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Le Château du Mirage  作者: Cecile.J
開幕
4/43

III. La Chevalière

 ロランとエディがロランの部屋の前に着くと、部屋の前には見知らぬ女が一人立っていた。ロランが「そういう接待は頼んでない」という冗談を小声でエディに言いながら近づいてゆくと、灰色の奇妙な服装の女は、彼らの姿を見て礼をして言う。

「セニエール様、ロンバート様。お待ち申し上げておりました。私は、ルパニクルスから派遣されて参りました説明係でございます。本来ならばご説明は一人ずつ行うのですが、セニエール様とロンバート様は本日ご一緒にいらっしゃるという情報がありましたので、お二人ご一緒に説明を聞いていただければと存じます。よろしいでしょうか」

 ロランは女を頭からつま先までじっくり眺めて言う。

「お出ましか。何も説明がないんで困ってたところだ。中で話すのか?」

 エディはロランのぶしつけな態度にはらはらしつつも、説明が聞けるのはたいへんありがたいと思う。女はロランの態度を気にする様子もなく慇懃に答える。

「ご説明にあたり場所はどこでも構わないのですが、ある程度長いお話になると思われますので、できればお部屋の中に上げていただけますと助かります」

 ロランが「分かった。入れ」と女に言うと、女は「ありがとうございます。それでは」と言って、勝手に扉を開けて部屋の中へ入る。ロランはエディも中に入れると、自分も入る前に廊下でぱんぱんと二回手を叩き、「おい、酒持って来い」と叫ぶ。すると、煙色の従僕がガラスの瓶とグラスを三つ銀の盆に乗せて現れ、ロランに手渡すとすっといなくなる。ガラスの瓶には琥珀色の液体が満たされている。ロランが盆を持って部屋の中に入ると、女とエディが机を挟んでソファーに腰かけロランを待っていた。ロランが盆を机に置くと、一人掛けの方に座っている女が言う。

「アルコールですか? 私は遠慮しておきます。仕事中ですので」

 ロランは素っ気なく返す。

「そうか。じゃあ俺の取り分が増えたな」

 ロランが瓶の中身を二つのグラスに注ぐ間に、女は言う。

「使用人にご用の際は、今のように廊下でお呼びつけにならなくても、ここにあるベルを鳴らしていただければ結構ですよ」

 そう言って机の上にあるベルを示す。ロランは「次からはそうしよう」と言い、二人掛けに座っているエディの前に一つグラスを置き、自分もその隣に腰かけてさっそく琥珀色の液体を傾け、言う。

「よし、ご説明とやらを聞かせていただこうじゃないか」

 エディはグラスを手に取って少し香りを嗅ぎ、以前味見したことのある泡の立つ果実酒とはずいぶん違う強い香りに驚いてから、少し口に含んでみる。これはすぐに酔っぱらいそうだ。そんなエディを横目で見ながら、ロランは女へ付け足して言う。

「こいつが潰れる前に話は済ませてくれ」

 女は答える。

「そうなった場合にはセニエール様にご説明の任を引き継ぎます」

 おう言うじゃねえかと返すロランに会釈して、女はようやく話を切り出す。

「それでは始めましょうか。あなた方をこのお城にお呼び立てしたのは、ある厄介な問題に対応するお手伝いをお願いするためです。セニエール様の母方のご先祖様には、あなたの故郷の国で【英雄】と呼ばれた方が一人いらっしゃいましたね?」

 問われてロランは何気なく答える。

「マラド・セニエールのことか?」

 エディはロランが母方の姓を名乗っていることに気づく。女は頷いて話を続ける。

「そうですその方です。それではセニエール様は、その偉大なご先祖様が晩年をどう過ごされたのか、どこかで聞いたことはおありですか?」

 ロランは首を横に振る。

「いいや知らないな。それは誰も知らないはずだ。マラドはどこかへ失踪した。海で死んだならその前が晩年だろうが、そう考えているやつはあまりいない」

 女はロランに問う。

「『誰の手にも届かないところへ行った』と言われているのではありませんか? それは亡くなったのとは違うことだとも」

 ロランは答える。

「ああそれが定説だな。ちょっとずつ見えてきたが、もしかしてこの場所がそうだとでも言うんじゃないだろうな」

 女は初めてにっこりと微笑んで頷く。

「ええ、そうなのです。マラド・セニエール様はずっと昔にここにいらして、今でもここにいらっしゃいます。私たちの時間とは少しずれたところにいらっしゃるので、あなたや私がお会いすることは、たくさんの偶然が重ならない限り難しいと思われますが。マラド・セニエール様もまた、ルパニクルスや他の諸世界が共通で抱えている大きな問題に対応するために助力され、そして今でもお力になってくださっています」

