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XV. Viam inveniam

 夜が白み始めると、サンドラが目を覚ました。彼女は身を起こして周囲を片付ける。鞄からルパニクルス製の薄い焼き菓子を一つ出して口に入れる。甘いようなそうでないような捉えどころのない味の菓子は、すぐに溶けてゆく。これで一日飢えず乾かずでいられると言うが、本当だろうかとサンドラは疑わしく思う。鞄はすぐに《圧縮》してしまう。荷物をすぐに持ち出せない状況というのは落ち着かないのだ。すぐに必要になりそうな小物類は、《圧縮》も《展開》もいらない小さな鞄にまとめて腰帯に付けている。ランプはもう片付けられていて、他の荷物もまとめてしまったロランは、洞穴の入り口で外を見ている。外は快晴だ。サンドラは出かける支度が整ったところで、ロランに声をかける。

「乗せてあげましょうか? あと一人くらいなら、爪にぶら下げなくても乗せてあげられるわよ」

 ロランはしばし考えて答える。

「楽しそうだな」

 サンドラは「すごく楽しいわよ」と返す。誘ったのは本気らしい。サンドラは機嫌がよさそうだ。ロランが半分冗談半分本気のつもりで「落ちたらどうなる?」と聞くと、サンドラは笑いもせずに答える。

「落ちたときに分かると思うわ」

 ロランも真顔で返す。

「安全性に不安があるな」

 だがロランも、これから進む地形を俯瞰して見てみたい気がするのは確かだった。飛竜に乗る機会など、そうそうないだろう。騎手がサンドラなら、落ちても拾ってもらえそうな気がした。無理ならそれまでだが、そういう博打は嫌いではない。サンドラから「空だから、途中で降りたはなしだけど。どうする?」と聞かれ、ロランは腹を括って言う。

「よし、のった。馬とは勝手が違いそうだが、落とすなよ」

 サンドラは「勇気があるのね」と答え、洞穴の外へ身を乗り出して空を仰ぐ。サンドラが空へ手を振って呼びかけると、鮮やかな黄色の飛竜が稲妻のように現れ、洞穴に横付けた。その背に身軽に飛び乗ったサンドラは、自分の背後を指してロランに言う。

「後ろに乗って私につかまるのよ。乗ってから翼を蹴らないように気をつけて。踏むのはいいから、上がってから蹴飛ばさないで」

 おそるおそる背に乗ったロランがサンドラの脇腹をつかむと、飛竜はいきなり速度を出して駆け、高く天へ飛び上がった。ロランは危うく転がり落ちるところでどうにかサンドラにしがみつき、乗せてもらうのはやめておけばよかっただろうかと一度目の後悔をした。それを感じてかサンドラは、反省しているのか面白がっているのかどうにも判別できない調子でロランに尋ねる。

「後悔した?」

 ロランは「少しな」とだけ答えて、おとなしくしておくことにする。飛竜は湖の上空を旋回している。湖の周囲には、針葉樹の森が広がっている。北側から流れてきて湖に注ぐ川も見える。雨宿りをした洞穴の崖は湖の西側で、剥き出しの岩が段々をつくり、巨人の階段のように見える。洞穴は上から三段目あたりにあり、湖面からはかなり高い位置にあった。ロランにも少し余裕が出てきた頃合いで、サンドラが言う。

「昨日の雷雨で充電したから、調子は抜群ね。落とさないから下を見てみたら? 速度も高度も上げないから、今は頑張ってつかまらなくても大丈夫。走らない馬に乗るのと同じよ」

 同じなもんかと返しつつも、ロランはバランスを取って飛竜の翼の下に広がる景色を見てみる。初めて見る風景だ。崖の上から見下ろすのとも、山の上から見渡すのとも違う、空を飛ぶ生き物の視界。すごいな、と素直な感想が出る。サンドラは「そうでしょう」と得意げに言う。

「私が軍人になりたかったのは、飛竜に乗って飛びたかったからなの。優秀な子どもを集めて、竜と結ばれるかどうか、選抜するのよ。私は【雷霆】の撃墜王になりたかった」

 ロランは尋ねる。

「なれたのか?」

 サンドラは答える。

「なれたからきっとここにいるの。私は使徒団を連れて国に帰って、もう一度歴史をやり直す。さあ、偵察に戻りましょう。つかまって」と言うなり彼女は飛竜の速度を上げて、旋回の範囲を大きく広げる。ロランはサンドラにつかまって加速に耐えながら、尋ねる。

