59. 作戦開始
「エヴァンただいま!エミリアは居るかしら?!」
クルト村から王都へ戻ると既に夜になっていた。
アンナはリチャードとリリアンナの二人を連れて家に帰ると、弟に帰宅の挨拶もそこそこに、頼りになる親友の姿を探したのだった。
「姉さん?!早かったね?!」
「アンナ、え?本当に連れ戻してきたのね?!」
エヴァンとエミリアは、丁度ダイニングテーブルで夕食を食べていたところだった。
アンナが、リチャードを探すと言って出て行ってからまだ一日しか経っていなかったので、あまりの帰還の早さに、エヴァンもエミリアも驚いていた。
「えぇ。無事に連れ戻す事が出来たわ。二人とも入って来てください。」
そう言ってアンナは後ろに連れていた二人を家の中へと招き入れると、二人に椅子に座る様に勧めた。
「まぁ……、しかし、よくよく見ても、本当にそっくりね。」
エミリアは、リチャードの顔をマジマジと見つめて、感心したように呟くと、彼はニッコリ笑って「どうも」と答えた。
「リチャード様、リリアンナ様、こちら昨日お話しした女優のエミリアです。」
アンナは、先ずは目上である二人にエミリアの事を紹介した。
「えぇっと。初めまして、エミリアです。」
急にアンナに紹介されて、エミリアは戸惑いながらも一礼をすると、名を名乗り簡単に自己紹介をしてみせた。
「初めましてエミリア嬢。私はリチャード。この前貴女の舞台を観賞しました。とても素晴らしかったです。」
「初めましてエミリアさん。私はリリアンナと申します。この間観させていただいた劇には、本当に感動しましたわ!」
リチャードとリリアンナは、とてもにこやかにエミリアの事を賞賛し、笑顔で手を差し出してきたので、エミリアはそれぞれと戸惑いながら握手を交わした。
「それはどうも……。えーっと……有難うございます?」
エミリアはこの状況が全く飲み込めず、何をどうしたら良いのか分からなくて、アンナの方に困惑の目配せをすると、彼女に助けを求めたのだった。
そんなエミリアの様子に気付いたアンナは、リチャードとリリアンナとの事の経緯を簡単に説明して、それから、エミリアに対しての本題を切り出した。
「単刀直入に言うわ。エミリア、貴女の協力が必要なのよ。お願い、力を貸して!!」
アンナは、エミリアの手を取ると真剣な眼差しで彼女に訴えかけたのだった。
「アンナ、私は貴女の助けになるならば喜んで力を貸すけれども、でも一体、何をすればいいの?」
大体の経緯は説明を聞いて何となく把握したのだが、
アンナのみならず、リチャードや、リリアンナからも期待する様な眼差しを向けられている事がエミリアは不思議で仕方がなかった。
自分に何か、とんでもない事を所望されているのでは無いかと、そんな不安まで頭をよぎった。
「エミリアには、劇団との橋渡しになって欲しいの。今から言うこの計画は、劇団の協力なくては実現できないの。だから貴女に、劇団へ協力交渉をする機会を設けて貰いたいの。」
そう言うとアンナは、エミリアとエヴァンに、自身が素案を考えて、リチャードとリリアンナと共に丁寧に練り上げた計画を説明したのだった。
***
「成程!それは面白いわ!!!うちの劇団の話題にも繋がるし、きっと団長も協力するわよ!いいえ。私が絶対に協力させるから、任せて!!」
アンナの説明を聞き終えると、エミリアはさっきまでの不安がる態度は影を潜めて、顔を輝かせて興奮した口調で彼女の計画に賛同の意を示したのだった。
「それは、とても頼もしい。頼りにしてますよ、エミリア嬢。」
リチャードはエミリアの力強い言葉を聞くと嬉しそうな笑みを浮かべて彼女の協力に感謝の意を伝えると、彼の横でリリアンナも「うんうん」と嬉しそうに首を縦に振っていた。
「それで、当面の問題は……どうやって、ルーフェスを外に連れ出すかと、リチャード様とリリアンナ様をどこで匿うかね。うちは流石に二人も泊められないわ。」
アンナは当初、リチャード達を王都に連れ帰ったら直ぐにルーフェスに引き合わせるつもりでいたので、彼らを何処かに匿うという事態は想定していなかったのだ。
狭い借家なので、流石に二人ともを匿う事は出来ず、どちらか一人はエミリアの家で匿ってもらおうか……。などと考えていると、リチャードが「考えている事がある」と、口を開いたのだった。
「それについては、もう一人協力者を巻き込もうと思ってる。そうすれば彼の屋敷に匿って貰えるし、彼の協力があれば、ルーフェスとも接触できると思うんだ。」
「当てが有るんですか?」
「うん。でもそれには、エミリア嬢の協力が絶対に必要なんだけど、いいかな?」
リチャードはそう言ってエミリアの方を見たので、他の皆も彼に倣ってエミリアに注目した。
「えっ、私???」
名前を呼ばれてエミリアが戸惑った様子を見せるも、リチャードは彼女を見てニッコリ笑うと「そう。」と言って頷いた。
「後はそうだな……。ルーフェスに接触するのには君にも手伝って貰いたいかな。」
「えっ、俺も??」
今迄、ただ黙って話を聞いていただけなので、エヴァンはまさか自分にも話が飛んでくるとは露にも思っていなかった。
急な指名に戸惑うと、エヴァンはエミリアと顔を見合わせてから、怪訝そうな顔をリチャードに向けて、彼の考えとやらを聞いたのだった。




