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33. 介抱

暫くその場にうずくまって顔の熱が引くのを待ってからアンナは気持ちを切り替えて立ち上がると、それから直ぐに薬湯作りに取り掛かった。


エヴァンが小さい頃はよく熱を出していたので、アンナは薬湯作りには長けていた。慣れた手つきで熱冷ましの薬草を煎じると、水加えて煮詰めていく。


そうやって手早く作成した薬湯をコップに注ぐとアンナはルーフェスが寝ている部屋の前へと戻ったのだが、彼女はその扉を中々開けることが出来ずに扉の前で暫くの間、入室を躊躇っていたのだった。


先程抱きついてしまった手前、一体どんな顔で彼と向き合ったら良いのか分からないのだ。


(いつも通り、普通にしてればいいのよ……)

そう自分に言い聞かせて、いつもの感じを繰り返し頭の中で思い描く事でなんとか平常心を取り戻し、アンナは覚悟を決めてドアをノックした。


「入るね。」と小さく声をかけて少し緊張しながらゆっくりとドアを開けるも、中にいるルーフェスからの反応は何も無かった。


というのも、ルーフェスは眠っていたのだ。


アンナはルーフェスが眠っていた事に少しホッとして、それから持ってきた薬湯をテーブルに置くと、彼が眠るベッドの横の椅子に腰を下ろして彼の様子を伺った。


(眠っては居るけど、辛そうね……)


ルーフェスが額に汗を浮かべながら、苦悶の表情で眠っていたので、アンナは手桶に汲んでおいた水で布を濡らして絞ると、彼の額や頬の汗をそっと拭いた。


何度かそうしていると、瞼が動いてうっすらと目が開いたので、アンナは慌ててその手を引っ込めたのだった。


「ごめんなさい、起こしてしまったわね……」

「ううん、冷たくて気持ちいい……」

ルーフェスは側にいるのがアンナだと分かると、そう答えて安心した様に目を閉じたので、アンナは彼の汗を拭うのを再開した。


「少しは和らぐ?」

「うん……」


幾許か穏やかになった彼の表情を見て、アンナはそのまま暫く彼の汗を拭ってから、頃合いを見て声を掛けたのだった。


「ルーフェス、薬湯を作ってきたんだけど、飲めそうかしら?」

「有難う。貰いたいな。」


そう言ってルーフェスはアンナの手を借りてゆっくりと上半身を起こすと、彼女から差し出されたコップを受け取り薬湯を一口飲んだのだった。


「甘い……?!」

口に含んだ薬湯の味が想像と違う味だったので、ルーフェスは驚いてアンナの顔を見ると

「ふふ、飲みやすいでしょう?」

と、彼のその反応に、彼女は少し得意気に笑ったのだった。


「うん、苦い薬しか飲んだ事ないからびっくりした。」

普通なら苦く飲み干すのに苦労する薬湯だが、これは直ぐに飲み干すことができそうだった。


「弟が小さい頃、気管支が弱くてよく熱を出してたんだけど、あの子薬が苦いと飲んでくれなくてね。試行錯誤した結果なの。」

「有難う。お陰でとっても飲みやすいよ。」

そう言ってルーフェスは薬湯を一気に飲み干すと、アンナの手を借りて再びベッドに横になった。


「こんなに手厚く看護して貰うのは初めてだよ……」

ポツリと漏れ出た彼の言葉は、どこか寂しそうでもあり、嬉しそうでもあった。


「何言ってるの、元はと言えば私が無茶をしたから貴方がこんな事になっているのに、これくらいは当然よ。」


彼の怪我は自分のせいだと言う自責の念が強い為、アンナはせめてもの罪滅ぼしにと彼の介抱に精一杯勤しむつもりでいたので、

「何も気にせずに今は私に介抱をさせて」

と、ルーフェスに微笑みかけたのだった。


「……僕の育った環境では、汗を拭いてくれる人も、飲みやすい薬湯を作ってくれる人も居なかったからね。だから……、アンナ……本当に有難う……」


まだ本調子ではない為、苦しげではあるが、それでもルーフェスは弱々しくも笑って見せた。


彼から伝え聞く彼の育ってきた環境を想像すると、胸が締め付けられる思いだったが、それについて触れる事はしなかった。


「もう少し眠った方が良いわ。」

「そうだね……そうさせて貰うよ……」

アンナの勧めに従って、ルーフェスは静かに目を閉じた。すると、瞼の上に何かが触れたのが分かった。


「眠るまでこうしててあげる。こうすると安心するんだって。弟に良くやってあげたの。」

アンナが自身の掌を、ルーフェスの瞼の上にそっと、重ねたのだった。


「僕は弟なのかい?」

ルーフェスは目を閉じたまま、問いかける。


「あら、だって私の方が少しだけお姉さんでしょう?」

見えないけれども、声の調子からアンナが笑っているのが分かる。彼女の優しい声音と瞼に当てられた手の温もりはとても心地よく、ルーフェスは直ぐに深い眠りに落ちて行った。


暫くの間そうやって寄り添っていたが、ルーフェスが眠りについたことを確認すると、アンナはその手を瞼から離し、そっと彼の頬に触れたのだった。


(早く、良くなりますように……)


ベッドで眠るルーフェスを慈しむように眺めてから、アンナは彼を起こさないよう静かに部屋を出たのであった。

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