憧れです。
「っ、、、!クスッ、後悔しますわよ、私を敵に回すと。」
「姉の悪口を言うようなやつに何されたって問題ないけど。しかも、俺は侯爵家の長男だ。爵位が劣っていようと僕はあんたのこと、全く怖くないよ。できることなんて、せいぜい陰口言ったり親に言って僕の家に嫌がらせしたりするくらいでしょ。っていうか、どっちも自分1人じゃできないけど。協力するななんて言わないけど、所詮1人じゃ何もできないってこと、忘れない方が良いよ。」
ダリアはクロを最後まで笑みを残しつつ、無言でこの場を去っていった。
「、、、クロ、ありがとう。」
「リリー。」
「な、、何?」
妹にあんなこと言われる姉だって知って、幻滅したのかな。
何も言い返せない私に腹が立ったのかな。
「なんで今まで、僕に何も言わなかったの。」
「、、、え?」
「本当は、もっと前から言われてたんじゃないの。僕とリリーが最近知り合ったとしても、数日前のことじゃない。リリーは僕のこと、頼りないやつだって思ってるの?」
「そ、、そんなことないよ。ただ、ダリア対抗しても意味はないかなって思って。ダリアは完璧な淑女だよ。所作とか、言葉遣いとか。ダリアに憧れている人はたくさんいるし、私もあんな風になんでもこなせるようになりたいって思う部分はあるの。」
「、、、リリーはそのままでいい。リリーはこのままで充分。あんな性格悪いやつの真似なんてしない方がいい。」
「ふふっ、クロは優しいのね。大丈夫、全てに憧れているわけじゃないわ。でもね。クロは今の私で充分って言ってくれるけど、全然充分じゃないの。私はイトラン様の、、ネイドレス皇国皇太子の婚約者なのに、人並み、、いいえ、人並み以下のダンスしか踊れないし、社交性もなくて、未来の皇妃としても能力がまるで足りていない。それに対してダリアはなんでも人並み以上にできて、ダンスもとても綺麗だわ。ダリアが私に色々と悪い言葉を言うことに関して良いとは言えないけれど、その原因は他でもない私なのよ。」
仕方のない事実。
将来、上手くいって貴族階級を剥奪されるか、失敗して断罪されるかするから、結局皇妃にはならないけれど。
でも、今の私はまだイトラン様の婚約者。
皇妃を望んでいないとしても、、これ以上リリーへの敵対心を強くしたくない。
クロが私のことを良く思ってくれているのが伝わってくる。
シオン様、モクレン様、クロの誰が本当の隠しキャラだなんて分からない。
でも、やっぱり、本当に。
リリーが、この3人とちゃんと出会えていたら。
ちゃんと向き合えていたら。
少しくらい、肩の重荷が軽くなったはずなのに。




