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75. 彼の色

「あらあら、困ったわねぇ。」


リチャードとルーフェスが穏やかにお茶を楽しんでいる同じ頃、別室ではリリアンナとアンナはある問題に直面していた。


彼女たちは今、リリアンナが持ってきたドレスをアンナに試着させていたのだが、背丈こそアンナとリリアンナはほぼ同じであったが、細身のリリアンナに対して、アンナの方が肉付きが良かったのだ。


「……アンナさんはご立派な物をお持ちなのですね……。羨ましいですわ……」

「なっ……何を仰るんですか?!」

リリアンナが真顔でそんな事を言うので、アンナは思わず赤面しながら狼狽えた。


周囲にはメイド達が顔色一つ変えずに控えているので、尚のこと恥ずかしかった。


「まぁ、腰回りはコルセットで何とかなるでしょうし、お胸も、ちょっときついかも知れませんがしっかりと潰せばリリアンナ様のドレスを着られると思います。」

アンナを採寸してくれている侍女が、彼女の身体つきを確認しながら、リリアンナにそう報告すると、彼女は安心したのか溢れんばかりの笑みを浮かべて、目を輝かせながらアンナに詰め寄った。


「そうね。ねぇ、アンナさんにはどれが似合うかしら?とりあえず先ずはこれと、それと……あっ、あとあれを試着してみてくださらない?きっと似合うわ!」

まるで着せ替え人形で遊ぶかのようにリリアンナがとても楽しげにドレスを選ぶので、アンナは、なすがままに彼女に身を任せたのだった。




「それで、アンナさんはどちらが良いかしら?貴女のその綺麗な髪の色には、この紺色か、朱色が似合うと思うの。貴女はどちらを着たいかしら?」


一通り持ってきたドレスを試着し終えると、リリアンナはその中から特にアンナに似合っていたと思う二着に絞って、最終的にはアンナに気に入った方を選ぶようにと促した。


「それならば……朱色で。朱色がいいわ。」


それは二人にとって想い出の色だった。あの日見た夕陽のような朱色は、彼も好きな色だと言っていたのできっとこっちの方が喜んでくれるのではないかと思って、迷わずに朱色を選んだのだった。


「そうね、赤はルーフェスの色だものね。それが良いと思うわ。」

「えっ?ルーフェスの色って?」


彼女の言葉の意味が分からずに、アンナが首を傾げていると、リリアンナは悪戯っぽく笑って、その意味を教えてくれたのだった。


「あら、ご存知なかったかしら?あの二人は各々自分の色を決めているのよ。リチャードが青で、ルーフェスが赤。だから私も明日は青色のドレスを着る予定なのよ。彼の色のドレスを身に纏うなんて、とてもロマンチックじゃない?」

「……そうですわね。」

リリアンナの言葉に、アンナはほんのりと頬を染めると、恥ずかしそうに小さく微笑んで同意したのであった。


そんな彼女の可愛らしい反応に、リリアンナも嬉しそうに微笑み返すと、早速アンナの選んだドレスを仕立て直すようにと、侍女たちに指示を出した。


それから再びアンナに向き合うと、リリアンナは得意満面な顔で、茶目っ気たっぷりに彼女に囁いたのだった。


「ね、アンナさん。私が言った通りになったでしょう?みんなちゃんと揃って、笑っているでしょう?」

「はい。本当によかったです。」


彼女が見たと言う夢の通りに、今こうして皆が笑顔でいられる事が本当に奇跡のように思えて、アンナは泣きそうになるのを堪えると、屈託のない笑顔を浮かべてそう答えたのだった。




「ところでアンナさん、ルーフェスは喜んでくれたのかしら?」

「……何をですか??」

急に話題を変えられて、何の事なのか全く思い当たらないアンナが不思議そうな顔をしていると、リリアンナは少し呆れたような顔をして、アンナが忘れてしまっているとても大事な事を教えてくれたのだった。


「何をって……貴女、刺繍を入れたハンカチをまだ渡していらっしゃらないの?」


その指摘に、アンナは頭が真っ白になって、一瞬固まると、直ぐに大きな声を上げて、取り乱したのだった。


「あぁぁっ!!色々あって忘れてたわ!!!」


彼に渡すはずの物が未だに手元にある事に愕然とし、彼女は思わず頭を抱えてしまった。

こんな大事な事を、なぜ今まで忘れていたのかと、アンナは自分のことを責めた。


「そ、そんなに落ち込まなくても、今からでも渡しに行けば良い事じゃない?」

あまりの混乱ぶりに、リリアンナが慌ててアンナを宥めると、彼女は少し冷静になってその助言にうなずいた。


「そ、そうですよね。私、この後ルーフェスに誕生日プレゼントを渡して、おめでとうって言うわ。」

「えぇ。それが良いわ。それじゃあ早速二人が居るサロンへ戻りましょうか。きっと彼も喜ぶわよ。」


リリアンナは、そう優しく声をかけると、アンナの背中をそっと後押ししたのだった。


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