PART.4 朝食とドス黒オーラの突撃記者 :後編
「なんでこうなったんだよ…。」
「いや、私にもわかんないよ…。」
「ついでにこれ生放送です。」
「「え゛!?」」
どうやら僕らはすでに詰んでいるらしい。あれ?どうしてこうなった?
「冴島さん。」
「何?影山君。」
「なんか知らないんだけど、記者さんの後ろからめっちゃドス黒いオーラが見えるんだけど、また聞くんだけど目の錯覚ですか?」
「いいえ、私にもそう見える。ちょっとこれは想定外なんですけど。」
「さてさて、早速ですが今日はカメラが入っている状態でいつも通りの生活をしていただきます。」
「え?ちょ、マジですか?」
「マジです。それに、たまに私が一人ずつに質問していきますのでそれについて答えてください。あ、流石に貞操観念とかそういうのには他の記者みたいにツッコみませんので、そこは安心してください。」
「「安心できませんよ!」」
「では、いつも通りの生活をお願いします!」
そう言って、すぐ近くの椅子に座り込んだ。
そしてそのままぐったりとしている。
「え?どうしたんですか?」
「じ、実は今朝から何も食べて居なくて…。しかも始めの司会は大きな声で話さないといけないというルールがありまして…。」
「そうなんですか…。じゃあ、何か軽食を作りますね。あ、記者さんも昼食はいかがですか?昨日夜ハンバーグだったんですよ。それで、昼までに消化したいんですけどなかなかに量があって。二人では食べきれないかもしれないのでご一緒にどうですか?」
「!…良いんですか?」
「はい。…その、僕はあくまでもここに居候させてもらっているだけですので芸能界とかそういうモノの規則などは分かりません。記者さんの会社のルールに従って、僕は一応あなたにも料理を振舞おうと思います。一応、昨日買った食材は僕のお金で買ったものなので。まあ、冴島さんさえ良ければ。」
そう言って冴島さんをチラリと見る。
「あー、まあ、あなたは他の記者と比べて常識人みたいですし、昼食は一緒にどうですか?」
「ぜひ!是非ともお願いしたいです!」
「あ、礼とか入りませんよ。取り敢えず冴島さんにはあまりご迷惑にならないようにしてください。まあ、居候な僕が言えた試しじゃないですがね。あ、アレルギーはありませんか?」
「ありませんよ。」
「了解です。」
では、軽食を作ってきます。
そう言って僕はこの場を後にした。
軽食とはいえ、現在は午前十時。昼は午後一時程度にしようと決めているから、あまり多めにしてはいけない。かと言って、少ないとすぐにお腹が空いてしまう。
あ、
「冴島さん、冷蔵庫に買ってからあまり時間がたってない食パンがありましたよね?」
「あ、使っていいわよ!冷蔵庫のモノは基本好きに使っていいわ!」
「了解です!」
そうだ、サンドウィッチならいいんじゃないかな?食パンの内側を使って、外側はあとでラスクにでもしようかな?これも軽食になるし。パンの耳を入れるタッパーも用意しないと。
「えっと、パン切り包丁がないから普通の包丁で…っと。後はチーズがあったね。それと冷蔵庫にあったトマト、レタスがあったらよかったけどキャベツしかないな。まあ、キャベツの方が少し歯ごたえが楽しめそうだね。」
基本的に、僕はレタスとキャベツの区別がイマイチついていない。でも、食べた感じちょっとキャベツの方がシャキシャキ感が強い気がするため、意外とキャベツをサンドウィッチに使用していることもある。ちなみにキャベツは保存がしっかりとで来ていたためシャキシャキ感はあまり損なわれていないっぽい。
トマトをスライスしていくが、この包丁の切れ味の凄まじさがよくわかる。身が潰れずに切れるから本当に切れ味の良い、業物の包丁なんだなと思った。昨日はハンバーグを作る時、包丁は使っていなかったからね。
冷蔵庫をぼぅっと見ていると生ハムがあるのを確認した。これは使える。
サンドウィッチのパンにチーズをのせて、ちょっとだけ電子レンジで温める。チーズが溶けてきたら他の具ものせて完成。あ、温めるときは耐熱のお皿を使おう。まあ、軽食だしそんなレシピとか入らないと思うけど、耐熱容器じゃないと割れちゃうモノもあるだろうから要注意!
