第4話『どいつもこいつもいかれてらぁ』
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突然目の前に現れた黒いコートを着た目つきの怪しいおっさん。人を見かけで判断してはいけないとよく言うが、くたびれた様な眼に終始眼が泳ぎ、俺の全身をなめるように見回す姿は、どう見ても危ないおじさん。俺、男ですよ。いや、誰だよこのおっさん。どっから出てきたんだよ、しかもさっきからこのおっさん俺の持ってる丸焼きにばっか目がいってるしよ、あげないぞ!
「え?____違うのか?」
眼が泳ぎに泳いだおっさんは、不安そうな表情で確認をしてくる。何だったか、『永久の呪縛』を手に入れたかどうかだったな。
「いや、確かに俺が『永久の呪縛』を手に入れ……ましたけど?」
って言ったら、おっさんが俺の手を取って泣き始めた。キモい。
「おぉぉぉ!!お前だったか!!嬉しいぞ!!同じ『永久の呪縛』を持つ者同士、仲良くしようではないか!!」
そう言って俺の手の甲に、涙を流しながらほっぺをすりすりしてくるおっさん。タスケテ!お巡りさんこいつです!
「は、はぁ?」
「一体、何の称号を手に入れ『呪縛』を得たのだ?もしかして『不老』かの?」
俺の手の甲に頬を付け涙目になりながら上目遣いで問いかけてくるやべぇおっさん。
「いや、『不死身』ですけど?」
一応ちゃんと答え、『不死身』って答えるとこのおっさん。紅く輝くその眼を大きくして驚いた。
「『不死身』だと!凄いではないか!___一発殴らせては貰えぬか?」
は!?ちょっ!おっさん何言ってんだよ!初対面で殴るって何よ!?あと、いい加減俺の手から離れろ。俺が反応に困ってると、何かを理解したのかパッと頬を離し立ち上がり俺と視線を合わせた。背丈は俺の方が若干高い、髪の色は僅かに紺色が混じっているくらいの黒髪で、アニメでしか見たことの無かった紅い瞳をした少し鍛えられたくらいの平均くらいの体格をしたおっさん。面白い事でも思いついたかのような、楽しそうな表情でこう語った。
「おぉ、すまんな、『不死身』と言うのが、どれ程の力が有るのか試してみようと思うてな。初対面の者にいきなり殴られるのは癪だな。___今更だが、我の名はティー・ターン・アムリタ。おぬしの名は?」
「あ、えと。」
突然の自己紹介に戸惑いが隠せない、なんだこいつ自由人か。いや、おっさんか。
「__バンシィ・ディラデイルだ。」
「ふむ、バンシィ……ディラデイル。良い名じゃ。ところでバンシィよ、ここはいったいどこじゃ?見た所、おぬし人間のようじゃし、人間族領かの?」
不意に問われたその質問に俺は違和感を覚えた。人間族領?__このおっさん、その言い草だと人間じゃない?見た目で変わったところといえば紅い瞳を持っていることくらい。かっこいいよね、紅い眼。それ以外に特に身体的な特徴の違いは見られない。
「人間族領って、何の話ですか?___見た所、あなたも人間に見えますけど。」
そう答えるとおっさんは、「ほう」と考える素振りを見せ、その雰囲気を僅かに重たい空気に変化させ、紅く煌めくその双眼で、こちらを覗き込むように見つめた。
暫くの沈黙の後、おっさんは顎に手を当てながら、ぶつぶつと呟く様にこう言った。
「___称号『不死身』に『創造魔法』。それに『古代魔法』か、その身に内包する魔力とこの称号の異常性___なるほど。バンシィよ、聞くがおぬし転生者じゃな?」
的確な答えを言い当てられ、思わず引いた。なにこのおっさん、気持ち悪ッ!なんで俺の称号まで分ったんだよ。頭の中で考えをまとめていると、おっさんがとんでもない事を言い放った。
「あ、我。他者の称号を見ることが出来るし、何なら心も読むことが出来るからの。深く考えなくてもよいぞバンシィよ。」
「は!?何それずる!」
心を読む!?そんなチート能力あっていいのかよ!ずるいよそれ!抵抗しろ、抵抗!
