V-ii. Sandra
サンドラは「はい、私の番ね」と言ってエディから引き継ぐと、落ち着いた声ではきはきと話し始める。
「名前はサンドラ・ディスベル。キーワードは【飛竜遣い】と【雷霆】。確かに私は雷の飛竜遣いだし、元いた国でも雷霆部隊にいたから、特に引っかかるところはないわね。みなさん何かあるかしら」
聞くとエディがすかさず言う。
「飛竜ってあれだろ。あんたが飛竜に乗って城の外を飛ぶところ、おれ見たぞ」
それを聞いてサンドラが言う。
「それなら話は早いわね。その飛竜を使って戦うのが、私のお仕事」
ロランが言う。
「大層な武器だな。一体何と戦ってたんだ?」
サンドラが答える。
「それは次の項目で話した方がいいわね。どこから来てそこはどんな場所で何者だったか。いいかしら」
異論はない。サンドラは話し始める。
「私の生まれはリノリア王国。竜と暮らす民の国よ。単一民族で、統治するのは女王マリア・ゴーテスタ・リノリア陛下。外敵との争いが絶えない国で、軍備には力を注いでいたわ。王国軍には竜遣いの部隊がいくつもあって、その精鋭の一つが雷霆部隊。雷の飛竜に結ばれて雷霆部隊に所属するものは、王室から特別な武器を身体に授けられるわ。格納式の光の矢。どんな形にするかは自由だけれど、槍や弓矢にする者が多かったわ。それもまた雷霆と呼ばれる」
一度言葉を切って進める。
「私たちが何と戦っていたのか。それは例の問題にも関わりがあると思う。リノリアは山がちな土地の間にある霧の深い国で、山には昔から魔獣が多く生息している。魔獣は凶暴なうえ巨大で手強いもので、竜族の力があっても、苦戦して犠牲が出ることもあった。私たちが戦う相手は、まずそんな魔獣が一つ」
みんなは話に引き込まれている。サンドラは淡々と話し、さらに続ける。
「次に遠方の侵略国家の存在。近隣の諸国はリノリアの軍事力を恐れ、争いはとうになくなっていた。でも西の大国には目をつけられ、密偵による工作活動が深刻化していたわ。主に情報部と街なかの治安部隊が対応に苦慮していたけれど、本格的な交戦になる日が近いのではないかと言われていた。さて、ここからが例の問題に関係する話ね」
そう言ってサンドラは続ける。
「三つ目は、【影】。【瘴気】によって複製された自動人形みたいなあれね。霧に紛れた【瘴気】の影響で、これまでも【影】と交戦になることはあったわ。それが昔よりかなり多くなったとも。でもそれがある日、統制の取れた形で大量に侵攻してきたの。前触れなんて何もなかったわ。【影】は魔獣を使い、私たちの王都へ攻めてきた。王都は要塞化されていたし、私たちも伊達に長くこの土地で暮らしてきたわけでもないから、蓄えもあるし、長い間全力で抗戦したけれど」
サンドラはそこで言葉を区切ると、もう絶えられないといった様子で首を横に振り、うなだれる。切りそろえた銀色の髪がさらさらと動いた。ロランが言いかけの後を継ぐ。
「だめだったってわけか」
サンドラは俯いたまま何も言わない。しばらくして一息ついてまた小さく首を振ると、顔を上げて元通りきちんと背筋を正す。
「ごめんなさい、少し取り乱したわ」
謝ってまた話を続ける。
「防戦の途中で女王陛下はなぜか自害され、御息女のリアナ様がマリア・ゴーテスタ・リノリアの名を継いで即位された。その知らせを聞いて、私たちは交戦の合間に黙祷した。そうしたら喧騒が急に遠ざかって、私一人見たことのない廊下にいた。廊下の先には扉があって、すぐに戻らなければと扉を開けたら、扉の先は廃墟だった。滅茶苦茶になったリノリアの要塞。今通ってきた扉はなくなっていた。あれほど騒がしかったのに鎮まりかえって、火も燃えていない。壁は壊されて霧が濃く広がって、要塞の中にも外にもあちらこちらに死体が転がっていた。