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18. 自覚した想い

ギルドに戻り討伐証明であるトカゲの尻尾十五本を納品して報酬を受け取ると、いつも通りに「じゃあまた明日」と言ってアンナはルーフェスと別れたのだった。


自分の中で燻っているこの感情に、未だ折り合いをつけることが出来ずに戸惑っていたアンナは、彼と別れて一人になった事で、密かにホッと胸を撫で下ろしていた。


一体どうすればいいのか。


自分一人では到底この感情を処理出来ないと思い悩むと、頼りになる年上の幼馴染の顔が浮かんだのだった。


(きっと今日もエミリアは家に来るはずだから……。そうだ、彼女に話を聞いてもらおう……)


エミリアは、舞台が休みの日は必ずアンナの家に顔を出しており、そして、都合よく今日が舞台の休演日なのであった。


アンナはこの落ち着かない気持ちを早く鎮めたくて、そわそわしながら家路を急いだのだった。



***



「あら、今日はエヴァンが居なくてアンナが居るのね?」


いつも通りエミリアは、日が暮れる頃にアンナの家にやって来た。

彼女が休日にこの家を訪れるのは大体いつもこの時間なのだが、普段ならばアンナはまだ家に帰っておらずエヴァンが一人で留守番をしている事が殆どであった為、逆のパターンは珍しかったのだ。


「いらっしゃいエミリア。今日は仕事が早く終わったのよ。だから早く帰って来れたわ。」

「そうなんだ。それは良い事だわ。エヴァンはどうしたの?」

「ちょっとお使いに行ってもらってるの。

その……エミリアと二人で話がしたくって。」


なんとなく、弟には聞かれたくないなと思い、エヴァンには事前にお使いを頼んで外に出てもらっていたのだ。


「んんー?一体どうしたの?何かあったの??」

何やらいつもと様子が違うアンナに気づいて、エミリアは優しく問いかける。


「その……前に話してた彼の事なんだけど……」

気恥ずかしさから目線を逸らし、アンナはしどろもどろに話を切り出したのだが……

「どうしたの?!何かあったの?!!」

何かを察知したエミリアが、食い気味に質問をかぶせてきたのだった。


「何もない、なんにもないからそれは!!ただね……」

あまりのエミリアの食い付きぶりに慌てるも、アンナはここ数日に起こった出来事や、自分の中でざわつく感情を彼女にゆっくりと吐露していった。


途中で話の腰を折ることもなく、エミリアは黙ってアンナの話を聞き入って、一通りの話を聞き終わると、真面目な顔で断言したのだった。


「ずばり、それは恋ね。」


あまりの直球な回答に、アンナは一瞬固まった。


「そ……そうかな……?」


そのまま素直に受け止められない回答に、動揺してはぐらかしてみるも、エミリアに「そうよっ!!」と、力強く肯定されてしまったのだった。


「だってアンナは自分のために彼が怒ってくれたことが嬉しかったんでしょう?一緒に行動するのも楽しくって、お話しする時間が心地よいんでしょう?そして何より、抱きしめられてドキドキしたんでしょう?!」


