第1話『色々平均以下の俺が』
唐突に意識が覚醒し、飛び起きるように身体を起こすと周りは、俺の知る限りでは見たこともない木々や、草花が生い茂った森の中だった。
「え、えっ?………えっ?」
流石の俺でも分かる。明らかにさっきいた筈の謎空間とは、また違う雰囲気の場所。いっさい人の手が介入していない青々した森の中、眩い太陽が辺りを照らし撫でるような優しいそよ風が草花を揺らし優しく制服のズボンに触れた。俺の知っている世界と違う。空気が透き通っているかのように心地が良い。
あれ、と言うか俺、何かに潰されて死んだんじゃ無かったか?
なんで森の中にいんの?は?此処どこ?____アメリカ?
いや、違うな。ここはあれだ、何だっけ?えと、あの。ピラニアがいるところ。まぁ、いいや。わかんねぇし。
しかし俺、確かに死んだよな、トラックに撥ねられてから、確信はないがたぶん、倒れてきた家に押しつぶされた。いやぁ実は俺、今まででも車に轢かれたことが二回くらいあったんだけど、どっちも無傷だったんだよね。うん、あれは、マジ凄いよ。いやー、ちょっとね。トラックなら大丈夫だなって自信はあったんだけどね____まさか家が潰れるとは。
うーん、家に帰りたい。
あれ、でも俺。死んだよな?もしかしてこれってあれか、転生って奴か?
知ってるぞ俺、小説読むもん。ファンタジー系のアレだろ?チートとか手に入れて成り上がるやつだろ?いいねぇ、やってやろうじゃないの。ん?ちょっと待てよ。父さんと母さんは大丈夫かな。たしか地震が起きたよね。無事なのかな。いや、それよりも俺はこっからどうすればいいんだ。
あぁ、ダメだ。色々考え過ぎて、訳分かんなくなってきた……。
***
色々考えた結果、俺はたぶん死んだ。……うん。死人に口無しってやつだ!(???)
俺は死んだ。はい。それでおしまい!父さん母さんはきっと悲しむだろうけど、地震だからしゃーないよねッ!自然災害になんて勝てるわけないんだ!そんでもってなんで俺がこんなところにいるのかも、生きている理由も分からないけど、とりあえずなんか生きているからヨシ!
さて、腹減ったし、ここも何処か分かんねえーし。とりあえず、食べれる物でも探しますか。腹が減っては戦も出来ないしね。戦なんてしたことないけど。
***
草木が生い茂る森の中を特に当てもなく、適当に散策していると、目の前から2メートルくらいの二足歩行した茶色の熊が現れた。その熊はそれはもう誰もが想像できそうなくらいありきたりな、ガオー!みたいな両手を上げた威嚇したポーズで俺の目前に立ちはだかった。
「うひゃぁっ!?」
おっと、変な声出た。えっと、クマに出会った時は、どうするんだっけ?確か死んだフリはやっちゃダメだった気がする、なんかのテレビで教えてもらった記憶がある。さてどうしようか。うーん、分らん。
とりあえず俺は、その熊に目を合わせて交戦の意思はない事をアピールする為、ニッコリスマイルを披露した。
「グガアァァァァ!!!!!」
熊は凄い勢いで突進してきた。
「ぎゃああァァァ!!!!」
腰が引け、焦りやなんか色々な感情がごちゃ混ぜになり、足が動かなかった。し、死ぬ時は死ぬんだ!
とりあえずタイミングを見計らってグーパンしてみる。一応、武道の心得はあるぞ!空手五級だったけどな!
「うわああ!!!」
良い感じの距離に近づいた瞬間、目を瞑り俺は右の拳を突き出した。フサフサした物に一瞬当たる感覚があると直ぐに、その感触は引き離されるように無くなった。
恐る恐る目を開けてみると、俺を襲った熊が何故か巨木にぶち当たり、頭と足が反対にひっくり返って伸びていた。
「え、おぉ。おぅ。」
何だこれ、まさか俺の封印されし、力が覚醒した!?!?
「ふ、フハハハハ!!他愛無いな!所詮は熊!俺の敵では無いのダァー!!」
勝どきを上げ、両手を広げてカッコつけてみる。そして、どこからも何の反応もない事を確認する。え?こう言うのって、自分じゃない別の誰かがやってました。とか言うオチもあるじゃん?うん、居ないな。それはそれで寂しいんだけど。
で、この熊どうしようか?生きてんのかな?