トマトは冷たい方がおいしいけど、チーズと合わせていたら別にそういうのはあまり関係ない。
チーズの味とトマトの酸味はベストマッチ。正直とても美味しいと思う。ちなみにこれは二つ作ってある。冴島さんの分だ。軽食を取ることもあるらしいからこの機会に一緒に作ってしまおうと考えての行動だ。
「記者さん、冴島さん、サンドウィッチが出来ましたよ。」
「おお、これは美味しそう!」
「私の分もあるの?」
「チーズを少し溶かしています。ちょっと熱いので気を付けてください。」
「分かりました。」
「いただきます。」
二人が「美味しい」と言っているところで僕はカメラから逃げるように部屋の隅に行って手帳を書き始めた。これは昨日、冴島さんと肉を買いに行った帰りに偶然見つけた手帳で、冴島さんが買ってくれたのだ。ここに、その日の予定と作った料理を書き込んでいる。
この手帳は最後、ここに置いて行く予定だ。名残惜しくはなるだろうが、僕だってずっとここにいることはできない。その内用済みになるだろう。そうなれば、僕はこの家から出なければいけない。そうなったらどうだ。料理があまり出来ない彼女は何を作ればいいか困るのではないか。
だから僕は、ここで料理を作り方と一緒に書き込んで僕がいつ居なくなっても大丈夫なようにしているんだ。正直、この場所に僕がいるというのを母さんが見ている可能性がある。困った話だ。だから顔出しは本来NGにして欲しかったが、急に入ってきてバッチリ、しかも生放送で撮られてしまった。母さんに最悪殺される。それを避けるためにはどこかに隠れる必要がある。しかし、やはり逃げ切れる自信がない。
不安そうな顔になっていたらしく、記者さんが僕にカメラを向けずに話しかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「あ、サンドウィッチは食べ終わりましたか?」
「はい。とても美味しかったです。ご馳走様でした。」
「お粗末様でした。えっと、カメラは持っていなくて大丈夫なんですか?」
「ええ。流石にそんな悲しそうな顔をしている人にカメラは向けられませんから。普通なら編集でごまかせても、これは生放送。そんなごまかしは効きません。」
「冴島さんからは、何か聞きましたか?」
やはり、僕について冴島さんが何か話したようだ。記者さんは首を縦に振った。
「ええ。そして、今私がとても愚かな間違いを犯したことも。」
「いえ。あれはお互い様です。やっぱり、僕の母さんについてのこと、聞きましたね?」
「はい…。まさか、冴島さんがあなたを匿っていた理由に、そんなものがあったなんて知りませんでした。」
「本当は親権がどうとかやってほしいくらいですが、あちらは手放そうとはしないでしょうし、いくらなんでも取り上げるのは厳しいでしょうし。そもそも、僕を受け取る地雷好きはいないと思います。」
「ですよね…。」
「あ、カメラは僕に向けてください。これから一回。僕は理由を話さないといけないと思うんです。冴島さんにも、出来れば協力願えればいいのですが…。」
「話は聞いていたわ。まあ、これは言わないとマズいわよね…。私の人生にも関わりそうだし。」
「…お二人の覚悟は分かりました。では、これからカメラを向けます。そこで思いのまま言っちゃってください。」
記者さんは僕らにカメラを向ける。
「あー、今この放送を見てくださる皆様にお願いがあります。これから僕が言う言葉はすべて事実です。一切脚色せずに冴島さんもその時の状況を話して下さいます。そして、僕が言うことと冴島友里さんが言うことが事実であるというのなら、拡散してください。………………まずは、皆さんが一番気になっていると思われる、僕が何故、冴島友里さんの家に居候させていただいているかということに関してですが、僕は今、実の母に命を狙われております。………………母は再婚相手との間に僕が邪魔であった為、幼い頃から掛かっていた保険金目当てに僕が前まで住んでいた家に放火し、僕を殺そうとしました。偶然、僕は外出していましたが、家に居ればその時点で焼死していました。さらにこれは、母の元結婚相手だった亡き父の指輪です。形見としてずっと持っていたのですが、一昨日、目の前で無残に踏み壊されてしまいました。」