 にわかには信じがたいはずの話だが、ロランには不思議と納得できる気もする。なんとなくこの城には、血縁の香りがするところがある。はじめは陰気臭いので父方の方かと思ったが、いくらか探検するうちにそれは少し違うらしいと思えてきた。たった今誰か近しい人とすれ違った気がするような場所がいくつかあって、それは船乗りであったというマラドを不思議と連想させるような場所なのだ。ロランは尋ねる。

「その『大きな問題』ってのはいったいなんなんだ?」

 女は答える。

「それは【崩壊期】の問題です。ルパニクルスではコラプスとも呼ばれます。古い言葉で、『壊れる』とか『衰退する』などといった意味です。セニエール様やロンバート様が元いた世界も、ルパニクルスもその他の諸世界も、すべてを包括して一つの軸を持ち存在する総体の力が徐々に低下し、衰退に向かう時節にあるのです。ルパニクルスではそのように観測されています」

 女がそこでいったん言葉を切ったので、ずっと黙っていたエディがほろ酔いで頬を染めながら質問する。

「【崩壊期】になると何が起こるんだ?」

 女は真剣なまなざしで答える。

「【瘴気】が発生します。【瘴気】は霧や暗闇と相性がよく、そこにある生き物の影を複製します。【影】は意思を持ったかのように動き、生きたものを嫌い破滅させようとします。かつて生きたものが死体になって動かなくなって初めて、それは【影】の仲間となるのです。【影】によって重大な被害が発生し、すでに滅亡した世界も数多くあります。世界が【影】だけで占められたとき、その世界を支える基盤は力尽き、やがて消滅に至ります」

 ロランがだるそうに聞く。

「世界が【影】だけになったからその基盤が力尽きたのか? その基盤が力尽きたから、世界が【影】だけになったのか?」

 女は答える。

「その両方と考えられています。私たちの目的は、その双方向の下る螺旋を永遠を賭して食い止めることです。そのためにあなた方のお力が必要です」

 エディが、「何をすればいいんだ?」と聞く。女は答える。

「旅をしていただきます。すべての世界を順にめぐる旅を」

 すべての世界と聞いて、ロランが笑い出す。

「『すべての世界』だと? そりゃあ大層な旅だなあ。寿命がどんなに長くなったって、永遠に終わりっこねえさ。すべての世界だろ?」

 だがマラドが協力した理由は分かった。彼なら永遠にだってすべての世界を回りたがるだろう。女は、笑われても真面目な顔をして頷く。

「はい。文字通りの永遠です。あなた方の生命の砂時計はここで止まり、怪我をして亡くならない限りは、ずっとここに来たこの時点に釘づけされます。普通、一般的な人間はこの城の磁場には適合せず、長くは留まれずに元の時空へ弾き飛ばされて行くのですが、ルパニクルスがその使者に施すこの【定着】という措置は、あなた方をこの特異な城の磁場に完全に適合させることができます。あなた方はこの城を拠点として、永遠に世界をめぐる旅を続けることができるのです」

 ロランは尋ねる。

「腹が減って死ぬとか水が飲めなくて死ぬとかはないのか?」

 女は答える。

「ありません。この城の外の世界は、お腹が空いて喉が渇く世界ですが、私たちはそんな現象にも対処できる技術を持っています。旅の糧食の配給はルパニクルスが行います。小さなお菓子を一つ召し上がっていただければ、一日お腹が空くことも、喉が渇くこともありません」

 そいつはすげえなとロランは感心する。確かにこの城に来てからこの方、空腹を感じたことも水が欲しくなったこともない。酒は単なる嗜好品である。それだけでもうこの話引き受けてもいいかと思っていると、もうだいぶできあがってきたエディが横やりを入れる。

