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14. 五十年前への探索

「グリニッジ婦人、こんにちは。」

「あらあら、アンナどうしたの?」

家賃支払いの時以外に、アンナが婦人を訪ねることは滅多に無いので、彼女の急な来訪にグリニッジ婦人はたいそう驚いたのだった。


「急に訪ねてごめんなさい。私の友人が、グリニッジ婦人にお話を聞きたいそうで、良ければ会ってもらえますか?」

挨拶もそこそこにアンナはそう言うと、後ろに控えていたルーフェスを婦人に紹介した。


「彼はルーフェス。昔王都で起こった事件について調べているんです。それで、当時の事を知っていそうな人を探してるんですが、婦人はずっとここに住んでいるとの事だったので、話を聞きたいんですって。」


「こんにちは、グリニッジ婦人。ルーフェスと言います。」

アンナに紹介されてルーフェスは婦人の前に進み出ると、少しでも良い印象となるように、身を屈めて目線を婦人に合わせながら意識して爽やかに名乗ってみせた。

すると婦人はルーフェスを頭の先から爪先まで眺めると、「あらあら、まぁまぁ。貴方美男子ねぇ。」と言って、立ち話もなんだからと二人を家の中へと招き入れてくれたのだった。


「丁度お茶にしようと思っていたのよ。貴方達も一緒にどうかしら?」

「有難うございます。頂きます。」


婦人は応接間に二人を案内しソファに座るようにと勧めると、一旦席を外し直ぐにティーセットを持って戻ってきた。そして手ずから紅茶を入れ始める。


「それで、聞きたい事って何かしら?」

カップに紅茶を注ぎながら、婦人がルーフェスに来訪の目的を尋ねた。


「僕は今から五十年位前、貴族地区のルオーレ公爵の邸宅で魔力爆発が起こった事件について調べています。ご婦人は当時の事をご存知ですか?」


「まぁ、あの事件のことを知りたいの?」

思いもよらない質問に、婦人は目を丸くして驚いていた。今更、五十年前の事件が話題に登るなどとは、微塵も考えなかったからだ。


婦人の問いに、ルーフェスが「えぇ。」と真面目な顔で頷くと、彼女は少し表情を曇らせながらも当時の事を話してくれた。


「そうなの……。あの事件は本当に凄惨だったわ。かなり距離が離れているここいら辺にまで大きな音が聞こえてきてね。それは大勢の人が亡くなったわ……」

そう話す婦人の表情が、それがどんなに痛ましい事件だったかを物語っていた。


「当時、事故の原因について何か見聞きした事は有りますか?」

「そうねぇ……」

ルーフェスの問いかけに婦人は昔の事を思い出そうと頬に手を当てて目を瞑ると黙りこんだ。

そして黙考の末に記憶の底から拾い上げた情報を、ゆっくりと言葉にして二人にも教えてくれたのだった。


「後から分かった事なんだけど、公爵様のお子様が双子だったんですってね。私ら平民には全く分からない話なんだけども、魔力のあるお貴族様にとっては、双子の産まれた家はよく無いことが起こるっていう迷信があるらしいのよ。だから魔力爆発は双子のお子様達のお互いの魔力が干渉しあって引き起こしたんじゃないかって皆噂していたわね。」


「公爵家の双子……」

黙って夫人の話を聞いていたルーフェスが暗い顔で小さく呟いた。


「そうよ。でもそんな迷信馬鹿げてるわよねぇ。」

あり得ないわと婦人は笑った。


「そうですね。僕もそう思います。」

夫人の考えに賛同したルーフェスであったが、笑っている婦人とは対照的にその表情は険しかった。


「そんなのただの迷信だ。魔力爆発は、直接的に絶対何かハッキリとした原因があるはずだ。」


独り言のように小さく囁かれた彼の言葉に不安を感じてアンナはルーフェスの方を見ると、彼は難しい顔で俯きがちに、目の前のカップを凝視していた。


「ルーフェス、大丈夫?」

普段とは明らかに違う彼の様子に、アンナは心配になって思わず声をかけた。


「えっ?あぁ……。……大丈夫、何でもないよ。」

アンナの声がけにルーフェスは一瞬ハッとした表情を見せたが、直ぐに我に返り、慌てていつもの穏やかな笑みを取り繕った。


「そう……、なら良いけど……」

明らかに何かあるとは思ったが、そう言われてしまったらそれ以上は何も言えなくなったので、アンナは黙って彼を見守った。


ルーフェスは深呼吸して再びグリニッジ夫人に向き合うと、先程とは違う質問を彼女に新たに投げかけたのだった。

「ご婦人の知り合いに、当時のルオーレ家に仕えていたけど当日たまたま休暇なり外出なりで難を逃れた人、直前で勤めを辞めて公爵家から離れていた人、ルオーレ家に出入りしていた業者等、そう言った方はいらっしゃいませんか?」


「うーん、そうねぇ……。……ごめんなさい、ちょっと分からないわ。」

ルーフェスからの問いかけに少し考えてみたものの、彼の言うような知り合いに心当たりはなく、婦人は申し訳なさそうに返答した。


「それなら、その時期にルオーレ公爵家では無いにしても、貴族の屋敷に勤めていた方知り合いにいらっしゃいませんか?」

「あら、それならば知り合いに居るわよ。ミーシャって言って幼馴染なのよ。彼女は確か伯爵家に勤めていたわ。」


グリニッジ婦人のその言葉に、ルーフェスはパァッと目を輝かせると、直ぐに真剣な眼差しで彼女を見つめて、婦人に向かって深々と頭を下げて懇願したのだった。


「お願いです、その人を僕に紹介してください!」

熱心に頭を下げるその様子は、まるで神に縋るようにも見えた。

彼の気迫のこもった様子に、婦人は少したじろぐも、そんなルーフェスの必死な姿に何かを感じて、快く幼馴染のことを二人に紹介してくれたのだった。

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