そこまで言ってから、僕は一旦息をつく。少し早口で話してしまった。もう少しゆっくり話さなければ。
「これについては僕の自業自得なのですが、形見の指輪は火事に合ってから家に飛び込んで取りに行ったものだったんです。自分で貯めたお小遣いと父親の形見の指輪。それだけを取り家から逃げました。しかし、その時火事で燃えないようにコートなどを水に濡らしていました。その所為で僕は凍死しそうになり、一度は風よけのために消火し終えた家に隠れました。そこで母に会い、僕を殺す予定だったことを聞きました。目の前で指輪を踏み壊されました。僕はその破片をポケットにねじ込んで母から逃げるためにまずは遠く離れた学校へと向かおうとしていました。ですが、夜風が想像以上に冷たく、僕は学校に着いたものの凍死寸前………………冴島さんが助けてくれなければ間違いなく凍死していました。その説明を冴島さんにしたところ、彼女から僕を匿ってくれるという旨の言葉を頂きました。そして、匿ってもらう代わりに料理などを引き受けることにしたのです。………………これが、今僕が言えることのほぼ全てです。後は質問があれば捕捉します。」
「ありがとうございます。では、冴島さん。お願いします。」
「はい。私はその日、偶然真夜中に散歩をしていました。その時、少々焦げた臭いがして、そのありかを探していました。すると、そこには学校の敷地に入ったばかりのところで気を失っている同年代くらいの男の子が居ました。肩を揺すっても起きないので脈を測ってみたら止まっていたんです。偶然近くにAEDがあったので急いで学校の用務員さんにAEDの使用許可を得て、処置を施しました。幸い、彼は息を吹き返すことに成功しましたが、学校で泊めることは不可能と言われ、私の家で寝かせていました。凍死寸前だったと彼は言っておりましたが、すでに一度は心肺停止状態、凍死に近い状況になっていました。彼が今生きているのも運が良かっただけです。」
そうだったのか。ってことは人生二回目?一回目の死亡が凍死だなんて笑えないよ…。
何とも言えない気分になっていると、冴島さんが話を続けた。
「確かに、ずぶ濡れのコートに厚着の人なんておかしいとは思っていましたから躊躇なく対応できたのでしょう。彼が目を覚ましたのはその翌日。あとは、彼が言った通り、自身が命を狙われている人間だということを伝えられました、唯一の家族の母親に裏切られて当時はいつ死んでもおかしくないほどゲッソリしていました。そこで私は彼を匿うという選択を取りました。その時でも、彼は私の女優業の心配をしてくれました。でも、私はスキャンダルになろうが目の前にいる人を助けたいと思ったんです。………………その後のことです。彼のことを心配している、ここから三駅ほど離れている精肉店の店主に会いに行くために私も同行し、その店に行きました。決してデートではありません。そこで彼についての話をよく聞くことが出来ました。」
え、店主僕の話をめっちゃしてたの?
「彼はお母さん子だったらしく、そう簡単には母親が悲しむようなことはしないようです。しかし、私が話したころには『再婚相手とよろしくしていたらいいよ』とか店主さんが『愛想尽かして旅に出た』という冗談染みた言葉を素直に肯定していました。これは店主さんの小言ですが、彼はいじめを受けているということを店主に相談して母親には全く相談していなかったそうです。母親に心配をかけさせないようにわざと別の人に相談しに行ったそうです。」
いやちょっと待って、なんでそんなことも軽々話してるの?それ周りには黙ってほしいって言ったのに…。はぁ…。
「だから私が彼を母親から守ると決めました。まあ、始め、彼が叫んだ言葉は母親に居場所がバレることを警戒して叫んだのでしょう。生放送の始め辺り、彼が私と叫んでいましたが、そういう意味であってますよね?」