「あああああーっ!もうやめてっ!」

恥ずかしさのあまり、アンナは真っ赤になって耳を塞いだ。


他人の口から改めて聞かされると、自分がいかに彼に心を揺り動かされていたのかを実感させられてしまう。


「……でも私、そう言った感情を今まで持ったことがないから、正直良く分からないわ……」


そういった事に憧れが全く無いわけでは無かったが、今まで自分は恋愛というものをしたことがないし、これから先することもないと思っていたのだ。


だから自分の中のこの気持ちが何なのかなんて分かるはずがないのだが、それを素直に伝えると、エミリアは諭すように語り始めたのだった。


「それじゃあ、もっとシンプルに考えましょう?彼とずっと一緒に居たいと思う?」

「それは……思う……わ……」

「じゃあ、ある日突然、彼に会えなくなってしまったらどう思う?」

「それは……とても……嫌……だと思う……」


アンナから彼女の気持ちを聞き出して、エミリアは優しい目を向けて微笑みながら黙ってアンナを見つめている。


エミリアに見つめられて、アンナはふぅーっと深く息を吐くと、それから目を背けながらもその事実を認めたのだった。


「私はどうやら、彼の事を……好き……なんだと思う……」


アンナは消え入りそうな声で、自分の感情について告白した。そんな彼女の様子を見て、エミリアは目を輝かせて喜んだのだった。


「アンナ!私は嬉しいわ!!貴女もやっとそういう事に目を向けれるようになったのね!凄い進歩だわっ!!」

そう言うと、エミリアは嬉しそうにアンナに飛びついてきたので、アンナはたじろぎながら彼女を受け止めて、それから少し困った様に言葉を続けた。


「でも、だからと言って、どうこうするわけではないわ。」


アンナがまるで自分に言い聞かせるように冷静にそう呟くと、エミリアは驚いて動きを止めるとアンナを見返したのだった。


「えぇっ?!どうして?!」

彼女は納得いかないといった表情でアンナの顔を覗き込んでいる。


「だって、彼といっしょに仕事をすると約束してるのは後一ヶ月だけだし、その一ヶ月後に私が無事に爵位を引き継げたならば私たちは領地へ帰るし……。そうなると、平民である彼とはもう会う事も無いんじゃないかな……」


好きだと自覚したからと言って、どうにもならないわねと、アンナは力なく笑ってみせたのだった。


悲しそうに笑うアンナを目の前にして、エミリアは何とかして彼女の気持ちを尊重したいと、今の状況に思案を巡らせた。


「そもそも、その彼は本当に平民なのかな……?」


エミリアは真面目な顔でポツリと呟いた。

ルーフェスに会った事がなくアンナの話だけでしか知らないが、前から聞いていてどうにも腑に落ちなかったのだ。


「だって、貴族にしか使えないって言われている魔法を使うことが出来るんでしょう?それならば、本当は貴族の身分なんじゃないの?」

「それは、どこかの上位貴族の血を引いているんだと思うけれども、でも、だからと言って認知されていなければ、平民なのよ。」

アンナがそう説明するも、それでもまだ納得いかないといった表情でエミリアは考え込んでいる。


「……じゃあ例えば、そのどこかの上位貴族様の跡取りが、何らかの事情で居なくなって、急に彼が認知されたりとかあるかもよ?」

諦めきれないエミリアは、突飛な展開を主張してみせたが、アンナは冷静にそれを否定する。


「いや、無いでしょう……」

「うーん、無いかぁ……」


何度頭を捻ってみても、これといった妙案は浮かんで来くる事はなく、二人は暗い顔のまま頭を抱えた。


「……身分差って、面倒くさいわね。」

「そうね……。今迄は誰かと添い遂げたいとか考えた事もなかったから気にした事も無かったけどね。」


アンナ自身いつかは結婚もするだろうとは思っていたが、それは、ラディウス領の為になる物で、そこに自分の意思などないと思っていたのだ。


「でも、今は違うと。」


肯定も否定もせずに、アンナは複雑な表情で儚い笑みを口元に浮かべて黙ってエミリアを見返した。


そんな彼女の様子に、エミリアは手を伸ばしてアンナの顔を両手で挟むと自身の顔を寄せて、おでことおでこをくっつけたのだった。


「私は、アンナには諦めないでほしいな!爵位も、恋も両方を。」

これは、子供の時からよくやっている、エミリアがアンナを励ます時の動作だった。


「そんなの無理よ。でも……そんな方法がもし合ったのなら……教えてほしいなぁ……」

アンナは、少し寂しそうな表情で本音を漏らした。

「そうね……」

この可愛い妹分の初めて自覚した恋心を大切にしてやりたいと、エミリアも真剣に考える。


そしてボソリと呟いた。


「……最悪、男妾にするとか……」

「……それは、本当に最悪すぎるわね……」


なんの解決策も見出せず、二人ははぁーっと大きな溜息を吐いて頭を垂れたのだった。


「でも、身分差でちゃんと結ばれる事が難しくても、そばにいて欲しいって言えば案外一緒に居てくれるかもよ?」

「どうかな……?そもそも、ただの仕事上の相方なだけであって、向こうが私のことをどう思ってるかは分からないわ……」


不安げにそう答えたが、重要なのはそこである。


今までのアンナとエミリアの話は、あたかもルーフェスの気持ちもアンナに向いているという前提で話しが進んでいたが、実際彼がアンナの事をどう思っているかは、分からないのだ。


「じゃあ、残り一ヶ月で勝負しなさいよ。」

「勝負って何を……」

エミリアは、再びアンナの額に自分の額をくっつけて、彼女の目を見て言ったのだった。

「アンナと、これからもずっと一緒に居たい。仕事以外でも一緒に居たいって思ってもらえるように行動するのよ。」

「でも、一体どうやって……?」

「そうね……。とりあえずうちの公演チケットをあげるわ。これで彼を誘いなさい。とにかく、仕事以外でも一緒に居る機会を増やすのよ。」


まずはデートに誘いなさい。


そう言ってエミリアはチケットをアンナに握らせると、最高の演目を見せてあげるから絶対に二人で見に来てねとウィンクをしてみせたのだった。


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