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24. 無情な現実

二人で観劇をしてから数日後。


今日はギルドの仕事は休んで、五十年前のルオーレ公爵家の事件についての情報収集をする日だった。


二人は、最初にグリニッジ婦人を訪ねた日から、六日に一回の間隔でギルドの仕事を休み、老人達に話を聞いて回っていた。今日で実に十回目となる。


数珠繋ぎに辿っていって、今まで二十人のもとを訪ねていた。順調とは言い難いが、それでも、前に進んでいる手応えはあった。


なぜなら、今日訪ねる予定の人はルオーレ公爵家の分家であった家に勤めていたご婦人なのである。

家同士の繋がりがあったのならば、その家の使用人同士にも繋がりが合った可能性は高く、このご婦人に話を聞く事が出来れば、真実にとても近いとこまで行けるのではないかと、二人は期待していたのだった。


「もしかしたら、今日で大分真実に高いところまで近づけるんじゃないかなぁ。」

そう漏らすルーフェスの表情も、どことなくいつもより明るく見える。


「ずっと、探していたんだものね。ようやく答えが掴めそうで良かったわね。」

未だ、彼が何故ルオーレ公爵家の事件について調べているのかは教えて貰っていないが、彼がどんなに真剣に事件を追っているかをこの二ヶ月の間、隣でずっと見てきたのだ。アンナは、そんな彼の努力が、純粋に報われて欲しいと願った。


きっと彼は、あと少しもう少しで求めていた真実を手にする事が出来るだろう。


そう思うと、アンナも自然と頬が緩むのだった。


二人は、前回の情報収集日の最後に訪れた家で紹介してもらった老婦人の家へ辿り着くと、ドアをノックして反応を待った。


すると、程なくして中年の女性が中から出てきて、訝しげにこちらを見たのだった。


「こんにちは、ジェーナさんに紹介してもらった者です。僕はルーフェスと言います。カーラさんにお話を伺いたいのですが、ご在宅でしょうか?」


明らかにこちらを警戒している女性に怪しまれない様に、ルーフェスが丁寧に名を名乗り来訪の目的を告げると、その中年女性は、来訪者が押し売りや怪しい宗教勧誘では無いと分かって少し警戒を緩めたようで「カーラは母ですが……」と何かを語ろうとしたのだったが、その時だった。


「あぁっ……!!!」


ルーフェスの少し後ろに控えていたアンナが、急に大きな声を上げたのだった。


「アンナ?!一体どうしたの?」

声に驚いてルーフェスは思わず肩越しに後ろを振り向くも、アンナはルーフェスの背中に隠れる様な位置に身を置いているので、上手く彼女の表情を確認する事が出来なかったが、どうやらこの中年女性の顔を見て驚いている様だった。


「ごめんなさい!急用が出来たの。今日はルーフェスに付き合えないわ。ごめんね、それじゃあまた!」

声を上げてからのアンナの行動は、脱兎の如く素早かった。そう言い残すと、くるりと踵を返し、こちらを一度も振り返る事なく、走り去ったのだった。


「急用って……不自然すぎるよ……。」

そう呟いてみても、その場に残されたルーフェスの戸惑いの声は既に後ろ姿も見えない程に離れてしまったアンナの耳には届かなかった。


「あの……今の方は?」

話の腰を折られた中年女性も、目の前で起こった出来事に戸惑っている様だった。彼女は、走り去ったアンナについて不思議そうにルーフェスに尋ねた。


「あぁ、すみません。友人はなんか……急用?みたいです。」

「ご友人……ですか。」

中年女性は、そう呟くと、アンナが走り去った方向を眺めている。


二人してアンナが走り去った方向を見ていても仕方がないので、ルーフェスは先程の質問を仕切り直した。


「それで、カーラさんはご在宅でしょうか?僕は彼女に話をお聞きたいのですが。会えますでしょうか?」

気を取り直して、改めて会いたい人物について尋ねるも、返ってきたのは色良い返事では無かったのだ。


「ええっと、母は在宅してますが、その……話す事はちょっと難しいわね……」

頬に手を当てながら、申し訳なさそうに彼女は続ける。

「咳が酷くて、会話もままならないのよ。」

耳を澄ますと、確かに家の奥の方から、激しく咳き込む声が聞こえてくる。


「だから、ごめんなさいね。お引き取りいただけるかしら?」

そう言って女性は頭を下げると、家の扉を静かに閉めたのだった。


今日こそは真相に近づけると思って浮かれていたルーフェスにとってそれは非情な通告で、彼は声も出せぬほど落胆していた。


取り付く島もなく、門前払いされてしまったルーフェスは、目の前で閉ざされた扉の前でただ立ちすくむ事しか出来なかったのだった。

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