「ええ。そうです。後、店主と冴島さんが話しているのは分かっていましたが、流石にいじめ関連についてまで話されているとは思いもよらず…。というより、お母さん子って何気にはじめて言われましたよ。事実そうだと思いますが。とにかく、これ以上話されるとこれ以上の僕の黒歴史が晒されそうになるのでここから僕が話します。いえ、別に僕の黒歴史は店主はこれくらいしか知らないはずですがそれはひとまず置いておきます。まず、これからはもう個人情報とかそう言うのも無視して全部言います。僕の本名は影山健也。母の名前は影山和美。僕が住んでいた地域周辺では有名な企業の支部を押さえる部長です。父親は僕が三歳のころに交通事故により他界。以後十六歳まで母に女手一つで育てられてきました。僕は近所の人やその他の人とも交流を深めていたので母親が齎すもの以外にもたくさんの情報を得ていました。その交流を深めていったもののうち一人が精肉店の店主です。彼からはケン坊と呼ばれていました。彼は僕にたくさんのことを教えてくれ、たくさん相談に乗ってくれました。まあ、まさか親に殺されかけたなんて言う相談をするとは思いもよりませんでしたが。」
「母親に言われた言葉はできるだけ詳しく言えますか。」
「まず、再会した瞬間に言われた言葉が『なんで死んでなかった』、指輪を壊した時の言葉が『こんなゴミ取って、良く生きてたね!』でした。父親の形見を壊された挙句、ゴミ呼ばわりされました。でも、僕にはある程度情があったらしく、直々に手を下すことはできなかったから火で家ごと燃やそうとしたそうです。腐るほど下らない話ですね。『証拠が残るから焼き殺した方が都合がいい』ということを話していたので、僕を殺すことは確定していたんでしょう。まあ、母をタックルで突き飛ばして逃げたんですが。」
「分かりました。冴島さんは、彼の言葉をどこまで正しいと思いますか?」
「すべて正しいことだと思います。彼は凍死していた時にはすでにスマートフォンが壊れていました。連絡の仕様がないので。」
「分かりました。では最後に、お二人はお互いをどれほど信じていますか?」
記者さんは暴走してしまったようだ。まあ、貞操について聞かれないだけマシか。
「そうですね。少なくとも僕は、裏切られたらすぐに自殺できるくらいにはすでに彼女に依存しています。こっぴどく裏切られたらその場で死ねますよ。」
「私は、彼がいてから生活がとても楽しくなったんです。今まで無機質な部屋で過ごしているだけでしたが、彼を拾ってからまだ二日目ですけどすでに楽しいんです。少なくとも、しばらく離れたくないくらいには。楽しい嘘ならまだしも、悲しい嘘なんて付けません。」
「分かりました。お二方、今日はありがとうございました。ではスタジオの皆さん、皆でツッコミを入れましょう!せーのっ!」
「『リア充爆発しろォォォォ!!』」
その声を聞いて、僕らは顔を見合わせた。
「「別に付き合ってないんですけど…。」」
「息ピッタリじゃないですか!」
「「いやあなたがそうさせているんですよ。」」
「やっぱり息ピッタリ…。」
「「あ…。」」
「ああ~!とりあえずこんな暗い話はもう止めです!昼ごはんにしましょう!意外と時間が経ってなかったし、ちょうど二時で昼食時にはちょうどいいと思います!」
「そうですね。お腹が空いてきました。」
「記者さんもどうぞ。冴島さんも早くしてください。これから電子レンジでハンバーグを温めますから。」
「…影山君のバカ。」
「…?」
ちなみにその言葉をモロに聞いた視聴者は、
『冴島のデレ…。ぐはぁ…。』
『影山、羨ま頃す』
『そういえば、居候と言いながら自分で料理作ってやがる…。』
というコメントを残し、健也は意外にもルックスや性格に恵まれていたようで、
『冴島さん、健也様と付き合えるの?羨ましい…。』
『無自覚系イケメン専業主夫と大人気女優…栄える!』
『クッキング男子…。なぜこんなポイント高い男子が…。』
と、知らず知らずのうちに大量の女性ファンを作っていたのは別の話。
しかもこのまま健也はハイスペックぶりを無自覚に発揮してしまい余計ファンが増えるといった事態になるものもう少し先のお話。
ドス黒オーラは初期だけでしたね。ちなみにこの記者、裏設定は後にまとめて書く予定ですが胡散臭い人間に対しては常時ドス黒オーラをまとって会話をするという記者で、健也のサンドウィッチの味と彼の心配りが気に入ってオーラを引っ込めたという裏があります。とは言え、『リア充爆発しろォォォォ!』のように視聴者へのコールも忘れない為、なかなかのやり手です。
ちなみにこの記者、健也の警戒心をあまり煽らないということが判明し、たびたび登場することになります。
名前は現時点では未定です。
ノリで書きますが、そこまで変な名前にならないように作る予定です。