「どうやって制御しているんだ? それは手綱か? 鞍もないのによく落ちないな」

 すると風の向こうから声が返ってくる。

「これは落ちないための綱。宙返りしてもつかまれるように。ただの命綱よ。ガリーナと私は繋がっているから、心で思うことが伝わるの。ほら見てあれ」

 サンドラが指差す方向をロランが見ると、森の中に一本の白い道が見える。念のため持ってきた望遠鏡で見ると、石灰岩の石畳だろうか。森の中の道にしては、不自然に広くきれいすぎるようだ。ロランは言う。

「あれは、道か?」

 サンドラは肯定して言う。

「きっとそうよ。ほらやっぱり道」

 急に高度を下げるのでロランはひやりとするが、道らしきものはよく見えるようになった。回りながらどんどん降りるので、ロランは頭がくらくらしてくる。

 サンドラに「降りるのか?」と聞くと、そのつもりではないようだ。彼女は答える。

「近づくだけ。道の先を見てみましょう」

 今度は高度を上げる。急上昇する。ロランは頭が痛くなる。サンドラは涼しい顔だ。はばたいても上がらなくなったあたりで、二人ははるか下界へ目を凝らす。雲はなく視界は良好だ。糸のように細くなってもなお目立つ白い道を辿ると、終点が二つあるのが見えた。片方はただ道が途切れた点にしか見えず、もう片方には建物らしき塊が見える。白い、大きな石の箱。サンドラがそれを指差して言う。

「きっとあれだわ」

 ロランはサンドラに望遠鏡を渡す。サンドラはそれをしばらくじっくり覗いて、ロランに返す。ロランは少し情けない調子で懇願する。

「帰るときはもうちょっとゆっくり降りてくれないか。頭が痛い。二日酔いの朝みたいだ」

 サンドラは、「それなら慣れっこじゃないの?」と返しつつも、今度は少しずつ高度を下げる。サンドラは言う。

「あそこまで歩くのは少し難儀ね。ガリーナで運べる距離でもないし。この飛竜はね、長距離向きの竜種じゃないし、重いのも苦手だから、輸送には向かない」

 ロランはなるほどと納得して言う。

「その代わり、速さと小回りは折り紙付きか。火力もあるし最適性は戦闘用、次点でこういう偵察や哨戒向きか。敵情の偵察にはちょっと目立つか? とりあえず、目的地までは歩くしかなさそうだ」

 サンドラは、「隠れる方法も無きにしも非ずなんだけれどね」と言った後、いたずらっぽくロランにこう聞く。

「速さと機動力、もっと体験してみなくていいの?」

 聞かれたロランはどきりとする。今日はもう勘弁してほしい。だがいつか体験してみたいとも思う。またいきなり加速されても困るので、言葉を選んでこう伝える。

「初回はもう十分だ。いつか別のときにまた乗せてくれ」

 そうねえ機会があったらねとサンドラは嬉しそうだ。任務で民間人や飛竜遣いでない軍人を乗せて飛ぶと、いつももうこりごりだと言われるのが、サンドラには不思議だったのだ。それで上から注意を受けることもあったが、落としたことは一度もない。厳密には遠い昔に何度かあるが、地面にぶつかる前にどうにか拾った。そのときのことは、申し訳なかったと思っている。だが、他で泣き言を言われる理由は、今一つ納得がいかない。乗客が「怖かった」と言う内容は、サンドラにとっては面白いことばかりなのだ。他の小型飛竜遣いも、みなサンドラと同じことを言う。そういう人間が小型飛竜乗りに選ばれるのだと、リノリアでは言われていた。サンドラとロランを乗せた飛竜は、最初の洞穴のあった崖へ向かって、緩やかに下降を続ける。



 サンドラとロランが飛び立った後しばらくして、差し込む朝日に目を覚ましたのはジャンだった。夜が明けていることを知り、彼はシルキアを起こさないよう、静かに身を起こす。エディとミラベルはまだ眠っているようだ。ジャンは一人ふと呟く。

