第2話『転生して不死身になった』
うぅ、お腹痛い。やっぱり焼いて食べないと駄目だったか。
熊の肉がすっごい生ハムみたいに見えたから、うっかり食べたけど、全然美味しくないし、腹いてぇ
ダメだ、喉乾いた。
み、水が欲しい……はっ!!そうだ!!川を探そう!!
***
さあ、始まりました。水を求めて数千里。みんな大好き俺の冒険!道なき道を切り開き、新たな道を作り出す。史上最強の冒険家とはそう、この俺だ。と、言っても適当に真っ直ぐ歩き続けてるだけなんだけどな。木とか草がいっぱいで、邪魔な枝葉は包丁で切って通っているけど、動きずらいし鬱陶しい。
なんで俺、学生服でこんなことしてんだ?全然森を探索する格好じゃないだろこれ、動き辛いわ……はっ!!そうだ!!服を作ろう!!
***
チャンチャカチャラララチャンチャンチャーン♪
チャンチャカチャラララチャンチャンチャーン♪
チャンチャカチャラララチャンチャンチャーン♪
チャンチャカチャンチャンチャン!
鬱蒼と生い茂る森の中に、バンシィ・ディラデイルの音痴なBGMが流れ出す。映像が切り替わり、満面の笑みを浮かべた制服姿の男は、虚空に向かって丁寧にお辞儀をすると、まるで何かの紹介番組のような口調で何もないところへ向かって話し始めた。
「みなさんこんにちは、【バンシィ☆3分クッキング☆】のお時間です。司会進行兼料理人兼ゲストは私、バンシィ・ディラデイルがお送りいたします。さて、今回は依頼人からのご要望で服を作ろうかなと思います。今回、伝説の料理人兼匠であるこの私、自らが用意した素材はこちら!!」
バンシィ・ディラデイルが取り出したのは、ちょうどよく足元に落ちていたと思われる、大きな葉っぱ。それをまるで大事な商品のように扱いながら、虚空に向かってそれを、ゆっくりと全体が見えるように紹介する。
「本日はこちらの葉っぱをですね、私の魔法☆で、なんとあの大人気異世界シリーズであるあるのお洋服、魔法使いっぽいローブに、変身させたいと思いまぁす!パチパチぃ!」
静寂の中ただ一人だけ手を叩き、乾いた音が森に溶ける。
「では行きます!チャラリラリラー♪」
バンシィ・ディラデイルが手にしていた葉っぱを、体の周りでくるくると回し、それっぽい動きを披露すると、身に着けていた学生服が、白く輝き始め、紫と黒を混ぜ込んだかの様な色をした丈が少し長いローブに変化した。履いていた皮靴は魔法使いっぽい茶色のブーツに変わり。白いブリーフパンツは黒いトランクスに変化し、手に持っていた大きな葉っぱと平均以下のモテない顔はそのままに、魔法使いっぽい格好に変化した。見てくれは完全に怪しい魔法使いとかの類である。
「ほほう、そう来ましたか。俺が葉っぱを採った意味が………まあいいや。」
手にしていた葉っぱを投げ捨てると、バンシィ・ディラデイルは左手を天に指差し、右手は腰に手を当て顎を若干引き、なんかよくわからんが決めポーズを取り始めた。
「大地を震わす。最強の魔法使いバンシィ・ディラデイル参上!!」
帰ってきたのは静寂である。実に、哀しいものである。
「さてと、川を探しますか。」
バンシィ・ディラデイルは、再び川を求めて歩き始めた。
***
「はっ!」
「ふんっ!!」
「ほっ!」
歩いては突然決めポーズをとりカッコつけ、また歩いてはポージングをとるの繰り返し。はっきり言って黒歴史である。そんなこんなで歩みを進めている中、ザァーと水の流れる音が微かに聞こえた。
「む。この音は!ついて来い!皆の衆!!」
そう言ってバンシィ・ディラデイルは一人、どこぞの忍者走りをして音のする方へ駆けて行った。
***
「川だ!!海だ!!抜錨だ!!」
そう言ってバンシィ・ディラデイルはローブを脱ぎ捨て、黒いトランクスを履いたまま川へと勢いよく飛び込んだ。
バシャーンと水飛沫が上がるが、バンシィ・ディラデイルは冷めきった顔で直ぐに岸へ戻ってきた。
「浅かった。」
だ、そうです。
「はぁ」
バンシィ・ディラデイルは深い溜息を吐き、黒いトランクス一枚のまま、手ごろな岩に座り込んだ。
「なんでだれも居ないんだよ、サルでもいいから、人間の一人くらい居ても良いじゃないか、何なんだよここは。」
バンシィ・ディラデイルは足を延ばし、まだ日が昇る空を見上げ、物思いにふけていた。