「それで世界をめぐって何をするんだ? 行って帰ってお土産話でもしてはいご苦労さん次どうぞか?」

 女は首を横に振る。

「いいえ。することは世界によりさまざまですが、あなた方には行き先の世界でその土地の問題を解決していただきます。一つの世界に何度も訪れることもあるでしょう」

 今度はロランが質問する。

「問題を解決ってだけ言われても見えてこねえな。【崩壊期】とやらの阻止に関わる話なんだろう?」

 はい、と女は答えて言う。

「解決していただく問題というのは、すべて崩壊の阻止に関わることです。もう少し具体的なことを申し上げますと、世界にはそれぞれ【瘴気】に汚染されがちな場所があるほかに、【瘴気】に拮抗してその地を崩壊から守る力としての存在、【守護者】が眠っている場所があります。【守護者】が眠ると【瘴気】は優勢を得ます。あなた方にお願いするお仕事は、その土地それぞれのやり方で、眠っているまたは眠りかけている【守護者】を活動化させ、【瘴気】に対抗させることです」

 活動化という聞き慣れない言葉遣いにロランは違和感を感じる。眠りから目覚めさせると言うことだろうかとしばし考えて言う。

「『活動化』ねえ。気持ちよく眠っているところを無理やり叩き起こされておかんむりなんてことはないのか?」

 女は答える。

「たいていの場合【守護者】は意志のない機構のようなものですが、まれに意志を持つもののような形をとっている場所では、そういったケースも想定されえます。【守護者】がどんなものであれ、それを活動化する過程で【瘴気】に侵された場所やそこから現れる【影】と遭遇することは十分に考えられます。したがって、セニエール様がおそらく危惧していらっしゃるように、大きな危険が伴う行き先もありえます」

 ロランとエディが考えこんで黙っていると、女はこう言う。

「しかし私どもにも対策はあります。【探索】には、さまざまな素質を持つ相性の良い五名を、ルパニクルスの探知網が及ぶあらゆる世界からすべての情報を使って選定し、こちらにお招きしております。今回は見かけ上六名になる見込みですが、六名で協力して動きそれぞれの能力を活かしていただくことで、どの世界でも任務を遂行していただけるような体制を整えております」

 さらに女は言葉を継いで言う、

「また、参加者のうちには必ずナビゲーターとなる方を用意いたします。さらに、糧食だけでなく衣類や武器などの装備が必要な場合も可能な限り協力いたします。たくさんの荷物を潰さずに大きさだけ《圧縮》し、お望みのときに《展開》できる便利な旅行鞄なども取り揃えております。必ず命中するクロスボウなど、ご興味はありませんか?」

 路地裏の怪しい商人みたいだなと思いつつ、ロランは関心をそそられる。女の言葉には嘘はなさそうだった。ロランは尋ねる。

「引き受けてからやっぱりやめたいとなったらどうなるんだ?」

 女は言う。

「そうはならないようこちらも工夫しておりますし、できればお引き止めしたいところですが、やめていただくことは自由です。そうなった場合には、ルパニクルスの【定着】の措置は解除され、この城から元の時空へ弾かれることになるでしょう。セニエール様とロンバート様の場合、特に制裁のようなものをこちらから科すご契約ではございません」

 セニエール様とロンバート様の場合はということは、他の参加者には違う契約条件を提示することもあるのだろうかとロランは思う。ただの売り口上だろうか。エディは、もう少し眠そうにしている。ロランは女に言う。

「一緒に動く参加者の面子を見てから是非を決めたい」

 女は心苦しそうな表情を作り答える。

「いいえ、大変恐縮なのですが、そのご要望にはお答えできません。参加者の顔合わせは、それぞれがルパニクルスと契約成立し、正式な参加者が確定してからと、規定により定められております」

 その口ぶりを聞き、ロランはお上の役人と一緒に仕事をしたときのことを思い出した。毎度くそ面白くもない仕事だったが、それは仕事だった。今回の話はそれに比べるといくらか面白そうではある。お上の役人なら無理かもしれないと思いながら、ロランは食い下がってみる。

「どんな連中と組まされるかは大事な要件だ。名前が出せないならどんなやつか素性と特徴くらいは教えろ。危険な仕事を頼むならそのくらいは当たり前だ」

 実情はそうでもないのだが、興味があるのでそう言ってみる。自分とこの小僧の他に、いったいどんなやつが選出されているのだろう。あまりにもくだらない面子なら断ることも考えておかなくてはならない。女は動じずにしかし案外あっさりと参加者の内訳を答える。

「大まかな内訳くらいであればお答えしても差し支えないでしょう。六名の内訳は、魔法が使える方が三名に、物理的に腕の立つ方が三名です。魔法が使える方のうち二名は、攻撃手段が豊富です。残りの一名は防衛に特化しています。物理的に腕の立つ方のうち一名は現役の軍人で、もう一名は歴戦の魔物討伐請負人です。残りの一名は実戦経験はあまりありませんが、身体能力の面で優れており特に森林に適性を持ちます。いかがでしょうか?」

