68. 叔父との対決
十時の鐘が鳴る頃、アンナとルーフェスは裁判所の一室に座って居た。
向かい合って反対側にはアンナの叔父である、現ラディウス男爵が不機嫌そうな面持ちで、二人を睨みつけている。
「それでは、両者揃いましたね。審議会を始めさせていただきます。」
そんな険悪な空気の中、初老の審議官が、厳かに審議会の開始を宣言したのだった。
いよいよだ。
アンナは叔父を前にすると怖い気持ちが迫り上がってきたが、ルーフェスが背中に手を当ててくれたおかげで、どうにか落ち着いて審議に臨むことが出来た。
彼女は、ルーフェスの気遣いに勇気づけられて、一度深呼吸をすると、堂々と目の前の叔父に向かって、自分の権利を主張したのだった。
「私、アンナ・ラディウスは、父の遺言の通り、ラディウス男爵位を正当に継承させていただきます。」
「では、ラディウス男爵はこれについて反論はありますか?」
アンナの主張を聞き入れると、審議官は今度は叔父に意見を促した。すると彼は
「反論も何も、こんなの認められるわけないだろうが!!」
と憤って、アンナを睨みつけたのだった。
「しかし、この遺言書は有効ですよ。」
「遺言書が有効だろうが、無効だろうがそんなの関係ない。そもそも、この女が本物のアンナ・ラディウスであるという証拠がないじゃ無いか!!」
「ですが、登録されている出生記録と彼女の供述は一致しています。目や髪の色も登録どおりですし、こちらの聞き取り調査でも不自然な点はありませんでした。」
「そんなの、事前に調べておけばどうにだってできるだろう!!こんななりすまし女に爵位を継がせるなんて正気の沙汰じゃないぞ!」
「ふむ、確かに一理ありますね。どうでしょうアンナさん、何か他に自身が前ラディウス男爵の娘である事を証明する方法はありますか?」
叔父が声を荒げて抗議をすると、公平を謳う審議官は、努めて冷静にアンナに別の証拠を提示するように求めたのだった。
「はい。あります。これは、父の形見の剣です。」
そう言って、アンナは自身と常に一緒にあった愛刀を審議官に粛々と提出した。
あの日家から持ち出せた物は、もうこの剣しか残っていない。言わばこの剣は彼女がラディウス前男爵の娘である事を証明する最後の砦だった。アンナは強張った表情で審議官をじっと見つめると、心の中で祈りながら返答を待った。
「確かにラディウス家の家紋が入っていますね。」
審議官は鞘に入ったその剣を手に取ると、柄の部分にある家紋を何度かなぞって、その剣が本物である事を確かめた。
その言葉に、アンナはホッと胸を撫で下ろすと先ほどまでの不安な表情から一転して、期待に満ちた明るい表情を見せた。
けれどもその明るい表情は、叔父からの言いがかりによって一瞬でかき消されたのだった。
「そんなの、模造品に決まってる!!証拠には認められない!!!」
「まぁ、確かにその可能性も否定できませんね。」
「そんな……」
そのやりとりに、アンナは愕然とした。唯一の形見である父の剣まで否定されてしまったら、自分がラディウス前男爵の娘である事を証明するものが本当に何も無くなってしまうのだ。
アンナの表情は再び曇り、為す術なく押し黙ってしまった。
部屋はひっそりと静まり返り、叔父だけが一人、勝利を確信したかのようにほくそ笑んでいる。
(そんな……ここまできて私たちの主張が認められないなんて……)
この五年間は一体何だったのか。
エヴァンに、叔父によって奪われた彼の未来を取り戻すという目標が、目の前で崩れ去っていく。
この絶望的な状況にアンナが打ちひしがれそうになっていると、横に居るルーフェスが突然、
「あっ…!!」
と、何かを思い出したかのように声を上げたのだった。




