龍人の騎士と旅商人
『もし、聴こえていますか?』
「…うン?何か、聞こえたようナ」
『此処ですよ、水晶玉』と言われた所を見てみれば、みすぼらしい男…ミファエルが映っておりました。
「ぬおッ!」
思わず、掴んだ両手から落としそうになるほど、奇抜鎧の彼女はびっくりしてしまいました。
「って、あァ!アンタ、『龍人ノ峠』から水晶玉を盗んだヤツカ!?」
彼からしたら突拍子も無い言葉が、彼女の口から発せられました。無論、ミファエルは首を傾げました。
『いえいえ、違いますよ。多分人違いですし、ちゃんとしたルートで手に入れた代物ですよ。…というか、貴方様は龍人なのですね』
龍人ノ峠というのは、ノーブクライワン国から南西に位置する場所です。『龍人』というのは、人外一種の一つであります。その『龍人』は、極めて温厚でニンゲンの言葉を真似たり理解出来たり、この世界では一番力が強い種族であります。見た目は、肌の所々に鱗があり背中に小さい羽、大きい尻尾をもった感じです。
「まぁ、そうダ!龍人の女騎士、スペコとはアタイのことダ」
『はぁ、ミファエルです。それよりも、商品を盗まれては、大変に困るんですよね。返してくれませんかね?』
「嫌ダ。渡したりなんかするものカ!」と声を荒らげました。
『…理由をお聞かせください』
「さっきも言ったが、アンタみたいなヤツが、龍人ノ峠の水晶玉を盗みやがったのダ。それでアタイと峠の長のワコ様と共に、片っ端から探したのだが、ノーブクライワン国でワコ様とはぐれてしまったのダ!それで探していたら、荷台に水晶玉があって、まさかあそこに閉じ込められたのではと思い取っタ」
『えーと。つまり、これに貴方様のご主人が居ると?』
「そうダ!」
『ボクは誘拐犯ではありませんし、残念ながら、この中には居ませんね』
「そうカ…なら、ワコ様を見つけ出してくれないカ?」
スペコは、目をうるうるさせながら懇願しておりました。
『まぁ、分かりました。特徴を教えてください』
「アタイ以上に、奇抜なものをお召しでいらっしゃったナ
。それと、姉妹設定でニンゲンに化けたから、小さい女の子の見た目をしているゾ」
『ありがとうございます。見つけ次第、報告致します』
「オー、助かるゾ!」とギザギザの歯を輝かせ目を細めておりました。
「後それと、水晶玉を見つけたら龍人ノ峠まで持って来てくれないカ?」
『わ、分かりました』
この会話が終わった瞬間、水晶玉から彼が姿を消しました。
(ちょっと怪しかったガ…まぁ、敬語使ってたし信用出来るヤツだろウ!)
会話を終えた途端、ミファエルは汗を流してぐったりと座り込んでしまいました。やはり、種類の異なる魔法を同時に使用することは、それなりの体力を消耗するものなのでしょう。彼は立ち上がろうとしますが、一つの筋肉も動かせないくらいに弱ってしまいました。するとその時、一人の男が彼の目の前に立ち止まりました。
「おい、あんた。大丈夫か?」
「あの、すみません。薬草の一つや二つ、持ち合わせては、おりませんか?」
「薬草…?」とズボンのポケットを探り始めました。
「おっ!あったぞ」
驚いたことにその男は、一つのポケットから数え切れないほどの薬草を取り出しました。
「おぉ…凄いですね」
「これくらい普通だと思うけどな」と淡白に言いました。
ミファエルは、貰った多数の薬草を近場にあった石ですり潰し、懐から取り出した紙の上に乗せ飲み込みました。
「…ありがとうございます。えーっと」
「オレの名前は、ヴァイル・イーシャ。気軽にヴァイルって呼んでくれ」
「ミファエル・クィンリッヒです」
ヴァイルは、ミファエルを持ち上げるようにして、笑顔で握手しました。