表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/82

13. 彼のお願い

まだ昼食には少し早い時間なのに、その店内は既に多くの人で賑わっていた。


そう言えば以前エミリアが、中央広場近くの大衆食堂が美味しくて、今劇団員の中で流行っているのだと言っていたけれども、それはもしかしたらここのお店のことなのかもしれないわね。などとアンナがぼんやり思い出していると、その間にルーフェスが空いてる席を見つけてくれたので、二人はそこに腰を下ろした。


「アンナ、何が良い?」

席に着くとルーフェスが先にメニュー表を見せてくれたので、アンナは視線を落として上から順番に書かれている料理名を見ていった。人気の食堂だけあって、そこには様々な料理名が並んでいる。どれがいいかと悩んでいると、ある項目に目が留まったのだった。


「あっ、これ……。これがいいわ。ベリーソースのミートボール。」

それは、アンナがいたラディウス領のある西側地方の郷土料理だった。思いがけないところで懐かしい料理と出会って、僅かにだが彼女の頬は緩んだ。


「じゃあ、僕もそれを頼もう。」

「同じので良かったの?」

「食べた事は無いけども、アンナが食べるのなら僕も食べてみたいと思ったんだよ。これ、西側地方の郷土料理だよね?」

「えぇ。昔食べた事あるの。けどまさか王都でこの料理を見かけるとは思わなかったわ。」

アンナは、まだ両親が存命の頃に家族でこの料理を食べた事を思い出し、懐かしくもあるが少し切なくなった。


「このお店はいろんな地方の料理を出すみたいだね。ほら、こっちの川魚の香草バター蒸しは北方地域の郷土料理だしね。」

「本当、色々地方料理があるのね。」

二人で一つのメニュー表を覗き込みながら、その品数の多さに感心していた。


「今度また、違う料理を食べに来ようか。」

「えぇ、そうね。」

ルーフェスのそんな何気ない提案に、アンナは、果たして今度ってあるのかしらとは思ったが、そんな懸念は口に出さずに、ニッコリと微笑んで同意したのだった。




注文を終えて料理が運ばれてくるまでの間、二人は好きな食べ物や、嫌いな食べ物の話題など、普段ギルドの仕事中にはしないような他愛もない話で盛り上がっていた。


「ルーフェスは、食べられないものってあるの?」

「うーん、特にないかなぁ。あ、でもあんまり好きじゃない食べ物はあるよ。」

「あら、例えば?」

「黒いオリーブの実。時々サラダに入ってたり、刻んだやつがソースに入ってたりするけども、あれは本当に要らないと思う。あれが無い方が美味しいと思うんだ。」


「ふふっ、分かるわそれ!」

ルーフェスがあまりに真剣な顔でいうので、アンナは思わず声を出して笑ってしまった。


「私もあれ、要らないと思うの。自分で料理する時にはまず使わないわ。」


彼の意見に同意をすると、ルーフェスは嬉しそうに話を続けた。


「好きな食べ物は……そうだなぁ。こちらもすごい好きって食べ物は直ぐには浮かばないけども……あっ、でもあれは好きだな。白葡萄。皮ごと食べられるやつ。」

「分かるわ!あれ美味しいわよね。高いから滅多に口にする事は無いけども、前にエミリアが買ってきてくれた白葡萄は本当に美味しかったわ。」


話してみると、ルーフェスとは食の好みが非常に似通っていて、思ってた以上に会話が弾んでいた。


普段からも、ルーフェスとは色々な事を話してはいたが、主にどうやって魔物を狩るかとかの仕事の話が殆どで、血生臭くない会話というのがなんとも新鮮だったのだ。


程なくして注文した料理が運ばれてきたので、雑談はそこで中断されたが、届けられた料理を見て二人は「美味しそうだね」と笑い合った。

目の前に並べられたアンナにとって懐かしい故郷の料理は、あの頃の楽しかった家族の団欒の時間を思い起こさせてくれたのだった。




「それで、私は何をすれば良いのかしら?」

運ばれてきた料理を口にしながら、アンナは本題に入った。一体自分に何を求められているのだろう。それが今のところ全く分からないのだ。


「うん。僕は、五十年前に起こったある公爵家での凄惨な事件について調べてるんだけど……」


アンナの問い掛けに、ルーフェスは食事の手を止めて、先ず自分が調べている事について話し始めた。


「当時の様子を知ってる人に直接話を聞きたくて、当時公爵家に勤めてた人とか、出入りしていた業者とかを探しているんだ。それで、アンナの大家さんが、老齢のご婦人だって言っていたから、もしかして当時の事を何か知っていないかと思って話を聞いてみたいんだけど、僕に紹介してもらえないだろうか?」

「要は、昔の話を聞きたいから、私の知り合いのグリニッジ婦人をルーフェスに紹介して欲しいってこと?」

「そうゆうことだね。」


余りの簡単なお願いに、アンナは拍子抜けした。正直、もっと難しい事をお願いされるのでは無いかと思っていたからだ。


「なんだ。そんな事で良いのね。それくらいだったら別に昼食を奢ってもらう程のことでも無いのに。」

「昼食の事は気にしないで。僕がそうしたかっただけだから。それで、お願いできるかな?」

「えぇ、勿論いいわよ。何だったらこの後訪ねてみる?」

「有難う、助かるよ。」


そう言ってルーフェスは、安堵した顔をみせた。

アンナから色良い返事を聞けたことが、彼を安心させたのだった。


「けれども、その五十年位前に起こった凄惨な事件って一体どんな事件なの?」

生まれる前の事件である。アンナはルオーレ公爵という名前も聞いた事が無かったし、それがどんな事件だったのか、皆目見当もつかなかった。


「あんまり食事中に話す話題では無いんだけど……」

そう前置きしてからルーフェスはその事件について概要を説明してくれた。


「今はもう絶家してるんだけど、昔ルオーレ公爵家ってのがあったんだ。で、その公爵家である日物凄い魔力爆発が起こって、近隣まで巻き込んでその一帯が爆発によって吹き飛び、多くの人が犠牲になったって聞いている。」


「うわぁ……」

想像以上に悲惨さに、アンナは思わず絶句した。


「魔力爆発があった時に、公爵家に一体何があったのか。魔力爆発の原因が何だったのか。僕は正確な情報を知りたいんだ。」


そう話すルーフェスの目はとても真剣だった。


一体なぜ、彼がその事件を調べているのかまでは話してくれないので理由を推し量ることもできないが、「訳あり同士詮索はしない」と出会った初日にそういう話をしていたので、アンナは深いことは何も聞かずに彼に協力する事にした。


「成程。じゃあとりあえず、この後うちの大家さんに話を聞きに行ってみましょう?年齢的には条件に当てはまるわよ。」

「有難う。ぜひお願いしたいな。」

「了解。任せて。」


アンナが笑顔でそう返事をすると、ルーフェスも微笑みながら「よろしくお願いします」と彼女の助力に期待している意を伝えたのだった。


それから二人は、残りの食事を再び他愛もない話をしながら済ませると、早速大家であるグリニッジ婦人の家へと向かったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