一話
「ッハァ、ハッ、ハッ、ハアッ……」
_______嫌だ、嫌だ、嫌だ!!
なんで俺がこんな目に会わなくちゃならない?俺はただ、仕事をしただけだろ?いつもしている、なんてことない仕事だろ?
そりゃ、人前で胸張ってやるもんじゃねえ。憲兵にも捕まるだろうよ。
でも、でも!!
だからって、なんで俺が、下っ端の俺が、運び屋の俺が付け狙われてんだよ!!違うだろ!もっともっと、上がいるだろうが!そいつ等狙えよ!
「ぁぁ、ぁ……」
なんで俺が、お終いだ。もう、ここは奴らのテリトリーだ。この狭い路地裏で、奴らから逃げるなんて、出来ない。
_____ふと、胸元に静かな衝撃が走った。目を見やると、左胸に、ナイフの刃先、と血、が
「所詮、君は捨て駒だっただけだよ」
死ぬ瞬間聞こえたのは、絶望を告げる、若い、中性的な声だった。
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名前も知らない男を殺し、訳もなく手を合わせてからせっせと後片付けを進める。
手足、内臓、胴体、衣服、その他諸々を小分けにして袋に入れ、ゴミ箱にほおり込んでから血が舞っていないか確認し、早々と路地を出る。一瞬振り返ると、人が死んだとは思えない程元通りになった路地裏があった。
路地を抜けると、大通りに出た。騒がしいそこをくぐり抜け、3つ目の交差点を右折して、真っ直ぐ進む。次の交差点を左折し、先程いたような薄暗い路地の5つ目の扉を3回叩く。
「入りなー」
許可が降りた為、扉の内側に入る。中は外よりは幾分か明るく、酒臭くて、少し前までは人が多くいた痕跡を残していた。その為か一日中暗闇にいたボクにとってはどこか眩しかった。
「お帰りー。依頼達成したんなら番地書いてゆっくりして。あとはやっとくから」
「分かった」
中には一人の女性と、ボクしかいなかった。
外側から聞こえたのより大きい声の女性は、カウンターの上に足を乗せながら葉巻を口から離して言う。大通りにいた殆どの人はこの素行の悪い女性が受け付けの仕事をしていると思わないだろう。
彼女はライザ。ここ_____ギルドの受け付けをしている。ダークブルーの髪と目をした低身長の見た目は悪くはないが、粗暴な態度と言動のせいで貰い手がつかない。らしい。
それでも優しいところ、ボク的には好印象はもてるが。
記入を終え、人気のないギルドを後にしようとすると後ろから声をかけられた。
「そういや、アンタいっつも血とかついてないけど、どうなってんのよ」
「………暗殺者だから」
返事を待たずに今度こそギルドを後にして家に帰る。空腹は感じないが、念の為屋台で何か買って帰ろう。
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誰もいない家の中は今日の中で一番暗く、殆ど何も見えなかった。
照明をつけ、先程まで着ていたローブを脱ぎ、太腿、二の腕、脇腹に仕込んでいたナイフ達を取り出す。
次に身体が軋んでいないか確認する。最近は仕事尽くしという訳ではないからあまり心配はないが、もしもの事には用心しなきゃならない。少し脚に疲労が溜まってきたこと以外はいつも通りだった。疲労も少し休息を挟めば取れるだろう。
夕飯は既に取っていたし、もう寝ても良いかも知れない。
布団を敷き、照明を消してから、枕元にバタフライナイフを置いてボクは床に就いた。