そんな時突然、視界を覆うほどの巨大な黒い影がバンシィ・ディラデイルを覆った。
「え、なに?」
太陽の日を遮るように、はるか上空で旋回する黒い影。その黒い物体は、まるでこちらを見ているようで、数秒ほど空で旋回した後に、落下してくるような勢いで、こちらに向かって滑空してきた。
「ど、ドラゴン!?」
それは漆黒のドラゴンだった。
二階建ての家ほどの高さはありそうな巨体。それを支える為の強靭な四肢は膝の高さ位まである漆黒で巨大なかぎ爪を持ち、全長の半分はありそうな長くしなやかな尻尾、それにバランスをとるように若干長い太い首に、如何にも肉を食いちぎりそうな牙を持った口、全体的なフォルムは超でかい漆黒のトカゲ。背中には蝙蝠チックな巨大な翼を生やしその体全体は黒曜石の様な輝きを放つ鱗に覆われている。
漆黒のドラゴンは川に飛び込むように着地し、巨大な水飛沫を上げる中、その巨体に見合った翼をたたみ、腰を若干抜かしたバンシィ・ディラデイルを、まるで品定めでもするかのように見下ろす。
そうして値踏みが終わったのか、漆黒のドラゴンはゆっくりとその巨大な口を開き、バンシィ・ディラデイルにとっては聞きなれた言語を発した。
「人間、お前がなぜこの地に居る?」
ドラゴンが呟いたその言葉は、間違いなく日本語だった。
「え、えぇ……と。」
バンシィ・ディラデイルが動揺して、声が出てないでいると、漆黒のドラゴンは鋭かった眼光が僅かに驚いた様な表情に変わり、数秒の沈黙ののちにバンシィ・ディラデイルに話しかけた。
「人間よ。まさか龍語が解るのか?」
その問いかけに対し、未だ動揺を隠せないバンシィ・ディラデイルは、ブンブンと音が鳴りそうなほどの勢いで首を縦に振る。
「ほぅ、面白い。人間、お前の名前はなんだ?」
「あ、え、えと。あの、その。」
バンシィ・ディラデイルは動揺が収まらず、何も言えないまま口をパクパクさせていた。
「人間よ。動揺しているのはわかったから、一旦落ち着くが良い。目を閉じて深呼吸だ。」
漆黒のドラゴンは呆れた様に呟く。バンシィ・ディラデイルはその言葉に従い、目を瞑り深くそしてゆっくりと深呼吸をした。
「どうだ、落ち着いたか?」
「あ、はい。」
「さて、では名を聞こうか。」
バンシィ・ディラデイルは少し考えた素振りを見せ、暫くすると思い出したように口を開いた。
「バンシィ・ディラデイルだ。__です。」
「バンシィ・ディラデイルか、覚えておこう。俺の名は、ドラグ=バンバーン。『龍王』だ。」
「え、りゅうおう?」
「ああ、『龍王』だ。その名の通り、龍族の王だ。」
漆黒のドラゴンこと、『龍王』ドラグ=バンバーンはフンスと鼻を鳴らし、首をくるくると回し、辺りを見回した。
バンシィ・ディラデイルは龍王という単語を聞いて、ただでさえ緊張していた声色がより緊張した雰囲気を醸し出しながら、畏まったように言葉を選びながら声を出した。
「えと、無礼?をお許し下さい?」
「ん?別に良いぞ。俺はそんな事は気にしない楽に話してくれ。所でバンシィ、なぜお前はこんな場所にいる?この大陸には人間はいないはずだが。どうやってきたんだ?」
「えぇと、わかんないっす、色々あって、気づいたらここに居ました。はい。」
「成程、その膨大な魔力量、見たところ魔法使いの様だしな、転移系の魔法で失敗でもしたか?バンシィよ、此処はこの世界で最強と言って良いほどの強力な魔物が生きる大陸だ。こう言ってはあれだが、人間一人ではまともに生き延びることは不可能……俺が元の大陸に送って___いや、転移系の魔法が使える時点で、俺の手助けは必要ないか。余計な世話だったな。じゃ、気を付けて帰るんだな。」
「あ!ちょ!待って!」
そう言って翼を広げ飛び去ろうとしたドラグ=バンバーンをバンシィ・ディラデイルは慌てて呼び止めた。
「あ、どうした?そんなに俺の背中に乗りたいか?」
ドラグ=バンバーンは小首をかしげ問いかける。
「いや、あの。俺、死んだと思ったら突然この世界に居て、全然この世界の事が分からないので、教えてもらえないですか?」
それを聞いたドラグ=バンバーンは、驚いた表情を見せ、何かを考える仕草を見せ、少し早口で口を開いた。
