浅瀬の星(ほぼウユニ塩湖)まであと一日。1000年ぶりの目覚め。
僕達は、宇宙船の中で1000年のコールドスリーブから目覚めた。もうすぐ目的地の星につく。
コールドスリープから目覚めると、丸一日寝てしまった時のように、身体が重くて、関節が少し固くなってしまったような感触がある。
「あー、身体重いなぁ……」
僕は、隣のカプセルから起き上がった美少女に話しかけた。彼女は僕の番であり、長くて冷たい(たいてい眠ってるが)人生という旅の同伴者だ。
「全くだな。」
彼女は肩をぐるぐる回して、鈴がなるような声で返事をした。僕は彼女の声が好きだ。
千年眠っていても身体が多少重いくらいで済んでいるのは、まさに科学の進歩の賜物だろう。僕達は他愛も無い話をしながら、小型宇宙船の中を移動した。
僕らを冷凍して眠らせてくれるカプセルも、少なくとも座り心地は悪くないのだが、やはり居間でゆっくりくつろぎたい。
「さて、タンなんちゃら星まであとどのくらいかな?」
僕は腕につけたスマートフォンを展開した。薄いパネルが宙に展開される。この宇宙船の制御アプリを開く。
「どうだろうなぁ。」
彼女は生返事をしながら、さっそく合成香料の香りがする空気清浄機や、家電量販店で一目惚れした“コタツ”をセットする。(コタツを楽しむために、彼女は今の空調を低めに設定している)
僕達の、今回の旅の目的地はタンミャリチェリム星だ。名前の言いずらさに定評がある(僕達調べ)
「お、1兆kmぐらいか。丁度いい、ネットでもチェックするか。」
一兆kmは0.1光年くらい。ほぼ光の速度で進むこの宇宙船にかかれば、1日くらいで付く距離。
「俺はなろうでもチェックしようかな」
アイツがそう言うので、僕は大人気3D動画サイトを開いて、チャンネル登録していたチャンネルをチェックする。コールトスリープ前に登録していたチャンネルの殆どは、既に休止している。
「あ゛あ、やっぱりスピカちゃん活動休止してるよ!」
僕は大声を上げて、布団に丸まって浮かびながら端末を弄ってるアイツに知らせる。
「マジで!?」
アイツは俺の端末を見ようと近くまで寄ってくる。
「マジだよ。…………良かった、タダのコールドスリープらしい。」
コールドスリープ中に死んでしまっていたら悲しいなんてもんじゃない。
「どれどれ……?うんうん、740年前くらいにコールドスリープして、500年寝てから復帰予定、かぁ……」
私事で、星間飛行の必要が出たらしい。
「一応予約投稿で、100年に1回くらいライブする予定だって。」
スピカちゃんの歌が上手いだけじゃなくて、ライブが凄い楽しいのだ。1000年前ぐらいに、あの一体感に俺もアイツも夢中だった。
「うーん……40年後に予約ライブかぁ。」
「参加できるならしたいな。」
その後も僕達は、やれあの作者が休止してるだの、アイツは活動してるだの、1000年分の変化を受け止める。
何だかんだ、コールドスリープ明けはコレが一番楽しい。数百年分の、数兆人の人々の見知らぬ活動が、情報が、作品が宇宙中に溢れている。
宇宙の最小単位である宇宙船に、社会の最小単位である僕と彼女の2人で、語り合いながら星に着くのを待つ。こんなにも素晴らしい“朝”が、この宇宙から星が全てなくなるまで続いてくれたら良いのに。
「星に着いたら何する?」
彼女の瞳にこの星系の太陽が映って、キラキラ輝いている。彼女の瞳はいつ見ても、星の灯のように輝いている。
「君より綺麗なものを探したいな。」
彼女より綺麗なものなんてそうそうないけれど、あったら嬉しい……
「私より綺麗なもの?私で満足してなよ。」
彼女はそう軽口を叩いて、僕を宇宙布団に引っ張りこんだ。到着まで少し時間がある。僕達は軽くキスをして、照明を落とした。
素人が下書き無しで描いた絵画のような小説です。ただ、こんな未来がいつか実現して欲しい