「誰も私を起こさなかったのか」

誰にも聞かれないと思っての囁きだったが、ミラベルが返事をした。

「起こしたわよ。起きなかったでしょ」

 そう言って毛布から顔を出し、わざと不機嫌そうな顔をする。ジャンが深刻に暗い顔をして俯くので、ミラベルは少し慌てて取り消して言う。

「嘘よ。二人してかわいそうだから起こさないでやったのよ。何よ、ちょっと死にかかったからって神妙になっちゃってさ。あんたがエディをからかって遊んだこと、あたし知ってるんだからね」

 からかった? はてと考えて思い当たったようで、ジャンは何でもないふうに言う。

「ああ、そんなこともあったな。彼から聞いたのか」

 ミラベルはそれを聞いて本気で腹が立ったらしい。身を起こしてきっと睨みつける。

「エディのやつ、こっちに来たばっかりで本気で驚いちゃってかわいそうなんだから。あんたの話、まだ少し信じてると思うわ。冗談だったって言ってやりなさいよ。あんた、たち悪いわよ」

 山猫が威嚇するような様子を見て、ジャンは少し困ったと思う。騒がしくなったがエディが起きる様子はない。さすがに狸寝入りだろうか。ジャンはとりあえず弁解することにする。

「あのころは色々とあったのだ」

 言ってから悪手だったと思う。ミラベルは質問で返す。

「どんな色々があったらあんなひどい冗談が言えるわけ? 最低じゃない。シルキアにそれ言える? あんたがエディに言ったこと、聞かれても困らないって言える?」

 名前を呼ばれてシルキアが起きる。彼女は目を開けて眩しそうにジャンを見上げ、「どうしたの?」と尋ねる。ジャンは「大したことではない」と答えながら、心の中では面倒なことになったと思う。ミラベルはシルキアが起きたことでようやくまずいと思ったのか、こう言って話を打ち切る。

「とにかく、あれは冗談でしたっていうのは早めに言ってやりなさいよね」

 ジャンも「ああ、承知した」と頷く。

 シルキアは怪訝な顔をして二人を見るが、すぐ気にしないことに決めたらしい。王様いわく大したことではないらしいからだ。にこりと微笑んで鞄から焼き菓子を取り出す仕事にかかったシルキアを見て、ミラベルは、この子は信用する相手を間違っているんじゃないかしらと思う。ミラベルが焼き菓子を食べ終わり少し待っても、エディは毛布の中で丸まったまま、まだ起きてこない。どうやら本当に熟睡しているらしい。ミラベルはなんだか苛々して、それを蹴飛ばしてみる。エディは起きない。毛布を引っ張ってみる。ぐいぐい引っ張られてときどき蹴りも入れられて、エディはようやく目を覚まし、だるそうに身体を起こして言う。

「もう出発か?」

 ミラベルは答える。

「そうよきっともうすぐよ。湖に顔洗いに行く?」

 ジャンとシルキアはいつの間にかもう荷物を片付けて洞穴の外へ出て行ったようだ。湖で顔を洗うのは冗談のつもりだが、ミラベルも外へ出て少し羽を伸ばしたかった。見知らぬ場所で一人で動くのは少し怖い。エディは道連れである。エディが言う。

「大雨の後だぞ。水がきれいか分からないだろ」

 あまり冗談と捉えていない様子のエディだが、言いながら立ち上がる。軽く伸びをすると、身体のあちこちが痛んだ。

「あんたよく寝られたわね。雷が怖いとか震えてたくせに。早く朝ごはん食べちゃいなさいよ」

 ミラベルに言われてエディは鞄に手を伸ばす。焼き菓子を食べてミラベルに聞く。

「ミラベルは寝られなかった?」

 ミラベルは不機嫌に答える。

「そうよ寝不足よ。あたしが倒れたらエディが背負って歩くのよ」

 エディは「それはちょっと困ったな」と言いながら、洞穴の入り口へ行き、しゃがんで外を見て言う。

「うわあこれけっこう高いぞ。湖面まで降りるのはやめたほうがいいと思う。崖の上の方が近そうだから、外へ出るなら上に登るんだな」

 エディは入り口の段差から後ろ向きに飛び降り、中にいるミラベルに手を振った。入り口の段差はエディの胸下あたりまであり、その先の段も思いの外高い。ゆうべは暗かったのと必死だったのとであまり状況を把握していなかったミラベルは、少し躊躇しつつ言う。