見た感じは口から泡吹いて白目向きながら、舌がベロンと鼻のあたりにくっついてしまっているが死んだふりかもしれない。念の為つま先で頭や胴体をツンツンと反応を確かめてから少し距離を詰める。
腹減ったな、食うか? 旨いのか?
おなかは少しだけ「クゥ」と鳴っている気もするが、クマの食べ方なんて俺は知らんぞ。
えぇ、と。確か、転生系の話だと毛を剥いで内臓えぐって食べるんだっけかな。知らんけど。
包丁とか落ちてないかな?取り敢えず毛を剥げるものなら何でも良いや。
しばらく辺りを見回し、なんか使えそうなものはないかと探すが、良さげなものは何もない。草と木しかない。うん、詰んだ。
さて、何か良い方法でも考えようか……おや?なんだあれは。枝葉に隠れた木の根元に、銀色に光る何かを見つけた。
その正体を探るべく、近くに寄ってそれを観察する。
「何だ。花かよ、何これ?ヒマワリ?」
それはヒマワリの花の様な形をした、木の根元から生えた謎の植物。それはまるで生きているかのように、若干うねうねと動き、何かがその花の中心に集まっているように思えた。
「お、おお?」
次の瞬間、ヒマワリはその中心から弾ける様に粉を噴き出した。
「ぴやぁぁ!!」
変な声出た!目があァァァ!!!鼻がっ!!ムズムズ……す………る。
***
___ん?
眼が覚め、ゆっくりと起き上がる。あれ、寝てた?……確かヒマワリに粉かけられてそこから意識が__
ふと下を見下ろすとそこには
「うわっ!!」
銀色に光るヒマワリが咲いていた
「くそっ!脅かしやがって!!これでも喰らえ!!」
俺は右手を徐ろにズボンのチャックへもっていき、その金具を下ろし___
(しばらくお待ちください)
ふぅぅ。スッキリした、ヒマワリ枯れちゃったけど大丈夫かな?
ヒマワリには自然界の脅威というものを、その身を以って学んでもらい、来世ではきっと反省してくれることだろう。そう勝手に結論付け、さて何をしようかとその場で立ち尽くし悩んでいると何処からともなく、聞いた事のない生物の鳴き声が響いてきた。
「クコォォォ!!!ォォ"!!」
その声する方を探し、空を見上げるとめちゃでかいイャンク◯クみたいなのが、俺のことを確実に見つめ、旋回しながら飛んでいた。
「お、おう。」
もしかしてここってモン◯ンの世界?いや俺そんなにモン◯ンに未練なんて無いんだけど。
「うわっ、こっち来た!」
ピンクの3メートルは有るニワトリみたいな鳥が、滑空しながらその嘴を大きく開け、俺に目掛けて落ちてくる。
「うげぇぇえぇ!!!こっち来んな!!」
思わず手に取った地面の小石を、滑空してきたピンク鶏に向かって投げつけた。
小石は空中でカーブがかかり、ピンク鶏の翼に命中した。
バキッィッ!!
何かが折れた様な鈍い音が俺には聞こえた。それと同時にピンク鶏は突然重しでも載せられたように、バランスを崩して落下した。バキバキと枝葉を折りながら、どしんと地面に墜落する。
「やったか!?」
思わず声に出たフラグ。
案の定。ピンク鶏は健在で、怒り狂い翼を広げ、独特な突進ポーズでこちらに向かってくる。
「うひゃっ!!」
ビビって尻もちをついたが構わずピンクニワトリは突進する。
その時、不思議なことが起こった!!怒り狂ったピンク鶏の突進は今にも俺を食い殺さんとする殺意マシマシの正に、殺意マシマシモード(???)。数多の強敵を打ち滅ぼしてきたこの俺も、万事休すかと思った時、奴は足元の木の根に引っかかりそれはもう頭から滑り込むようにズッコケた。
「ブフッ!」
緊張感が解けてしまうほどの衝撃。まさか過ぎて草。いや、草通り越して、ここは森www。
暫くしても起き上がる様子のないピンク鶏は、どうやら転けた衝撃で頭を打ち伸びていたようだ。それを確認した俺は、突然目覚めて起きないように静かに近づき、そのニワトリの頭を思いっきり蹴飛ばした。
かたいものに触れた感触と何かが折れたボキリという音。そのニワトリの頭は、本来ならありえない方向にへし曲がった。
「……え?」
待て待て待て。おかしいおかしい。俺でも分かるわこの異常事態。なんで俺、こんな馬鹿力なんだよ。おかしいだろ。
あ!分かったぞ!チート!チートだな!!納得だ!