「まさか、転生者か……成程、それならその魔力量も納得できる。しかし、妙だな。本来なら召喚の兆候が見られるはずだが、そんな兆候はどこにも見た覚えがないな。」
そう言いながらも仕切りに辺りを見回し、何かを気にしている仕草を見せるドラグ=バンバーンは、すぐに決心したかのように、バンシィ・ディラデイルに語り掛けた。
「実は俺、あまりこの大陸に居られる時間がなくてな、教えてやりたいのは山々だが……そうだ!バンシィ、これをやる。」
そう言って、ドラグ=バンバーンは自らの首の鱗を剥ぎ取り、バンシィ・ディラデイルに手渡した。
「えと、これは。」
「それに、この世界の常識や言葉についての知識を吹き込んである。すまんがそれを食べて知識を吸収してくれ、時間が無くなる。戻らねばならん。また会おう、バンシィよ!!」
ドラグ=バンバーンは翼を広げ、バッと空へと飛び去って行った。数秒後にはその姿はどこにも見えなくなってしまった。
「えぇ。」
完全に置いて行かれたバンシィ・ディラデイルは困惑していた。
「取り敢えず、この鱗を食べれば___良いんだよな?」
バンシィ・ディラデイルはその手に持った、手よりも少し大きな漆黒の鱗を少し眺めたのちに、パクリと齧り付いた。
「あ、ポテチ触感。意外といけるなこれ。」
パクパクと食べ進め、最後の一口を食べきった。
刹那
お腹を押さえて倒れ、ゴロゴロと地面でのたうち回る。言葉にできない程の悲鳴と共に、まるで虫がひっくり返る様に仰向けに転がり、そのまま泡を吹きながら白目を剥いて気絶した。
《異常な魔力を吸収しました。称号『知識』Lv.1 称号『素質』Lv.1 称号『古代魔法』Lv.0 を獲得しました。》
《条件を満たしました。称号『虚勢虚栄』Lv.100 の上限が解放しました。》
***
意識が覚醒する。
空はまだ明るい、あれからまだ時間はあまり経っていないように感じた。川辺で倒れたせいか、全身が重く痛い。
クソ!あのドラゴンめ!次会ったら絶対に文句言ってやる!なんだよ食べるだけってよ!触感はいいが味しないし、気絶しちまったじゃねーかよ!!うん、なんか喉乾いたな。
さて、水を飲み、何か変化はないか確認するが、見た目に関しては特に変わった感じは、全く無いな。
そういえば、この大陸は強い魔物が沢山いるって言ってたよな?なんだ、あの熊強かったのか?
それにしても、腹減ったな。ん?
ふと視線を川向こうに向けると、そこには鳥と鹿を掛け合わせた、少し肉付きがしっかりした生物が、樫木の様な木の幹を尖った嘴のような口を器用に扱い、幹をまるで鰹節を削る様に、削りながら食べていた。
あの特徴は、クックロイだ!
草食系の魔物で、その肉質は非常に優れ、牛や豚とは違った魔物特有の肉質と触感が絶妙にかみ合い、非常においしい。特に丸焼きがうまい。
いや、食ったことないわ、あんなガ〇グァみたいな生物。なんで知っているんだよ俺。あれか、『龍王』ドラグ=バンバーンの言っていた、『知識』を吸収したって事か?
うん、どういう原理だよ。
とにかくクックロイは丸焼きが美味い、と言う訳で早速、捕獲するぜ!
「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
「!」
掛け声と共に、浅い川に突撃し、バシャバシャと水飛沫を上げながら、包丁を持って突撃すると、クックロイはこちらに気づき、何やら翼をパタパタさせ、何かを訴える様に喉を鳴らした。すると、齧って削れていた筈の木の幹が、突然成長を始めたように延び、まるで鞭のようにしなり、向かっていた俺の両足を拘束した。
「うぎゃぁぁぁぁ!聞いてないぞこんなの!」
一気につるし上げられ、俺はあっさりと空中で逆さ吊りにされてしまった。俺はせめてもの抵抗でジタバタ暴れるが、地面に生えた草が突然成長して伸び始め、四肢をガッチガチに拘束され動けなくなった。
「やめて!私に乱暴する気でしょう!エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」
「クワッ!」
「ぎゃああぁぁぁぁ!痛い痛い痛い痛い!千切れる千切れるって!」
くそっ!このままだと死ぬ!どう考えても死ぬ!何かいい手はないのか!?
