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69. 決着

「あー……。アンナちょっと……」


急に声を上げたルーフェスは、席から立ち上がると、テーブルから少し離れた位置にアンナを手招いた。

アンナは不思議にも思いながらも、審議官に許可を貰ってから立ち上がると、彼に言われるままにその場から離れ部屋の隅に移動した。


するとルーフェスは、部屋の中央に背を向けると、アンナの手を取って()()を彼女に握らせたのだった。


「後でちゃんと説明するし、後でちゃんと怒られるから、兎に角今はこれを使って。」

「えっ……これを何でルーフェスが……?」

手の中の物を確認して、アンナは目を丸くした。それから、ルーフェスの顔を見ると、彼はバツが悪そうな顔でこちらを見ていた。


「後でちゃんと説明するから……。とにかく今はこれで、アンナの身分を証明しよう。」

そう言ってルーフェスは、彼女の背中を押して、再び席に着席させた。


アンナは、手の中のそれを握りしめると、再び力強い意志を瞳に宿し、毅然とした態度で、新たな証拠を提示したのだった。


「審議官様、私がラディウス前男爵の娘である事を証明します。これは、私が産まれた時に辺境防衛で武勲を立てた父が、国王陛下から賜ったブローチです!!」


銀細工に宝石が散りばめられたそのブローチの裏側には、細かい文字で、ラディウス男爵の武勲を讃える言葉と娘誕生に対する祝辞と、それから国王陛下のサインが彫ってあった。


「これは、紛れもなく国王陛下からの賜り物!!」

ブローチの文字を確認すると、審議官は驚きの声を上げてこれが本物である事を認めたのだった。


その様子に、アンナは今度こそ本当に胸を撫で下ろした。これで、彼女がラディウス前男爵の娘であることが証明されたのだ。


しかし、それに納得しない人物がいた。

叔父は顔を真っ赤にして震え出すと、その場に立ち上がって強く抗議を始めたのだった。


「お前がそんなものを持っているわけがない!!偽物だ!!」

「国王陛下からの御下賜品をそのように仰るなんて不敬になりますよ。」

「なっ……大体そのブローチはそっちの男が持っていた物じゃないのか、さっきお前がアンナに渡していただろう?!」


今にも頭から湯気が出てきそうな程に憤慨している叔父は、アンナの横に座るルーフェスを指差して吠えたのだった。


「はい。切り札なので、彼女に言われて預かってました。」

彼はそんな叔父の剣幕に臆することもなく、しれっと息を吐くようにそれらしい嘘を言ってのけた。


「大体、お前は誰なんだ?!何の権利があってこの場に居るんだ?!」

「これは失礼。名乗るのが遅れました。クライトゥール公爵家次男、ルーフェスと申します。アンナは大切な友人なので、彼女に請われて同席しました。」

そう言ってルーフェスは立ち上がると、優美に一礼をしてみせた。


「なっ……公爵家の人間だと……」

男爵はルーフェスの身分に一瞬怯むも、直ぐにある事を思い出して、勝ち誇ったかのように指摘したのだった。


「クライトゥール公爵には確か息子は一人しか居なかったはず!お前も偽物だな?!このような偽物の言うことなど信用できませんよ!!」


叔父は自信を持って審議官に訴えかけたのだが、審議官は彼のその訴えに、困ったような、憐れむような目で叔父を眺めたのだった。


「ラディウス男爵は、一昨日の劇を観ていないのですねぇ……」

「……は?劇……?」

審議官の言葉の意味が理解できず、男爵はポカンと口を大きく開けて呆けてしまった。


そんな叔父の様子を意にも介さず、審議官はルーフェスに向けて

「中々の傑作でしたよ」

と楽しそうに言ったので、ルーフェスの方も

「有難うございます。まぁ、あれは兄の主演ですけど」

と、少し気恥ずかしそうに受け答えたのだった。



「とにかく、裁判所としては、ここに居るアンナ・ラディウスが男爵位を受け継ぐことを認めます。これ以上の異議は受け付けません。良いですね?」

「ありがとうございます!!」

審議官がそう宣言すると、アンナは目に涙を浮かべながら勢いよく立ち上がり、感謝の意を込めて深々と頭を垂れたのだった。


叔父の方を見遣ると、彼はこの状況を認められず、かと言ってこれ以上は意見を述べる事も許されていないので、口をパクパクさせながら戦慄いていた。


「貴方にも元の家があるのでしょう?速やかにラディウス男爵家を明け渡して、彼女達に帰る家を返してくださいね。」


不服そうな叔父に、ルーフェスはそっと声をかけるも、彼は歯軋りをしながらルーフェスを睨め付けるばかりで何も言わない。


そんな彼の態度に、ルーフェスは眉を顰めると、叔父にも聞こえるように大きな声で審議官に確認したのだった。


「こういうのって、強制的に排除できますよね?」

「期日までに明け渡さなければ、そうなりますね。」


その言葉を聞き出すと、ルーフェスは再びこちらに敵意を剥き出しの叔父へと向き合って、ニッコリと笑いながら、冷たい声で告げたのだった。


「貴方も貴族の端くれならば、我がクライトゥール公爵家の魔術師としての力量はご存知でしょう?僕一人で一個小隊位ならば簡単に壊滅させられるんで、変な事は画策しない方がいいですよ。」


顔は笑っているが、目は全く笑っていない。獲物を射抜くような氷の視線で、その静かな怒りを叔父にぶつけると、彼は遂に観念したのか、「くそっ、覚えていろ!!」と、捨て台詞を吐いて、部屋から出ていったのだった。


「……あいつ、徹底的に潰した方が良いな……」

扉が閉まると、ルーフェスはボソリと独り言ちた。


その不穏な発言はアンナの耳にも届いていたが、彼女はあえて聞かなかったフリをした。

そして、改めて審議官に向かって深くお辞儀をすると、感謝の言葉を述べたのだった。


「審議官様、公平なご判断を有り難うございました。」


審議官は穏やかにアンナを見つめると、優しい声で告げたのだった。

「これにて本会は閉会致します。どうぞお帰りください。」


アンナとルーフェスは立ち上がると、お互いの手を取って、二人で並んで出口へと向かった。それから、扉を潜る前に一度振り返って審議官に礼をする。


初老の審議官は優しげな笑顔で頷くとそんな二人を温かい眼差しで見送ったのだった。

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