PART.7 あなたに捧げる
目を覚ますと、そこはソファーの上だった。薄い毛布が掛けられていて、昨夜の軽食の皿が乾燥機の中に入っている。
あくびを一つ。俺はそのまま起床することにした。皿を食器棚に片し、朝食の準備に取り掛かろうとした。
すると、記者さんが台所までやってきた。相変わらずのスーツ姿で、少々ボサついている長髪が意外さを生んでいる。
「おはようございます。」
「あ、おはようございます。」
「昨日はよく眠れましたか?」
「はい。初めて寝る場所だったので少々寝つきが悪かったのですが、起きてからはそれは素晴らしいほど気持ちよく寝れました。」
「それは良かったです。俺…僕はちょっと疲れています。」
「あ、一人称はそのままでいいですよ。」
「…了解です。それと、これから朝食の準備をするところですが、何を食べますか?」
「あ…私はお任せします。その代わり、個人用のカメラで撮影しても良いでしょうか?」
「えぇ…。あまりうまく作れないかもしれないのに、良いんですか?」
「ええ!私はこれでも結構有名な料理店のオーナーの娘ですから。料理にはそこそこ自身があるんです!」
そうだったのか…。俺はそこまで気にしていなかったが、定食屋を如何こうって言っていたのは料理に対する情熱があったからなのか…。彼女はそこまで冗談で言っているわけじゃなかったんだな…。
とはいえ、料理を作っているところを撮影するより、一緒に作った方が良くないか?修正点とかも言えそうだし。
「あ、なら、三脚が確かあちらにあったはずなのでそれを取ってきます。それと…どうせなら一緒に作りませんか?」
「え?良いんですか?」
「ええ。撮影した映像を見てもいいですが、やっぱりその場で見ていた方がいいと思うので。」
「ぜひお願いします!」
記者さんは一気に近づいてきて、俺に接触しそうな距離まで近づき、その後すぐに離れた。
「す、すみません…!」
「い、いえ、別に大丈夫です。それより、早く準備をしましょう。」
朝食は昨日の夜に漬けておいた刺身(一部は火を通して味を確認)といつも通りの味噌汁(大根と昆布だし、人参、ワカメ)、後はお米を炊こう。一応冷や飯があるけど、これは昼食にチャーハンとか作る時に回そうかな?
「取り敢えずメニューは昨晩漬けた刺身、大根と人参とワカメの味噌汁、白飯です。本当はこれにプラスしてぬか漬けとかにしたいんですが、ぬか床を持ってないので今日は食べれないですね。その内小遣いで買う予定です。」
「えっと、ぬか床が無いんですか?」
「ええ。あっちにいたころは毎日欠かさずぬか漬けを食べてました。キュウリとか大根とか人参とか…。結構美味しいので。」
「あ、なら今度ぬか床を持ってきます。美味しいぬか漬け作っておいてください。」
「ええ…。それはなんか申し訳ないですよ。」
「いえ、実は先月ぬか床が遠くの知人から届いて、でも家で既にぬか床を使っているので一つ余分なんです。」
「そう言うことでしたらありがたくいただきます。…さて、取りあえず人参とか切っていきましょう。」
「そうですね。よろしくお願いします。」
こうして料理を始めた。
記者さんは料理が趣味というだけあって相当な腕を持っているようだ。包丁捌きも非常に速い。しかも、何故か分からないが大きさがほぼほぼ均一になっている。どうやったらできるんだろう…。ちょっと俺には出来なさそうだぞマジで。
俺は近くで刺身の漬けを出して少し切り出し、フライパンで焼いている。漬けがいくら安全だと言っても、正直火が通っていないと少し不安なのだ。
漬けに火を通し終え、口に入れてみる。
(うーん、ちょっと生臭いな。そのまんま食べた方が美味しいか…。)
少々生臭い感じがした。とはいえ、自分が食べるなら別に問題はない程度だ。でも、冴島さんが食べるならもう少しだけ妥協しないで作りたい。火を通すのはボツにした。
味噌汁は白味噌で…。漬物とかそっちに使うイメージだが、やっぱりこれも美味しい。赤味噌の味噌汁とか食べたいけど、それはその内…。
既に昆布から出汁は取ってある。うまく取れたと思うから今日のは期待できそうだ。
記者さんが切った野菜をそれぞれ鍋に入れ、煮ていく。その間に米を少量炊けるようにしておいたからこれで良いはず。
ふっふっふ~!ここの炊飯器は結構早く炊けるんだよ…!しかも結構美味しいから本当に楽だよ。家では鍋で炊いてたから。鍋で炊くご飯も美味しいからその内やってみよう。
味噌汁も結構良い感じにできた。というか、俺ちょっとだけ大根切ったのと少しだけ味の調整をしたくらいなんだが…。カメラの容量勿体なくないか?
「えっと、カメラ…撮影してたはずなのになんかすいません。あまり調理に参加で来てなかったので。」
「いえ。塩とかを加えるとき、本当に少しだけ調整してましたよね。あれ相当やってないとできないような調整ですよ?小さじ一とか容器から匙を使って一回でピッタリ出すとか、あまり出来ませんよ?」
「あー、時間が足りなさ過ぎて適当にやってみたんですよ。そうしたら一発でできて、そのまんま続けていたら今に至るといったところです。でも、小さじ一杯しかできないので他は全部測ってます。」
「そ、そうなんですか…。」
落胆なのか呆れなのか分からないような声を出しながら、記者さんは首をひねる。そして、味噌汁の味見をする。
「美味しいですね。昨日のハンバーグほどの衝撃はないですが、これはこれで美味しいです。」
「それは良かった。取りあえず、冴島さんを起こしましょうか。」
「私が起こしてきます。」
「お願いします。」
…その後、いつも通り「美味しい!」と料理を称賛してくれる冴島さんの笑顔を見て、俺はバレないように頬を和らげるのだった。