生存者は見つけられなかった。みんな死んでからからかなり時間が経っているみたいで、崩れかけてひどい臭いがした。陛下はと居住区へ行っても、同じ状況だった。市街地の様子を見に行ったけれど、霧が濃くてあたりがまったく見えなくて。そのまま霧に巻かれて、気がついたら、またあの廊下にいた。扉を開けても別の部屋があるだけで、もう王都へは戻れなかったわ。私はリノリアの兵士で、雷霆部隊の飛竜遣いで、今も変わらないつもりでいる。でも、私は国を守れなかったし、最後まで戦うことさえできなかった」
以上よ、と言ってサンドラは遠くへ視線を置いたまま言う。
「みんな、何かあるかしら?」
重い話にみんなが沈黙し、特にミラベルが衝撃を受けているなか、ハルトラードが間を置いて言う。
「それは時間を移動したような話だな。篭城戦が行われていた時点よりも、少し後の時点の状況を先に垣間見たのではないか」
ロランも少し考えて言う。
「だとすれば廃墟になったのはかなり後かもしれないな」
ミラベルが身を乗り出して言う。
「なら、その廃墟になる前の時点、サンドラが最初にいた時点に戻れれば、巻き返しできるかもしれないってこと?」
それを聞いてサンドラが頷く。
「そう。私はそれを期待しているの。あのね、【影】が大発生する前から『もうすぐ使者が来る』っていう話があったの。『使徒団』とも言っていた。艱難のころに訪れる使者。貴族たちも噂していたわ。あれは、ルパニクルスからの使者のことを言っていたのだと思う。ここへ来て話を聞いてそう思ったの。私は使徒団の一員としてあのときのリノリアへ戻り、今度こそ祖国を救うのよ。それができるかもしれないのなら、残りの永遠を捧げても、悔いはないわ」
ロランが言う。
「たいへんな話だなあ」
自分も巻き込まれることになると知っての感想である。他のみんなは言葉もない。みんなの様子を見て、サンドラは次の項目へ移る。
「次は得意分野だったかしら。私の得意分野は、対地対空の両方にかかる野外戦闘ね。メインは野外での空中戦だけれど、白兵戦や屋内での近接戦闘にも対応できる訓練は受けているわ。雷霆の型はグレイヴ。あとは、そうね……嵐がいつ来ていつおさまるかはだいたい分かるけれど。そのくらいだわ」
ロランが聞く。
「その雷霆っていうのはどんなものなんだ。『格納式の光の矢』なんて言ってたか」
サンドラが答える。
「そう。起動するための文言があって、ってお見せした方が早そうね」
サンドラはすっと立ち上がり、ソファーの後ろの広い空間へ立つ。右腕を軽く前に出し、口の中で何か呟くと、右手に金色の光を固めたような美しいグレイヴが現れる。身長を軽く越す大きな得物だ。すらりと長い柄の先には幅広の刃があり、全体が輝いている。
ロランがおおと感嘆しながらも言う。
「目立つ得物だな」
サンドラが答える。
「斥候には向かないわね。隠れたいときは他の武器を使うわ」
ミラベルが目を輝かせて聞く。
「起動の呪文は何?」
呪文と言われ、サンドラは少し戸惑ってから答える。
「呪文っていうものでもないのだけれど。起動の言葉はね、『我は祖国と共にあり。いかずちの力を貸し給え』よ。心から言えないとこれは出せないの。これを出せるうちは、私の資格は失われていない」
感心するミラベルにサンドラは少しに微笑んで見せ、今度は声に出して「完了」と呟いた。光のグレイヴはぱっと消えてしまう。サンドラは元の席につく。
「次はなぜ探索に参加するかだけれど、これはもう話してしまったわよね。私の順番はこれでおしまい」
そう言って締めてから、サンドラはシルキアを侍らせるハルトラードの方を見、冗談のつもりなのかこんなことを言う。
「次はそこの魔王様」