凄い今更だけど、もしかして俺って、俺つえー!系の主人公か!?魔法使える世界に転生して、あれ、俺なんかやっちゃいました?系の主人公か!?
待てよここまで俺が強い世界なら、やっぱありがちなステータスとか、そんな感じのがあったりしてな。ドラ◯エみたいに。
一回、やってみるか。
俺は首の折れた鶏を背景に指を天に指す。
「いでよ、ステータス!!」
・・・・・。
「開けごまごま!ステータス!」
・・・・・。
「はあぁぁぁぁぁ…………ステータス☆解放!!!!!」
・・・・・。
「ちくしょう!『ステータスオープン』!」
その言葉と共に瞬時に頭の中に青い背景に黒い文字の羅列が展開された。
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Name
バンシィ・ディラデイル
称号
『卑劣』Lv.20
『無警戒』Lv.10
『手違い』Lv.0000
『創造魔法』Lv.87
『虚勢虚栄』Lv.100
『馬鹿力』Lv.1
『称号閲覧』Lv.100
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いや、なんか出たけど、俺の求めていたステータスじゃない。何だよこれ、漢字難しくて殆ど読めねーし。
んで、俺の名前って。バンシィ・ディラデイルになってんだ。へー、いや、基準が分からん。なんでだよ。別にいいけどさ。不死の神って感じの名前だし……ちょっと嬉しいけどさ。
ところで創造魔法ってなに?
創造って言ったらなんか何でも作れるやつでしょ?無から有を生み出す的な。___なにそれ、かっけぇ!まさに神やん!といっても、創造魔法か。包丁とか作れるのかな?
「いでよ、包丁!」
・・・・・。
うん、知ってた。
となると、イメージか?
ふと鶏の嘴が目に入り、頭の中でアイデアが思い浮かんだ。
「でぇぇい!!」
チョップでクチバシをポキリとへし折り、手で持てる手ごろなサイズに粉砕する。いい感じの持ち手になったので、出来るかは分からないがとりあえず念じてみた。
「包丁になれ〜。」
目を瞑って、包丁をイメージする。
するとクチバシが白く輝きだし形を変え、西洋包丁的な形に変化した。
「キタコレ!!!」
よく分からんけど出来たぞー!!しゃあーー!!
***
「とりあえず、腹からやるか。」
出来上がった包丁を、先ほど倒した熊のおなかの辺りにゆっくりと刺し込み、刃の全体をしっかり使う様に、ゆっくりと差し込んだ包丁を滑らせるように引く。なかなかの切れ味だ。俺の想像通りのいい包丁だ。切れ込みを入れたところに手をいれ、観音開きみたいになる様に引きながら、包丁を入れる。
「くっさ!!うえぇ。キモいわ……」
ねっちょりとした感触と強烈なケモノ臭に思わず顔を背ける。一応、調理学校に通っていたので、多少のグロテスク系は、鶏の解体によって経験があったので抵抗が付いていた。
お腹のいい感じの肉を一口サイズに切って、片手でつまみ眺める。___なんだか刺身に見えてきた。美味しいかな?腹の音が鳴り思わず唾を飲んだ。一口くらい……いいよね?
パクリ。モキュモキュ、ゴクン。
「□×○□×◎%!?!?!?!?」
バンシィ・ディラデイルは、人の言葉では表せない奇声と共に泡を吹いて倒れた。
《異常な魔力を補給しました。これにより称号『悪食』Lv.1を入手しました。》
《異常な魔力の補給により、称号が影響を受けました。称号『無警戒』Lv.10と『馬鹿力』Lv.1と『悪食』Lv.1が、称号『金剛体』Lv.1に変異しました。》
《異常な魔力の補給により、称号『卑劣』Lv.20が称号『無慈悲』Lv.20に変異しました。》