「まぁ、我の特権だし、諦め……え、もう抵抗された。ずるくないかの。」
へぇ、これも『不死身』の力ってやつかな?無敵かな?
「そう、これこそが『不死身』の力ッ!!」
「な、ん……だと。」
おっさんが驚いた顔で膝から崩れ落ちる。なにこのおっさん、ノリいいな。
「のう、バンシィよ。一つ頼みが____」
突如何者かの影によって辺りの光が遮られた。見覚えのある、影だ。俺はそれに顔を上げ、その正体を見やる。はるか上空で旋回する黒い影。蜥蜴から翼が生えたようなシルエットは、俺の知る存在で間違いは無いだろう。視線がこちらを向いた気がした。その瞬間、その影はこちらに向かい勢いよく滑空してきた。
「なぬっ!__まさか、あれは……」
隣でおっさんが狼狽えたようにその物体を見つめていた。
刹那に川に水しぶきが上がり、俺とおっさんに襲い掛かるが、謎の力によって、水は掛かることなく俺とおっさんの周囲に散らばった。今のは、魔法なのか?一瞬、おっさんの方に顔を向けるが、そのおっさんは目の前に現れた巨大な黒龍に釘付けになっていた。
「三日ぶりだな、バンシィ___と、まさかアムリタ、お前まで居るとは。一体どうなっている?」
「ドラグか、まさかまだ生きておったのか。まて、ということはここは裏世界か?」
おっさんが言った謎の問いかけに、巨大な黒龍『龍王』ことドラグ=バンバーンは、おっさんを見下ろしながら無言で小さく頷く。するとその反応を見たおっさんは、ジワジワと嬉しそうな顔をし始め身体全体が僅かに震えていた。
「我は自由だぁァァァァァ!!!!!!!」
突然手を上げて喜びだす。
びっくりした!急に大きな声を出すなよ。
「ひゃっほーい!」とか、なんかよく分からないこと言いだして、両手を上げながら踊り始めた。なんだこいつやべーな。
「アムリタお前、暫く見ないうちに頭おかしくなったのか。」
可哀そうなものを見る目でドラグが呟いた。でも、頭おかしいには同意するぜ、ドラグさんよ!
謎の踊りで踊り狂うおっさんを尻目に、その巨体を丸めこちらに視線を合わせようとしたのか覗き込むかのようにこちらを向いたドラグがその巨大な口を開いた。
「バンシィよ、どうやらこの短期間で、かなりの力を得たようだな。」
「なっ!お前もステータス見たのか!?」
品定めをするかのようなドラグの視線に、思わずこいつも称号を覗く能力があるのかと思い両手で体を抱き占め若干顔をドラグから逸らす。そんな俺の行動を見てドラグは不思議そうな顔で小首を傾げた。
「ん?適当に言ってみただけだが、本当なんだな。」
驚いたような素振りは見せず、まるで俺がまんまと罠にハマった獲物を見たようにクツクツと笑う。
クソっ!なんか負けた感じがする!!
「それで、どんな能力を手に入れたんだ?」
「フフッ!__聞いて驚け!」
とりあえず片手で顔を隠し、指の間から両目をドラグに合わせポーズをとる。俺の掛け声に気づいた踊り狂っていたおっさんがこちらを向き、ドラグはごくりと息を吞む。
一瞬の静寂。
俺は一拍おいて声を出した。
「『不死身』を手に入れたのダァ!!」
そう宣言した途端、ドラグが目の色を変え、口を大きく開いたと思ったら赤い炎のブレスを俺に向かって放ってきた。
「え。ちょ!避けれな…ギャァァァアア!!!」
熱い熱い熱い!!!____ん?熱くないな。なんだこれ。不思議に思っていると、おっさんと思しき声が微かに聞こえた。
「破滅魔法!《ワールド・バーン》」
そんな言葉と共に、焼かれている俺に何かが頭上に圧し掛かった。尋常じゃない圧力、重力か?衝撃と共に、地面が割れた。ドラグの炎が消え去り、あとに残ったのはクレーター状に破壊された地面と、衣服すら燃えも破れもしていない完全無傷の俺。
いや、どっから突っ込めばいいの!?