「やあねこれ、戻れなくなったらどうするの。外出た先も崖じゃない」

 エディに「そうなったら飛んだらいい」と言われ、ミラベルはなるほどそうだと箒を持って行くことにする。箒を持って行くことにすると他の荷物のことも気になる。ミラベルはエディに言う。

「ねえ、鞄、《圧縮》した方がいいんじゃないの? 他のみんなはもうまとめちゃって、ぜんぶ持って行っちゃったみたいよ。あたしたちも片付けちゃいましょうよ」

 ミラベルは早速、《圧縮》作業に取り掛かる。エディも段差を登って中に戻り、鞄を片付け《圧縮》する。

片付けが終わるとエディがまず降り、ミラベルも後に続いた。ミラベルは洞穴の入り口を外から見て言う。

「崩れないように用心って、立派な岩窟じゃない。でも、確かにあのときには、何か崩れてくるものがあったのよね。雨が止んだらそれが消えたの。なんだったのかしら。私が一晩中、魔力で支え続けた塊……」

 エディがぞっとしないと身震いをして言う。

「おい、怖いこと言うなよ。ほらもう行くぞ」

 エディが見上げても今、上には何もない。早く離れたいというふうでさっさと行くエディを、ミラベルは首を捻りつつ追う。崖は硬い岩とはいえ、亀裂のあるところに力がかかれば崩れることもあるだろう。足場が狭くなってくると、二人ともさすがに慎重になる。崖の上へ登る道を探しながら、ミラベルは今ここにいない四人を思い浮かべて言う。

「サンドラは偵察でしょう。ロランはどっか行った。シルキアとジャンはさっき出て行った。空も飛べない人たちが、みんなどこへ行っちゃったのよ。こんなの飛べなきゃ上に登れないじゃない。サンドラが戻るまで、待ってた方がよかったかしら」

 焦るミラベルをエディが宥める。

「シルキアとジャンがさっき出て行ったんなら、登れる場所が近くにあるんだろ。おれたちが崖の上か、最悪このまま途中にいても、空からならサンドラの方から見つけてくれる」

 ミラベルは思案して立ち止まり、エディの方に箒を突き出して言う。

「乗る?」

 エディは沈黙する。冗談かもしれないと思ったからだ。ミラベルの方は本気のようだ。彼女は上を見てこう言う。

「もうこんな崖登りなんてうんざり。箒に乗ったら崖の上までなんてすぐなんだから」

 ミラベルは「ほら」と言って箒に跨って見せる。

「あんたは後ろで私にしっかりつかまるのよ。変なところ触ったら湖に叩き落としたいけれど、ほんとに落ちたらかわいそうだから、ちょっとは大目に見てあげる。早くして」

 ミラベルの剣幕に押されてエディが後ろに跨ると、「飛ぶわよ」と言ってミラベルが地を蹴るので、エディは慌ててしがみついた。ちょっといい匂いがするのと、ウエストが細いなあとエディはぼんやり思う。景色を眺めるまでもなく、崖の上までは本当にあっという間だった。ミラベルはちゃんと飛べたので密かにほっとする。二人が箒から降りて崖の上に立つと、サンドラの黄色い飛竜が彼方から飛んでくるのが見える。サンドラの他にもう一人乗せているらしい。もっと近づくと、後ろにいるのはロランだと分かる。飛竜は崖沿いに低く進んでミラベルとエディの頭上を通り過ぎ、崖上のかなり向こうの地点に降り立ったようだ。そちらへ来いの意と捉え、エディとミラベルは歩き出した。

 ミラベルは羨ましげに言う。

「ロランはサンドラと偵察に行っていたのね。あたしも飛竜に乗りたかった」

 エディは「箒と違うのか?」と尋ねる。ミラベルは肩を竦めて言う。

「自分の力で飛ぶのとは違うでしょ。それに、サンドラの後ろに乗せてもらうのがいいのよ。生き物に乗って飛ぶってどんなかしらね。あたしも今度頼んでみよう」

 ロランはサンドラの変なところを触って叩き落とされなかったのかと、エディは妙なところに感心する。ロランはそういう冗談をいかにもやりそうな人間に見える。しかし、サンドラはミラベルよりもずっと怖そうだ。ミラベルはふと気が付いて言う。

