VII. La Démonstration
『デモンストレーション』 の日、指定された地下の薄暗い広間に、六名はそれぞれの武器を持って集まる。部屋の中央には大きな透明の半球が置かれ、円筒状の窓のような青く光る帯が反響の上の空間に浮かび、回っている。そこに何かが映し出されるのだろうか。中央の奇妙な置物を囲み、座り心地の良さそうな椅子が七つ据えられている。なんとなくみんな課題の組み合わせの順番でそこに座る。
サンドラはまだグレイヴを出していない。服装はいつもの軍服姿だ。内着の類は女中に頼んで替えを調達させたらしい。ミラベルは橙色の大きな宝石の嵌まった短い杖と、愛用の箒を持ってきていた。回収したガラス玉を入れるために用意した布の鞄を斜め掛けにし、この間の練習のときとは違う『お転婆をするときのドレス』を着ている。これらはやはり女中に調達させたものだった。持ってきた荷物には派手な衣類がほとんどで、お転婆用はあまり持ってきていなかったからだ。ミラベルは女中がすぐに彼女の気にいるようなドレスを選んで持ってきたことに驚いた。王都の商人が服を売りに家に来るときは、何度か「こういうのじゃなくて、もっとここがこういう感じになってるやつ」等と言って品を替えさせるのが普通だったからだ。ミラベルの右耳とサンドラの左耳には、揃いの銀の耳飾りが輝いている。これは、ミラベルが故郷の便利な品を思い出し、駄目元で女中に頼んでみてなんと手に入ったもので、《テレパスの耳飾り》と呼ばれるものの一つだった。あまり遠く離れすぎたり、金属の板など障害物を隔ててしまうと使えなくなるのだが、そうでなければ、相手に伝えたい心の声を、対になる耳飾りをしている遠くの相手に伝えることができる、面白い魔法具だ。これは今回の課題に絶対に役に立つと思い、ミラベルが導入を提案したところ、サンドラはとても喜んで、「ミラ、これはすごいものね。課題もぐっと楽になるはず。リノリアにも通信機器はあったけれど、持ってこさせようなんて思いもしなかったし、ちょっと嵩張る品なの。これはお洒落だし、邪魔にならなくてとてもいいわ」と言ってさっそく練習に投入した。二人の連携は精度を増し、ミラベルがうっかり痺れることもなくなった。
デモンストレーションの二番手と指名されているジャンとシルキアは、ジャンが背丈くらいの長い棒を気軽な感じで持っている以外は、普段の服装のままだった。白と黒の丈の長い衣で、シルキアの方は何も持っていない。この部屋に入って来たときの彼女はジャンの左側に立ち、彼の衣の端を不安げにぐいと掴んでいたが、一人掛けの椅子しかないので、二人は仕方なく離れて座った。ジャンが持っている硬い木でできた長い棒は、ミラベルが考えているようないわゆる『魔法の杖』ではなさそうだ。それは、彼が説明係の女にしつこく私的領域を邪魔され、ようやく少し真面目に考えて「折れない長い棒をくれ」と武器庫で頼んだ結果だった。だから本当にただの棒なのだが、ミラベルが誤解したように魔法の杖にも見えて、なかなか様になっていた。王笏に見立てるには質素に過ぎる。
三番目の組のロランとエディは、二人とも似たような格好をしていて、狩人とその子弟のようだった。地味な色合いの洋袴と長靴を履いて、腰にはごちゃごちゃとしたベルトを巻き、そこに小さな鞄を吊るしている。ロランの腰にはカトラスがあり、エディはそれより少し短めの剣を下げている。ロランは濃い茶、エディは深い緑色の上着を羽織り、クロスボウは二人とも背に背負う。エディは頬と両手の何箇所かに小さな切り傷を負っていた。どうも、ロランはサンドラよりも優しくはなかったらしい。だがそのロランが驚いたことに、エディは期待より優秀な徒弟だった。散々危ない目に遭ってからロランに「意外となんとかなってやがるな。昔なんかやったことがあるのか?」と聞かれ、エディは誇らしい気持ちとぼやけた記憶の心許なさに曖昧な顔をして「もしそうだったらちゃんと覚えていたかったな」と答えた。
六人が集まり着席すると、またあの顔合わせの時と同じ音叉を振ったような音が、今度は中央の球体から聞こえてき、部屋の入口からアンドロイドのエリクが、武器庫の係の男を従えて入ってくる。二人は同時に立ち止まり、同時に礼をしてそれぞれ挨拶をする。アンドロイドのエリクがまず言う。
「みなさん、お久しぶりです。今日はいよいよデモンストレーションの日ですね。課題の順番でない方は、この部屋でこの遠視装置を使って、課題に取り組むお二人の様子をご観覧いただきます。私は課題の順番となったお二人を連れて、ルパニクルスの所定の場所へと参ります。私がルパニクルスに行っている間は、こちらの武器庫の係の者が遠視装置の調整をいたします」
エリクに紹介されると、武器庫の係の男がもう一度礼をして言う。
「遠視装置の調整と簡単な解説をさせていただきます。よろしくお願いいたします」
エリクは男を余った七つ目の椅子に座らせると、サンドラとミラベルを呼んで言う。
「サンドラさん、ミラベルさん、あなた方が最初の組です。さあ、課題の会場に参りましょう」
普段と変わらない様子のサンドラと緊張した面持ちのミラベルがエリクに連れられて出て行くと、係の男は立ち上がって中央の球体に近づき、両腕を翳してこう言う。
「第六の闘技場」
すると、球体の上の円筒状の窓が青一色から変わり、広大な草原に囲まれた円形闘技場が立体的に映し出させる。男は驚いているエディとロランをよそに、流暢な解説を始める。
「ここは大草原に囲まれた第六の闘技場です。ここから三体の飛竜の【影】が放たれ、追って課題に臨む二名が入場されます。戦闘領域は草原を含むこの辺り一帯となります。三体の【影】の首には拳大のガラス玉が結びつけられており、それを割らずに三つとも回収することが、今回の課題です。ガラスの玉を落として割らないよう、連携プレイも要求されます。ああ、そろそろ【影】が放たれるようですね」
闘技場の昇降機で持ち上がってきた巨大な檻の扉が開かれ、真っ黒な飛龍が一頭、ぱっと飛び立ってゆく。飛び立った闇色の飛竜は、ときどき黒煙を吐いて不気味な雄叫びを上げ、闘技場の上空を旋回する。次いでもう一頭の【影】も放たれ、同様に真っ暗な姿で上空を旋回する。こちらの飛竜が飛ぶと、黒煙ではなくきらきらと輝く黒色の結晶が地へと降り注ぎ、砂地に突き刺さった。三頭目の【影】も放たれる。最後の【影】は、飛び立つなり真っ赤な稲光を放った。血のような禍々しい色の雷光が、不吉な黒色の身体に纏わり付き、激しく脈打って不気味な模様を描きながら吸い込まれてゆく。四人はすっかり画面に引き込まれている。エディはぽそりと呟く。
「サンドラの知り合いの影だったりしてな」