「ほう、どうやら本当に不死身のようだな。」
「ふむ、我の魔法も効かぬとは、不死身とは大したものじゃな。」
クレーターの底に沈んだ俺を見下ろしたおっさんに、ドラグ。俺と目が合うとフッと興味を失ったように二人で会話が始まった。完全に蚊帳の外な俺。え、不死身の能力試すためだけに攻撃されたの?イカれていやがる、こいつら。
「ところで、ドラグよ。積もる話もあるが、何用でここにおるのじゃ?」
何事もなかったかのように、おっさんがドラグに向かって声をかけた。え、俺そのまま放置?
「____いや、ただの暇つぶしだ。」
ドラグは僅かに躊躇ったような顔を見せたが、声色も何も変化はなく軽く辺りを見回している。明らかにおかしな素振りはしているな。クレーター状に変形した地面から脱する為に、足元に気を付けながら斜面を登った。人が二人分は入りそうな深さだなおい。
「__ふむ、左様か。まぁ深くは聞くまい。」
クレーターから脱した頃には、二人が何かを話していた後で、完全に蚊帳の外の俺は、なんか気まずいので、軽く咳ばらいをした。するとドラグが思い出したかのようにこちらを向いた。
「ところでバンシィ。お前、家はあるか?」
え、なに急に。
「無いな。」
「そうか、ならば造れ。」
何言ってんだこいつ。
「何言ってんだ?無理に決まってるだろ。」
「あの山の天辺に生えている、巨大な木があるんだが、その木は特別でな、お前が扱える『創造魔法』を使えば、非常に頑丈な家が建てれると思ってな。家があると拠点としても機能するし便利だぞ。」
なんか尤もらしい意見を言っている気がする。
「何より俺が行きやすくなるしな。」
お前の都合かよ!!台無しだよ今の一言ぜったい余計だよ!?
「面白そうじゃな、我も手伝うぞバンシィよ。」
「え?」
俺まだやるって言ってないけど。
「アムリタが居るなら安心だな。__よし、俺はそろそろ帰るぞ。じゃあな!」
「ちょ、おま!」
勢いよく飛び去ったドラグ。その滞在時間は本当に短い、ウルト〇マンかな?