だいたい魔物が平気で魔法使ってくるってどういうことだよ!ずるいよ!___魔法?
そうだ魔法だ!
「なんでもいいから蔦を切り裂け!」
眼を閉じ蔦が切り裂かれた想像をする。さっきの包丁も、イメージでなんかできたんだ!今回もできるはず!
案の定、俺の想像通りに魔法は発動した。手足を拘束していた蔦は、一瞬輝きを放ちその後すぐに刃物で切り裂かれたように千切れた。そして俺は全身の拘束が空中で解かれ、重力に従い落下し、小石が散らばる地面に尻から落ちた。
「いってぇ!」
くそったれが!必殺のブレス攻撃で、丸焼きにしてくれるわッ!
・・・
いや、ブレスってなんだよ、どうやって火、だすの?
くそ、まぁいい!やってみる!
「ハァァァッ!!」
刹那、バンシィ・ディラデイルの口から息を吐く様に炎が吹き出し、それがクックロイに命中すると、瞬時に引火し火達磨になって悲鳴を上げる。
「グエェェェ!!!!!」
うっひょぉー。出来ちゃった。びっくり~。
数分後__
「上手に焼けました~!」
両手を上げてガッツポーズをするバンシィ・ディラデイル、その足元には、まる焦げになったクックロイだったもののがあり、とてもじゃないが食べられそうな状態には見えない程、焦げている。というか殆ど炭だ。
「いっただっきまーす!」
「アチっ!」
熱いのでゆっくり食べるとしよう
うん、前世ではスマホとかやりながら飯食っていたせいか、もの凄く暇だ___そうだ!こんな時間こそ、ステータスを見よう!
ステータスオープン!
___________________________
Name
バンシィ・ディラデイル
称号
『無慈悲』Lv.20
『金剛体』Lv.50
『手違い』Lv.0000
『創造魔法』Lv.87
『虚勢虚栄』Lv.999
『称号閲覧』Lv.100
『知識』Lv.2
『素質』Lv.10
『古代魔法』Lv.1
___________________________
え?何かよく覚えて無いけど、絶対能力変わったよね?なんかいろいろ増えてる気がするし。
古代魔法とか、素質とか、なんかいいな!かっこいい!
「でも、どうせなら、『不死身』!とかにならないかなぁ。かっこいいし。」
《称号『不死身』の申請を確認しました。対象の称号条件を確認します。》
「ファッ!」
突然頭の中に、無機質なアンドロイドの様な女の人の声が響いた。
《称号『金剛体』『素質』の習得を確認しました。称号『不死身』の獲得を実行します。》
な、なに!?まじで、できるのか!?しかし、俺の思考を遮るように無機質な声は頭の中に響き続ける。
《エラーが発生しました。経験値が足りません。現在習得している称号を経験へ変換します。暫くお待ちください。
称号『無慈悲』Lv.20を経験値に変換しました。》
《エラーが発生しました。》
《称号『手違い』Lv.0000が経験値に変換できません。》
《エラーが発生しました。称号『不死身』は存在しません。》
《エラーが発生しました。》
《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが発生しました。《エラーが________
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
頭の中で、暴走した声が響き、思考の全てをかき消した。
_____称号の書き換えが完了しました。》
《称号『不死身』Lv.0000 を獲得しました。》
《称号『呪縛』Lv.0000 を獲得しました。》
《対象に『呪縛』が付与されました。》
突然感情を失ったように鳴りやんだ無機質な声。そしてその声は、何事もなかったかのように、静かに語りだす。
《『不死の呪縛』『不老の呪縛』『永久の呪縛』『称号の呪縛』が付与されました。》
ファッ!?何だよ!呪縛!?なんだよこれ!聞いてないよ!
俺が流されるままに訳も分からず、あたふたしていると突然目の前に黒いコートの様な服を着た。ちょっと目つきが怪しいおっさんが現れた。
背丈は俺と殆ど変わらないくらいで、そのおっさんは俺の姿をひとしきり眺めた後、ちょっと嚙み気味に口を開いた。
「お前っ_が、『永久の呪縛』に縛られた者か?」
「あ、違います。」
つい、反射的に、否定してしまった。