせました。大雑把じゃないかと言われるかもしれませんが、残念ながらこれでも長めに話した方だと思います。それほどまでに、彼の物語は短く儚いものでした。そしてそこで幕を閉じるのかと思われましたが、彼の頭には元の世界に帰るなんていう最終目標は無いので、一旦メンバーから離れて一人でのんびりライフを満喫しようとしていたところに、旅商人のミファエルと出会って今に至ります。


そんな元英雄様は、メンバー達とイチャイチャしていました。彼女達は、彼の身体を舐め回すようにベタベタと色んな所を触っていました。目をハートに輝かせ、口元をだらしなく緩ませながらヨダレを垂らし、狂ったように喘いでいる様は、羨ましいを通り越して地獄絵図のようなものでした。ヴァイルは残酷にも、そんなものに不気味さなど微塵も感じておりません。恋は盲目とは言いますが、ここまでくるとあまりにも酷すぎます。そしてそんな彼らは、一晩中…と言うよりかは一日中、性を謳歌しました。


まるで夢のような一時を過ごした彼は、どこか虚ろな表情を浮かべておりました。

(足りない…まだ、足りない)

彼は、一向に減りようのない性欲を何処かにぶつけたいという感じで、そんなことを考えておりました。その目は、ケダモノのようにギラギラと輝かせていました。捉えている対象はやはり女性。矢の本数は無限大。困ったことにこの救いようの無い性欲大魔神は、赤の他人にまで手を出そうとしているのです。


案の定、手を出した彼は、後に引けなくなっておりました。昔のキラキラしたオーラなどは無く、性欲によって突き動かされている操り人形のようになっていました。そしてヴァイルは、いつものように弓を引こうとした瞬間でした。凄まじい悪寒を感じたのです。弓を引く手は、がっちりと固定され、まるで金縛りにでもあったかのような感じでした。

「おい…どうなってんだよ!」

自分でも状況が理解できないようで、恐怖に震えるばかりでした。そこでふと、誰かの言葉を思い出したのです。

『もし矢が増えた場合、そんなことは起らない筈なんですけど、どうなっても知りませんからね』


途端、ヴァイルの息は荒くなっていきました。

「あの商人か…あの商人か…!」と恨めしく呟いております。

ですがこれは、彼が一方的に蒔いた種。彼が恨み言を言うなど笑止千万、なおかつ目も当てられないようなものでした。


『貴方様は、とんでもないことをしでかしたのですよ』

すると、彼の頭の中から例の商人の声がしました。ですが、ヴァイルにとっては驚きという感情は湧かず、自分勝手な憤りを(ほとばし)らせていました。

「ミファエル…クィンリッヒ!」

『はい』

「てめぇを、絶対に、許さない…!」

なんとも哀れなものです。怒り狂ったニンゲンというのは、こんなにも幼稚になるものかと溜め息を吐きたくなるような言動を平気で行います。勿論、我々も例外ではありません。


『ここまで来てしまえば、もうボクの手に負えません』

「どう…いう、ことだ?」

弓を持つ手は固まったままのヴァイルは、産まれたての子鹿のように震えるばかりであります。

『もう、見えてきたのではありませんか?』

定まらなかった視点は、一瞬ボヤけて回復しました。そんな目には、ヴァイルと関係を持った複数の女性が尋常じゃない震えを起こし俯いている姿が映りました。愛に飢えた女性よりも愛に騙された女性は、何十倍にも怖いものです。

「や…やめてくれ!」

漸く身体が動いたかと思えば、尻を擦って後に下がるばかりでした。そして、掠れた声など彼女達の耳には届くはずもなく、彼はいとも容易く捕まってしまいました。


女性は、怒らせると怖いものです。ヴァイルはただ、そんな単純なことを知らなかっただけなのです。

「ゆ…許して下さい!」

言葉を無視しているのか、もしくは聞いているだけなのか、彼女達は彼を冷たく見下ろしていました。そんな沈黙だけの続く修羅場に、彼は耐えきれなかったのか、白目をひん剥き気絶しました。

『…ルールを守らなければ、お(まじな)いは(のろ)いへと変わるんですよ』

ヴァイルは、無意識の中でミファエルの声を聞き取りました。


暗闇の中で一人の転生者は藻掻き苦しんでおりました。

(くそ…くそくそくそ!オレは、またドン底を味わうって言うのかよ。ふざけんな!…ミファエル・クィンリッヒ、次会った時は絶対にぶっ殺す。こんな屈辱、社会人以来だ)

そんな恨みつらみを延々と繰り返すだけでした。そこには絶対と言っていいほど、ミファエルの名前が出てくるのであります。

『コンテニューしますか?』

残酷に浮び上がる白文字は、目がチカチカする程眩しいものでありました。救いようの無い転生者は、YESと言って姿を消していきました。

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