「バンシィ、やはりあの山を登るにしても、時間はかかりそうじゃ、食料を調達して向かうとするかの?」
どこから取り出したのか、登山用のリュックのような物に、俺がまる焦げにした丸焼きを詰めこみ、その辺に生えてる謎の草花を収集し始めたノリノリのおっさん。え、もうやる前提なのね。いや…もう……
「やればいいんでしょ!やれば!」
「応とも!その粋よ!!」
***
「準備はいいかいー?」
「あいあい!キャプテン!」
「聞こえないぞぉ~?」
「あーいあい!キャプテンッ!!」
探検用の衣服に変身し、少しつばの広い帽子にキャプテンマークっぽい赤い羽根を取り付け準備完了。荷物はよくわかんないから手ぶらで!念のため危険がないか辺りを確認してから、大きめのリュックを背中に背負った隊員のおっさんと点呼をとる。といっても二人だけだが……。
「おっさん隊員!今回の目的地についてだが「ちょっと、待ってくれバンシィよ。」
折角人がキャプテン気分を味わっていたのに、おっさんが口を挟んできた。
「何かね?」
「その・・・『おっさん』と言うのは、我のことかの?」
なんか。もじもじしながら上目遣いでこちらを見てくるおっさん。
「愚問だな、アムリタ隊員。君以外に誰が居るのかね?」
当然だと、俺は少し上から目線なキャプテン感を出すため腕組をしながら頷いた。
「・・・その。それは俗にいう『愛称』というものかの?」
「___え?あ、うん。たぶん。」
「うっひょぉ!いい愛称じゃな!呼びやすいし!」
「ああ、うん。」
おっさん呼びにまさか小躍りして喜ぶ奴が居るなんて……なんか可哀そうだし、暫く黙っていよう。
「では、改めて今回の目的地だが、あの山の頂上で合っているな?」
「うむ、その通りじゃ。問題はその道中には強力な魔物が蔓延っておるからの、少し時間は掛かるかもしれぬが、まぁなんとでもなるじゃろ。」
おっさんが両手を腰に当て自信満々に頷くのをみて、俺は気合を入れた。
「よし!おっさん!行くぞ!山登りに!!」
「おおー!!」
おっさんと俺は拳を上げる。
かれこれ30分くらいか、俺を先頭に邪魔な草木は切り倒しながら森の中をズンズン歩いていた。
「のう。バンシィよ。」
後ろを歩くおっさんから声が掛かる。
「何だよおっさん?」
俺は振り向かず歩きながら聞き返す。前見てないと転ぶからな。安心してくれ、これはフラグじゃないぞ。俺にはそんなドジっ子属性は無いからな。
「バンシィよ。ステータスと言うのは知っておるだろう?」
「ああ、勿論だ。」
何の話が始まったのかと思えば、ステータスの話か、一応一通りの情報はドラグによって与えられた知識によって補われているが、ま。聞いておくのは損じゃないしな。
「ではこれは知っておるか?ステータスには『パートナー』と言う称号がある事を。」
あっぶね!転けるとこだった!__え?なに?パートナー?
「知らん、何だそれ?」
って言ったらおっさんの声が少し嬉しそうになる。
「『パートナー』と言うのは、自分ともう一人の誰かとパートナー設定をする事で、効力を発揮する特殊な称号の一つじゃ。設定した『パートナー』と一緒に行動すると、身体能力強化や魔力消費抑えるなど、非常に便利な称号じゃ。」
ほへー全然。聞いてなかった。なんかぬかるんでるな、この地面。
「そりゃ凄いな。」
「そこで提案なのじゃが、我には未だ『パートナー』がおらんのじゃが、バンシィよ主がもし良ければ我と『パートナー』にならぬか?___我らの場合は『パートナー』ではなく『相棒』とかの類に該当するかもしれぬが。」
ちょっとパートナーとか相棒とか、いっぱい単語出てきて分けわかんねぇな。取り敢えずそれやれば、能力が上がるって事で良いんだよな?
「オーケーオーケー、その『相棒』とやらになろうじゃないか。」
俺はぬかるんだ地面を避け立ち止まり、おっさんの方を向いた。
「本当か!では、我らは今から『相棒』じゃな!!」
おっさんのその発言と同時に、頭の中に聞き覚えのある無機質な女の声が響いた。
《称号『相棒』の申請を確認しました。対象の称号条件を確認します。》
《条件を確認しました。称号『相棒』の獲得を実行します。》
《称号『相棒』Lv.0000 を獲得しました。》
『不死身』を獲得した時とは違い、あっさりと称号を獲得した。
おっさんは俺が称号を獲得したことを確認するとホッとしたな表情を見せた後、思い出したかのようにこう言った。
「言い忘れておったが、『相棒』設定をしたら二度と取り消せんでの。」
「それ、今さら言う?」
「ハハハハ、すまんすまん。」
絶対反省してねぇこのおっさん。ま、別に良いんだけど。
「時にバンシィよ。目的の山は真逆にあるが大丈夫かの?」
そっちは海の方向じゃぞと、不思議そうな顔して見つめてくるおっさん。その背後には確かに、目指していた筈の山が薄っすらと見えた。
「先に言えぇーー!!」
「ハハハッ!すまんすまん!」
許さん!!