「サンドラはどうしてあんたを連れて行かないで、ロランを連れて行ったのかしら」

 エディはその疑問の意図が分からずに聞く。

「なんでおれを連れて行くんだ? おれがついて行ったって、何もできないだろ」

 ミラベルはゆうべのことを思い出して言う。

「あんた、ここが目的地と近いか分かるって言ったじゃない。あんたを一緒に乗せて行けば、目的地がどこか確認できたかもしれないでしょ」

 エディは少し悩んで答える。

「なんで分かるかどうしても分からないんだ。道案内しろって言われても無理だと思う。あのときそんな気がしただけだったから。だから、やっぱり行っても大して役に立てなかったと思う」

 ミラベルは「そう」と言ったきり黙って何か考えている。エディは話題を変えようとミラベルに話しかける。

「あのさ、ルパニクルスのエリクが言ってただろ、旅の仲間は仲良くなれそうなやつらを選考してるって」

 ミラベルは考えながら「言ってたわね」と頷く。エディはミラベルに言う。

「あれってけっこう本当かもなと思う」

 それを聞いてミラベルは驚いた様子で、エディに尋ねる。

「あんたけっこうひどい目にあったでしょ。それでもやっぱりそう思うんだ」

 エディは色々思い出しながら途切れ途切れに答える。

「ああうん、そうだな。あれは確かに、かなりあれだったんだけれど。なんかわけ分かんないだろあいつら。あんなん言われて本気にして悩んだりしたけどさ。でもな、なんかうまく言えないけど、色々言ったって、あの二人もやっぱり仲良くやれそうなやつらだよ」

 ミラベルはますます難しい表情で考えこむ。考えてこう返す。

「あんたの言いたいことはなんとなく分からなくもないわ。そうよ、あの人たち、わけ分かんないのよ。なんか、いつも二人だけ違う世界にいるみたいに超然としてて、【守護者】にはあんなに冷たいこと、楽しそうに言ったと思ったら、二人とも死にそうになるくらい働いてたりして。意地悪な人なのか優しいのかよく分かんないじゃない。わけ分かんないんだけど、なんか、じゃあ嫌いかって言われると嫌いではない、とは思う」

ミラベルが言う間に、そのわけ分かんない二人とサンドラ、ロランが集まって話し合っている姿が遠くに見えてくる。飛竜はもう見えない。二人が近づいてゆくとサンドラがこちらに気づき、軽く手を振って言う。

「お疲れさま。朝の散歩? 荷物は全部持って来た?」

 ミラベルが答える。

「荷物は二人とも持って来たわ。あの洞穴はもう空っぽ。みんなして私たちだけ置いてどこかへ行っちゃうんだもの。寂しかったわ」

 サンドラは「とりあえず合流できたからいいじゃない」と宥めてから、背後の森を指差して言う。

「あれを抜けていくしかないみたい。少し歩けば妙にきれいな道に出るはずよ。道を辿って歩いたところに建物があるから、とりあえずそこまで行ってみましょう。みんなどれくらい歩けるかしら。途中で野営は避けたいから、さくさく歩いてちょうだいね。まあ無理しても仕方がないから、どうしてもだめだったらそのときに考えましょう」

 みんな森の方を見る。ここから見る限りではそこまで鬱蒼とした森でもなさそうだが、奥の方はまだ分からない。ロランが一同に尋ねる。

「森を抜けるまでは道なき道だ。誰も手入れしていない森だの山だのに入って歩いたことがあるやつは、どのくらいいる?」

 ロランのほか、サンドラとエディが「ある」という意思表示をする。ロランはそれを確認して言う。

「だいたい予想通りだな。サンドラとエディ、あんたたちは先を行け。ひっかかりそうな場所があったらなるべくなんとかしておいてほしい。残りは後ろ。俺は最後。見たところ見通しは悪くなさそうな森だが、獣か妖魔かなんか出ないとも限らないからな。なんかあったら各自戦え」

 はいはいと承知して、サンドラがさっそく森へ歩き出す。エディも続く。ミラベルは箒を背中の箱にしまって背負い、少し後ろを振り返る。先ほどエディとしていた話をふわりと思い出してから、また前を向いて歩き始める。ジャンは【王錫】を右手に持ち、シルキアは左側に従っている。ロランが最後にのんびりと続く。

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