V-i. Edgar
エディの自己紹介が始まった。
「ええと、名前はエドガー・ロンバート。でも呼び方はエディでいい。キーワードは【ルー=ガルー】と【主人公】。あの、みんな、なんかあるか?」
ミラベルがいきなり言う。
「【ルー=ガルー】はともかく、主人公? なあにそれ。なんか心当たりあるの?」
エディは困った様子で答える。
「分からない。だいたいこの『キーワード』っていうのがよく分からない。エリク、このキーワードって何なんだ?」
エリクに聞くと、こんな答えが返ってくる。
「みなさん一人一人に貼られたラベルです。心当たりがなければ気にしなくて大丈夫です」
全然分からないのでミラベルも聞く。
「そのラベルって何に使うのかしら? どんなラベルが貼ってあるとどうなるの?」
エリクが答える。
「旅の仲間を選考する際に判断材料の一つとして使われたものですが、その他の使い道は特には想定されていません。自分にどんなラベルが貼られていたのか、分かったら少し面白いかなという余興です。今のように、自分のことを知ってもらう役にも立ちます」
エディが聞く。
「なんでおれに【主人公】っていうラベルを貼ったんだ?」
エリクは答える。
「あなたは主人公だからです」
エディはさらに聞く。
「何の主人公だよ」
エリクはこう答える。
「特定の何かは想定されていません。あなたの全てのデータを総合した結果、主人公という概念に合致する要素が見出されたため、こういったラベリングがされました」
エディはまだ聞く。
「どういう要素が主人公に合致したんだ」
エリクが変わらない調子で答える。
「いくつか列挙しましょうか。藪をつついて蛇を出す、予感と遭遇、悩み事を渡り歩く、失敗して成長する、などなどです」
エディは訳の分からないなりに怖くなり聞かなければよかったと思う。エディが黙るのを見て、エリクが言う。
「キーワードについてもうよろしければ、次の項目に移りましょう。あなたはどこから来ましたか?」
エディは気を取りなおして答える。
「どこから来たかは……どこから来たってどう答えればいいのか分からないんだが、おれがいたところはアルウェンって呼ばれてる場所だった。なんか、あえて人に説明するってほんとにどう言えばいいか分かんないんだけど、普通の村だったよ。おれは村の外れに一人で住んでたけどな。ほとんど森の中みたいなところで、滅多に人も来なくて。ルー=ガルーになってからはずっとその小屋で一人で住んでたんだと思うんだが、ルー=ガルーになったころのことは記憶が曖昧で、というか、ほぼ覚えていない。たぶんもっと小さいころにルー=ガルーになって、体の成長もゆっくりだから一人で生きられるようになるまで誰かと一緒にいたのかもしれないけど、今の一人暮らしになるまでのことは本当に覚えていない。なんかすごい血生臭くて、誰かの悲鳴とか叫び声が聞こえたり、誰かが泣いてるとか、そんな場面が夢に出たりするから、それがなんか関係あるのかもしれない。おれがルー=ガルーなのは村の人もみんな知ってて、みんな避けてたな。だから、何者だったかってなると、おれは鼻つまみ者だったと思う。みんなに怖がられて隠れて住んでるルー=ガルーだった。以上、みんななんかある?」
やはりミラベルが聞く。
「ルー=ガルーって満月になると狼になるんでしょ。狼になったときはどうするの」
エディが頭の後ろを掻きながら答える。
「おれは血が濃くないから見た目はそんなに変わらないんだ。だから狼そのものになるわけじゃないけど、森を走り回りたくなるし、月に遠吠えしたくなるし、血みどろの生肉も食べたくなるから、最近は眠ることにしてる。満月の夜は、夜になる前に、朝まで起きない強烈な薬を飲んで無理矢理さっさと寝る。だから人を襲ったりしない」
ミラベルが少し反省して言う。
「うん分かった。なんか変なこと聞いてごめんなさい」
エディが言う。
「誰か他になんかある?」
何も出なさそうなので次の項目に進もうとして、思い出せないのでエリクに聞く。
「次はなんだっけ」
エリクが答える。
「残りは得意分野と、なぜ探索に参加するかです」
得意分野と聞いてエディは悩む。悩んでから話し始める。
「得意分野っていうのも、あんまり意識したことないから難しいよな。おれは魔法みたいなやつはぜんぜんできない。嫌な予感がするとよく本当に悪いことが起こるけど、回避できてないから意味ないしな。あとはルー=ガルーだから夜目がきくとか、見た目より体力があるとか、反射神経とか、そんなもんしかないと思う。洗濯とか料理とか家事はやってたけど、【探索】で役に立つかどうかはよく分からない。これくらいしか言えないんだけど、みんななんかある?」
ロランが「ポテンシャルだけらしいからな」と、説明係の女の話を思い出しながら言う。エディはちょっと情けなくなりながらさっさと先へ進める。
「はい次。なぜ探索に参加するかか。あんまりちゃんとした理由はない。気がついたらここに来ていて、探索についてもここに来てから聞いた。参加する理由は成り行きだな。別に家に帰りたくもないし、一人で生活のことを考える暮らしも飽きた。だから成り行きだ。これだけだけど、みんななんかあるか?」
気軽な理由なので内心驚くものもあるが、一人目と言うことで特に質問も出ない。エディはみんなを見回して、特に何も出て来ないようなので、こう言って締めくくる。
「おれの番はおしまいだ。次は、こっちのお姉さん」
エディは左隣のサンドラに順番を渡す。