何故、道に迷ったかって?フッ__決まっているだろう。前を見て歩いていなかったからだよ。足元ばかり気にして、肝心の進む方向は一切気にもしていなかったぜ。こいつは新手の魔法かな?
気を取り直し、今度はちゃんと山の方角を確認しながら歩いている。
歩いているのに___
「おお!バンシィよ!これを見よ!!伝説のパーフェクトフラワーじゃ!!表の世界では絶滅した魔力草じゃ!これはまた、食べると美味しいぞ。」
おっさんが、木に生えてたなんか見たことある銀色に光るヒマワリを引き抜いて俺に見せてくる。
これ、パーフェクトフラワーなんて名前だったんだ。俺の小便で枯れた奴だな。うん。
「そんなのは後でで良いだろ!!先に行くぞ!!」
おっさんは少し残念な顔をして、手に持っているヒマワリを齧りながら俺の後を付いて来た。
1時間くらい歩いていると、目の前に体長3メートルほどの茶色の熊が現れた。
「おお!ヒヒーングマじゃな!表世界ではなかなか見ない、手強い魔物じゃ。流石は裏世界、現れる
魔物もまた強いの。」
「そんなに強いのか?」
「人間族じゃと10人程度の尖鋭の討伐隊が組織されるし、魔族でも一人で挑む者は居らんの。まぁ我は手を使わずとも、倒せるがの。」
なるほどな。あ、そうだ!俺には創造魔法があることだし、一回やって見たい事があったんだよね!やったろ。
「よし!じゃあ!俺が闘うぞ!」
「おお!バンシィよ、気を付けるのじゃぞ!」
そう言いながら、僅かに後ろに下がったおっさんを確認して、熊と対峙する。
「よし!行くぜ!!」
俺は右手前方に構え、熊を見据える。熊はこちらを睨みながら、様子を見ているのか動かない。
一瞬の静寂。___そして
「俺の右手が!真っ赤に燃える!!勝利を掴めと轟き叫ぶぅ!!」
俺の右手が文字通り、赤い炎を纏い燃え始めた。
「爆熱!!!」
俺は突っ走り、熊と接触する直前に跳躍し熊の頭を鷲掴みにし、そのままの勢いで熊の体制を崩す。地面に足が着いたと同時に駆け出し、熊を引きずりながら姿勢を投球フォームに変更する。
「ゴォッド! フィンガァァァー-ッ!」
投げとばす。流石に頭は潰さんよ。グロイからな。熊は遠くまでぶっ飛び、燃えて爆発した。原理は知らんけど。
「フッ。他愛ない。」
帽子を被り直し、カッコつける。
「素晴らしいッ!何じゃ!今の掛け声は!我も心が躍ったぞ!!」
「あ、やっぱり!?でしょ!アハハハハ!」
そうして、俺達は気を取り直し歩き続ける。
30分くらい経ったかな。山はまだまだ遠くに見える。
またまたそんな時、今度は一匹の巨大な紫色の蛇が俺達を囲った。
「フシャァァァィ!!!」
蛇は俺達の行く先をその巨大な体で塞ぎ、久々の獲物だと言わんばかりにその三角形の変わった形の頭を見せ、にやりと笑うかのように、舌先がチロチロと出入りしていた。
「おっさん、こいつは、なんてやつ?」
とりあえず、知っていそうなのでおっさんに尋ねる。
「ふむ、此奴はジュジュバンドと言う魔物じゃな、此奴も先ほどのヒヒーングマとほぼ同じ強さを誇る魔物だった筈じゃ。」
成程じゃあ、ワンパンで行けそうだな。
そう思い、俺が前に出ようとするとおっさんが俺の肩を掴んだ。俺がおっさんの方を振り返ると、紅の瞳を爛々と輝かせたおっさんがいた。
「バンシィよ。此処は我にやらせてくれ。」
