新米憲兵と旅商人
「んー、後2人程ですか…」
『大商人』の称号を獲得するため大奮闘中のミファエルは、荷台の車輪に背を預けてボヤいていました。とその時、ド派手な色が目立つ鎧を見に纏った女性が、彼の目の前に立っていました。
「…おぉ、お客様ですか!っと、見たことも無い鎧ですね。龍が描かれていますね…それはーー」
訊こうとした瞬間、彼女は荷台に積んであった水晶玉をぶん取り、尋常じゃない速さでその場を後にしていました。待てという声を発するのが不可能な程に。
すると、ぜぇぜぇと喘いで走ってくる、見たことがあるようで無いような憲兵の姿がありました。そんな彼は、「ミファエルさーん!」と手を振っておりました。あれはもしかして…とミファエルは、彼の姿をひっそりと思い出していきました。
「お久しぶりですね、ユーグさん」
「いえ、こちらこそ、お久っす」
ユーグは息を整え、2~3枚程の紙幣を渡しました。
「いや、そんな悪いですよ。」
「いえいえいえ、これでも足りないくらいっすよ!…それと『大商人』、取ろうとしてるんすよね?」
「まぁ、そうですね…有難く頂戴致します」と渋々と紙幣を受け取りました。
「そういえば、ミファエルさんってナニモンなんっすか?このメーター、多分、呪術とかで施してるっすよね?」
「…はい、そうです」
「失礼も承知で勝手に調べたんっすけど、ミファエルさん、副業で『ネクロマンサー』もやってるんすよね?」
「ネクロマンサーって確か、死んだ人の魂を扱うことが出来るって、風の噂で聞いたことがあるんっすけど…何で呪術とか使えるんすか?」
「まぁ…必要最低限の黒魔術、つまり呪術やら蘇生術など、お爺ちゃんから教わりました。ですが、彼は出来すぎたと言いますか…」
「それは…?」
「端的に言えば、大賢者だったんですよ」
「つまりお爺様は、一番位の高い魔法使いだったってことっすか!?」
この世界では、魔力の高い順に『大賢者、魔法使い、ネクロマンサーその他諸々』とこんな風になっています。大賢者というのは、魔法使いで十万人に一人なれるかなれないかの程度で、魔法の強さや頭の賢さ、統率力の高さなどでなれるものではありません。それに対してネクロマンサーなどの使う黒魔術は、誰でも使える魔法ではありますが、危険性の方が高く、それ故か誰も黒魔術師を目指そうとは思っていませんでした。かと言って、大賢者を目指そうという人もあまり居ません。この世界のニンゲンは、以外にもリアリストが多いのかも知れませんね。
「ミファエルさんは、大賢者とか興味無いんっすか?」
「まぁ、ありませんね。どちらかと言うと、ボクは人々を幸せにする商人になりたいと思っています」
ユーグは、彼の夢を聞いて感心しました。
「それで…ユーグさんは、幸せですか?」
「そりゃあ勿論っす!このメーターのお陰で、素敵な上司に巡り会えましたしーー」
「おい、ユーグ。こんな所で何をしているのかな?」といつの間に居たのか、グルエラが怖い顔をしてユーグの後ろに立っていました。
「ひっ!いや、グルエラさん…これは、その…」
「言い訳無用!」
そう言って彼女は、彼の腕を引っ張り、ミファエルの元から離れていきました。
「それは…何よりです」
笑顔で手を振ってくれる彼を見て、呟くように言っていました。
(そういえば…誰かに、水晶玉を盗まれたような気がしますね)
そんなことを思った後、ミファエルは、脳内通信術の呪文を詠唱し始めました。
『…いったんだ?ワコ様は~』
此処から離れてはいるものの、魔法を使えない範囲内では無いので、別の魔法を詠唱し始めました。
とある小話
ユグ「あの、先輩。グルエラさんって結構厳しいっすよね」
憲兵1「あぁ、流石、元帝国軍人といったところだよな」
ユグ「えっ!そうなんすか」
憲兵1「お前知らなかったのか?スマル帝国って所で中将をやってたんだぞ」
ユグ「それは、知らなかったっす…」
憲兵1「それで子供が生まれたからって軍人をやめたら、『強い君が好きだったのに』って旦那さんが言って出ていったんだよな」
ユグ「旦那さん、酷いっすね」
憲兵1「だよな。そして困ったグルエラさんは、昔住んでた此処に帰って来て、憲兵になったって話。あの人、以外にも苦労人なんだよな~」
ユグ「そうなんすね。でも、グルエラさんって何歳ーー」
憲兵1「それは、死んでも口に出すな」
ユグ「うっす」