 ロランがまあそれだったらなんとかなりそうだなと考えていると、へべれけに酔ったエディが女に問う。

「シルキアも一緒か?」

 まだそれを言うかとロランが横からエディに肘うちを入れる。驚いたことに女は頷く。

「はい。こちらにいらっしゃる際に混線してしまったようですね。ロンバート様もセニエール様もそうしてあの方をご存じの様子ですから、ご質問にお答えしても差し支えないでしょう」

 エディが「よし」と言って喜ぶので、ロランは「どうせ旦那と一緒だぞ」と冷水を浴びせる。「そうなのか?」とエディが女に問うと、女はやはり頷いて言う。

「はい、ご一緒です」

 エディはがっくりとうなだれて、「えー、それじゃあ行きたくねえよう」とぐにゃぐにゃ何か呟いてごねる。それを見て女は言う。

「おやめになるのですか? 元いた場所に戻られますか? いつまでも一人きりでいられる静かな場所に」

 エディはいやいやをして、「それは嫌だ」と妙にはっきりと言う。こいつ本気だなとロランは思う。女はエディに問う。

「それでは承諾して締結なさいますか?」

 エディはうんと力強く答える。ロランは眉間に皺を寄せて見守りつつも、たぶんこいつは後悔はしないだろうなと思う。エディの回答を聞くと、女はロランにも同じことを問う。

「セニエール様はいかがなさいますか?」

 ロランはしばらく黙って考える。それからどういう考えを経たのか、ぱちんと指を鳴らして答える。

「乗った。協力してやろう」

 女は笑顔を見せて言う。

「ありがとうございます。それでは、エドガー・ロンバート様とロラン・セニエール様のご契約は締結完了です。お二人は今このときから、【定着】しました」

 今このときからと言われロランは驚く。ロランは女に言う。

「おい、最初からこうなるのを見越してやがっただろう。俺がエディに酒を飲ますのも予想してやがったな」

 女は静かに答える。

「はい。予測はされていたことです。しかし、【定着】の措置が今すぐ完了したのは、そうする手続きを何かあらかじめ進めていたためではございません。中枢では簡単な操作なのです。ここで交わされた会話がルパニクルスの中枢機構へ即時で連携され、あなた方の生命の砂時計は今、永遠となりました」

 訳の分からない回答ながら、ロランはもう問うことはしない。ロランが黙るのを見計らい、女は彼に問う。

「水回りの使い方などはもう使用人から聞きましたか? 彼らはこちらから質問をしなければ何も答えませんから、まだご存じでなければご案内いたしますよ」

ロランは女を見、それから隣でソファーの肘掛けにもたれて眠っているエディを見て言う。

「それも頼みたいがこいつの部屋はどこだ」

 女は立ち上がって部屋の西側の方を指さし、「ロンバート様のお部屋はこのお隣のお部屋です」と答える。それからその西側の壁にある扉を指さし、「水回りはあちらです。さあご案内いたしましょう」と言ってそちらへ向かうので、ロランも立ち上がってそちらへ向かい、女から説明を受けた。


 説明が終わると、女は去り際にロランへ何やら計器の付いた砂時計のようなものを二つと、二封の白い封筒を渡してこう言う。

「こちらの封筒は、こちらの時計の長い針がこの位置を指してから開封してください。こちらがセニエール様のもの、こちらがロンバート様のものです。後でロンバート様にも渡して差し上げてくださいね。そして、こちらの短い針がこの位置を指したときに、封筒にある道順を辿り始めてください。そこで【探索】の参加者の顔合わせと自己紹介を行います。ルパニクルスから派遣する担当者も参りますので、七名が集まってから開始です。それではお休みなさいませ」