成程、交代ってことだな。オーケーオーケー。
「良かろう! やっておしまいなさい。」
「うむ!」
おっさんが意気揚々と蛇と対峙する。
おっさんは両手を広げ、なんか言い出した。
「我は待っておった。そなたのようなモノが現れる事を。」
両手を広げまるで何かの演説かのようにおっさんは蛇に説く。
「そうじゃ。もし、我の味方になれば、世界の半分を貴様にやろう。」
「フシャ?」
多分だけど、蛇には何も通じていない気がする。
「どうじゃ?我の味方になるか?」
「シャ?」
蛇は小首を傾げるようなしぐさで、何もしてこないおっさんを見つめている。
「本当だな?」
「シャ」
喋っていると蛇がスキと見たのか口を開きおっさんを食べようとする。
「では、世界の半分を与え___ないぞ、もちろんな!」
おっさんは迫りくる蛇の口を前に、そっと右手をかざした。
「吹き飛ぶがよい!」
ドン!っと衝撃波が発生し、俺の帽子がその衝撃で空に舞った。蛇がまるでトランポリンにでも乗った様に勢いよく飛んでいく。30メートルくらい先に落下して、ピクピクと麻痺しているようだった。
そしておっさんは極当たり前のようにフワリと空に浮かび上がると、人差し指を天に突き出しまるで魔王のような高笑いで呪文を唱えた。
「フハハハハハハ!!!!!闇に堕ちると良い!!死ねっ!破滅魔法!」
指先から、蛇どころか山ごと吞み込めそうなほど、巨大などす黒い球体が発生し太陽からの光を遮った。どう見てもオーバーキルだろあんなの……。蛇よ哀悼。
「《ワールド・バーン》!」
おっさんは手を振り下ろす。それと同時に巨大な球体が地上へ落下を始め、蛇に向かって落ちて行く。先にその球体に触れた木々が、まるで何もなかった様に吸い込まれ、空気すら吞み込んでいるような気がする。黒い球体が地面へ接触した瞬間___静寂が訪れた。
無音の衝撃。
物理現象が思い出したかのように機能する。草木が刹那の間に消え去った。蛇が倒れていた先からそのずっと先まで、緑が消え去り、馬鹿みたいに巨大なクレーターが、眼前の光景を支配した。
そして大地を震わせる程の爆発音が訪れる。はっきり言って頭おかしい。俺、さっきこの魔法ぶつけられてたよな。え。このおっさん、ガチで殺しに来てた?え、なにこわ。強すぎだろこのおっさん。
真面目な顔で空中からそっと俺の横に着地してきた。おっさんは、目の前の光景を見て顎に手を当て考えるような仕草をした。そして少し考えた後、至って真面目な雰囲気で口を開いた。
「ふむ、ちと、やり過ぎたかの。」
「やり過ぎだよ!!馬鹿か!」
おかしいだろ火力がよ!蛇どころか、この辺の生態系ごとぶっ壊したじゃん!イかれた悪役じゃねーか!魔王かよっ!どうすんだよ!目の前がぽっかり、クレーターになってるよ!!
「仕方ないのぉ。湖にでもしようかの。」
そう呟いたおっさんは、クレーターに向かって両手をかざし呟いた。
「大いなる水の精霊……だったけな?ふむ。まぁいいや、水よ出ろ!!」
その瞬間おっさん両手から大量の水が溢れ出した。
___呪文いるの?
「ふぅ、出来たぞ!」
脳内ツッコミを入れていたら既にそれはもう巨大な湖が出来ていた。
ああ、チートですね。分かります。
ちなみにこの湖は後に、『魔王の小便』と命名する事を俺はまだ知らない。
次回投稿は明日