第7話『《魔王》ティー・ターン・アムリタ』
幼女戦記の化け物ループに沼ってしまった。
底が見えないナニか。
一言で表すならばこの一言に尽きた。
目の前に対峙する黒い液状の何か。スライムではない。それとは別の意思を持った何か。
『鑑定』を用い相対する未知の何かを閲覧する。
「__ッ!」
ビリリと。まるで雷に撃たれたかのような衝撃が身体を走り『鑑定』が抵抗された。
久しくなかったこの感覚。直感で分かる。黒い何かは___
眼前にしていた黒い何かが消える。否、移動したようじゃ。
その形状からは想像できない程の異様な速さ。死角から飛び掛かった黒い何かに合わせ、空間に収納していた愛刀を引き抜きその物体を引き裂いた。
「むっ。」
二つに切り裂いた筈の物体が瞬時に結合し一塊に戻る。まるで時を巻き戻したかのようにその黒い何かは我から距離を取るとその動きが止まった。
「………」
相手の状態を分析する。手ごたえはあるが、まるでダメージを与えておる気配がない。やはりこれは___
刹那に振るわれた刃を愛刀で受け止め、その黒い何かの状態を見て思わず目を見開く。
「これは___我?」
「……」
目の前に肉薄するのはまるで影のように黒い、我と瓜二つの存在。数回の打ち合いでその練度を把握する。これは完全に我。全くもって我と瓜二つ。まさか、我の能力を複写しているとでもいうのか?
成程、これはちと面倒じゃな。
久しく出会うことの無かった強敵。過去を振り返ってもこれほどの力を持ったモノを相手したのは数えられる程度じゃ。
冷静に相手の動きを読み、適切に打ち合いに対応していく。隙をみて蹴りをいれ距離を取り、魔法を発動する。
「《装填》」
手のひらサイズの紫の魔法陣を正面に展開。即座に間合いを詰めてきた黒い我。即座に別の魔法を発動させ、向かってきた我に仕掛けた。
「《領域呪縛》。貴様はそこから逃れられぬ。」
対象を一定の位置から拘束する呪縛の付与。一定時間しか効果はないがそれで十分じゃ。
「《連撃の矢》」
目の前の魔法陣から連続発射される魔力で形成された矢は、黒い我の全身を撃ち抜き、『領域呪縛』の効力が失われるまで撃ち込まれる。魔力系統の攻撃は効果があるのか、黒い我はその形を保てなくなり崩壊し、再び黒い液状に戻る。
どうやら、魔力系統の攻撃で消し飛ばした方が良さそうじゃの。そう思案した瞬間、バンシィの焦燥が混じった叫びが聞こえた。
「おっさん!後ろッ!!」
「ッッ!!」
振り返った瞬間、手にしていた愛刀が弾かれる。
黒い我に刃を振りかざされ、新たに空間から武器を取り出す。剣や刀を受け止めるために作った我が力作。鉄棒に鈎を取り付けた取り回しのいい棍。我の愛刀と瓜二つの刀を受け止め足払いをするが、身体を液状化させ躱される。液状化した黒い何かは即座に本体の方へ戻り合体する。
いつの間に分裂しておったのかの、気付かなかったわ。
「おい!おっさん大丈夫なのか!?」
「大丈夫じゃよバンシィよ、そこで見ておれ。」
__とは言ったものの、まさか我が気が付かぬ内に分体が作られておったとは、意外じゃ。これは手は抜けぬな。
「《思考加速》《防壁強化》《防壁反射》《行動加速》《知覚強化》」
思考が加速し魔力感知の知覚能力を向上させ、周囲の草木の魔力やその流れの全てを見通し得られた情報の全てを分析し、相手の行動パターンを何万通りと予測し観測する。おそらくこの黒い何かの正体は___
我の姿形を模っていた黒いそれの魔力が攻撃的になるのを理解し、即座に最適の討伐手段を予測し先制して発動させる。
「《ワールド・バーン》!」
「《■■■■■》」
音すら滅ぼす破滅の最上位魔法を撃ち出すが、相手の光を味方につけた様な未知の魔力攻撃がそれを打ち消す。ふむ、やはり手加減していては勝てんな。
転移魔法を行使し、手元から離れた愛刀と手にした鉄棍を別空間へ転移させ収納する。武器が効かぬ相手、魔力を以って征しようぞ。
「《魔力解放》」
制限を外した我が魔力が身体中から溢れ出る。闘争本能を極限まで高めた様な暴れ狂う魔力を制御する為に、肉体が種の原点へと回帰し身体が変化しているのが理解。思考と知覚が野生に返った様な生存本能に浸食され、それらが拮抗し混ざり合う。高速化した思考と生物の頭の天辺から足の先まで、その動きが分かるまで研ぎ澄まされた知覚が生存本能の様な野生の勘とで洗練されあらゆる戦闘パターンを予測し行動する。
相手の攻撃に対してその全てを読みきり、適切で最小限の魔力を以って相殺し圧倒する。
光を物質化したかのような斬撃攻撃を処理し、その場から動くことなくその不定形な実体を魔力の矢で何度も撃ち抜く。敗北を悟ったのか逃亡を図ろうとする行動を予測し、その経路を先んじて魔力の矢を以って撃ち抜く。
黒いそれの動きが止まる。
諦めたのか、はたまた別の目論見があるのか、どちらにせよ対応策は何パターンと用意した。覆せるとしたらそれこそ運命よ。
「__そろそろ終わらせようかの。」
無詠唱で《領域呪縛》を発動。効力は詠唱した場合よりも劣るが、なに。抵抗する気のない相手にはこの程度でも十分よ。しかしこれは、否。やはりと言うべきか。この黒い物体は……。
『龍王』ドラグめ、とんでもないのを相手させようとは、一体何が狙いじゃ?
奴の思惑には幾つかの予測は付くがしかし、どれも証明しようのないものばかり。流石に読み切れんのドラグ=バンバーン。
思考を目の前の相手に戻す。囚われ、身動きの取れなくなった黒いそれ。このまま放置するわけにもいかぬ、しかしその魂。本体とは完全に分裂した分体とは言え、その魂の格は別格。並大抵の攻撃が効かないわけじゃ。
「ならばこそ、我が終わらせるに相応しい。」
膨大な荒れ狂う魔力を制御し、魔法の発動に必要な魔術を展開する。
「『永久に眠るがよい』」
背面に数十を超える闇を纏った紫の魔法陣が無作為に展開しその矛先を黒い何かに向ける。
永久に破滅を約束する、その全てを終わらせよう。
「《永久の終わり》!」
発声と共に撃ち出された紫炎を纏った様な破壊の光線。黒い何かは疎か、眼前の風景の全てを音と共に消し飛ばす。触れた瞬間蒸発し、大地ごと終わらせる破滅の究極魔法。
現象が思い出したかのように、爆発音と爆風と共に我の肌に当たる。
砂塵が舞い辺り一帯が見えなくなるほどにその破壊の威力は凄まじい。
暫くして砂塵も落ち着き視界が開ける。
我が視界に収まるのは草木の失われた真っ新な大地。流石は我、魔法の威力もピカイチじゃな。
うむ・・・・・・
「___ちと、やりすぎたの。」
「やりすぎなんだよッ!!」
「いたッ」
背後にいたバンシィから小石が後頭部に直撃した。ちと扱い雑ではないかの、我。
次回投稿はおそらく2/8