 女は礼をして去る。ロランは釈然としない気分で女が残していったものを見る。机の上に奇妙な時計が二つと、名前の書かれた封筒が二封。一封にはロランの名が、もう一封には見たことのないくるくるとした文字らしきものが書かれている。他に模様はなく、封筒に封はされていない。ロランはよほど開けようかと思ったが、例の「即時で連携」とやらで不老不死を剥奪されるのも嫌なので、開けるのはやめておき、自分の封筒を懐にしまう。それからエディを起こしにかかる。エディはだるそうに起きたかと思うといきなり立ち上がり、「おい、おまえの部屋は——」とロランが言う間もなく、薄暗い部屋をふらふらと歩いてロランの部屋のベッドに寝転び、そのままぐったりと眠り込んでしまった。ロランはもう起こす気にもなれず、かといってまだ自分もそこで寝てしまう気分でもないので、外でちょっと飲みなおしてから戻ってこようと思う。城の中を探検しているうちに、意外ないい場所を発見していたのだ。そしてそこは、マラドの気配を感じる場所の一つでもあった。


 ロランがその場所——城の食堂のような広間の一角の静かな【酒場】——に着くと、彼はまず、部屋の隅の明り取り窓のそばの席をちらりと見る。マラドの気配はカウンター席ではなく、いつもこの隅っこの席の壁側の椅子のあたりに固まっている。ロランはいつも、同じ椅子かその向かい側の椅子に座ってみようかと思うのだが、なんとなくそうできずにいた。【酒場】はいつも賑やかな人の気配で満ちているのだが、人影はいつもどこにも見えない。いるのは、他の使用人たちと同じ煙色の透ける身体をした給仕と、カウンターの奥にいるやはり煙色のバーマンだけだ。だが今日はカウンターに先客がいた。黄色いコートを着た銀髪の女だ。ロランは女のそばへ行き、バーマンに「適当なのをくれ」と言い、勝手に女の隣に座る。いきなり隣の席に来たロランを無視して、女は何かスカイブルーの液体を静かに傾けている。ロランは女に話しかける。

「ねえさん、あんたも【探索】の参加者か?」

 女はようやく鬱陶しげにロランの方を見、少し掠れた声で胡散臭そうに言う。

「『歴戦の魔物討伐請負人』っていうのはもしかして貴方のことなの?」

 ロランは女の服装と切りそろえた銀髪を改めてよく見て言う。

「『現役の軍人』っていうのはもしかしてあんたか。女とは意外だな。しかもこんな美人だ」

 女は気にするふうもなく言う。

「竜族は女系だから。雌の竜と結ばれる女性兵士の方が、私の国では上」

 ロランは竜と聞いてへえと目を丸くしてから、女に聞く。

「あんたはどうして承諾したんだ?」

 女は素っ気なく返す。

「そういうのを次の機会に話させられるんじゃないかしら」

 どうやら言いたくなさそうだなと、それを聞いてロランは思う。バーマンがロランに出した飲み物は無色透明だった。ロランはそれを味見しながら言う。

「適当にしろというと毎回違うのが出てくるが、どれもなんなのかよく分からねえ。バーマンに聞いても『アルコールでございます』としか返ってこねえからな。酒だっていうことくらいしか分からん妙な代物だが、なんだかうまくて面白い気分になる。こういうのはおまえの国にもあったか?」

 女は返す。

「あるわけないでしょう。青いお酒なんて初めて見たわ。だいたい私ここに来たのは初めてだから」

 ロランは聞く。

「初めて来たら驚いただろう。よく見つけたな」

 女は答える。

「説明係に憂さ晴らしがしたいと言ったら、ここへの道順を教えてくれたわ」

 ロランはまた聞く。

「説明係っていうのは、あの灰色の変な服を着た女か?」

 女はだるそうに答える。

「それだけじゃ同じか分からないけれど、私のところへ来た人も女で灰色の服を着ていたわね」

 そう言ってから女は黙り、もう話す気はないのかとロランが思っていると、唐突に彼に質問をした。

「あなたは【影】と戦ったことがある?」

 ロランは答える。

「ねえな。出くわしたことも聞いたこともねえ。ねえさんはあるのか?」

 女は答えない。少し俯いてため息をつき、前を向いて頬杖をつく。それからまた唐突にロランに謝る。

「ごめんなさい。私今ちょっと参ってるから、誰かとお話できないのよ。たぶんまともな回答はできないと思う。何があったのか聞くのはなしね」

 そう言って少し間を置いてから、女は続ける。

「もうちょっとしたらちゃんといつも通りになると思うから、そうしたらまたお話ししましょう。私はサンドラよ」

 サンドラはスカイブルーの液体を飲み干して席を立つ。ロランはその背中に向かって言う。

「俺はロランだ。絡んで悪かったな。楽しみにしとくからさっさと立ち直れ」

 サンドラは後ろを振り向かず、ただ右手を軽く上げて返し、去っていった。

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