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Le Château du Mirage  作者: Cecile.J
開幕
10/44

V-iv. Milabell

「それじゃあ、次はあたしかしらね」

 ミラベルが、ふわりと広がるスカートの膝に手を組んで言う。

「なんか壮大な話ばっかり続いて、なんて言うか、ちょっと話しづらいけど、いいわ」

 そう言って始める。

「あたしの名前はミラベル・ユーフィリア・クレアローゼ。ミラベルでもミナベルでもどっちでもいいわ。あたしの国では区別しないから。実家はそこそこいいとこだけど、王様の後じゃどうしようもないわね」

 やれやれと言って後を続ける。

「キーワードは【運命の魔女】と【ほうき星】。確かにあたしは魔女の家系に生まれた魔女だし、『あなたは運命を変える子』とか、『【崩壊期】に現れるほうき星』とか、大おばあさまに言われて育ったから、特に変な感じはしないわ。何か質問はあるかしら?」

 サンドラが言う。

「【崩壊期】については貴女も知っていたのよね」

 ミラベルはサンドラが話しかけてくれたので内心喜びながら、答える。

「そう。あたしの大おばあ様が昔、別の【探索】に参加したことのある人だったから、【探索】のことは大おばあ様から聞いていたの。大おばあ様の【探索】は、大おばあ様以外の全員が亡くなったり大怪我をしたりして脱落してしまって、大おばあ様も心が辛くなってしまって継続できなくなっちゃったから、代わりにあたしに託そうとしたのね。色々お話をしてくれて、『十七歳になったら、お庭のあの噴水のところへ行きなさい。お城へ行けるから』って教えてくれたの。こういうのは後の項目で話した方がよさそうね。はい、次行きます」

 ミラベルは『どこから来てそこはどんな場所であなたは何者だったか』へと話を移動して言う。

「あたしが元いた場所は、ヴァーゼル王国の田舎にあるクレアローゼ家のお屋敷。ご先祖様がもらった土地は田舎だったけど、それでも一応貴族だったからあたしも魔女として生まれたの。ヴァーゼルでは貴族すなわち魔女魔法使いの家系だから。そこはあたしが十歳になるまでは、蝶よ花よと甘やかされて楽しいおうちだったんだけれど、十歳になってそれまでいたお母様が厭らしい継母にすげ変わってからは最悪の場所だったわ。継母が来てからお父様は腑抜けみたいになって継母の言うことを『ああ分かったよ』『じゃあそうしよう』『おまえがやりたいと思うことをやりなさい』って全部聞いちゃって、そうしたら使用人たちもみんな継母の言いなりになって。継母はね、すごく優しいふりをするの。まわりには優しい母親のふりをするんだけれど、あたしが嫌がるようなことをわざと、勝手に決めてしまうの。勝手に決めてしまってから、あたしが嫌だと言うと、それは全部あたしが悪いことになるの。『お転婆なミラベルちゃんには困ったわね。お屋敷のみんながもうそのつもりで動いているのに。ミラベルちゃんはどうしてこうなのかしら』なんて継母が言うと、あたしは使用人たちに鞭で叩かれてでも押さえつけられてでもひどく脅されてでもそれをやらないといけなくなるの。そうやって命令されたことの数々は、嫌いなお客に挨拶するとか、嫌な相手とダンスを踊るとか、行きたくない相手の家に訪問させられるとか、気に入らない服を着ることにされるとか、本当に誰にも伝わらないくらい小さいことかもしれないけれど、全部、あたしが嫌がると思ってわざわざ継母が勝手に決めて、従わなきゃあたしが悪者ってことが許せなかった。まだ子どものころは怖くて従っていたけれど、悔しくて悔しくて魔法の勉強と練習をうんとたくさんして、攻撃魔法で抵抗するようになった。でも、そうしてだんだんあたしの力が強くなってきて、杖を取り上げられてもまだ反逆できるようになってきたら、継母のやつはあたしを自分の魔法で縛りつけるようになった。あたしの身体を勝手に動かして、あたしが嫌がることを、無理矢理させるようになった。知らない男の子と逢引させようとしたり。それも、無理矢理させてるのがあたし以外の誰にも分からないように。あたしは継母がそんな強力な魔法を使えるなんて知らなかったし、みんなもそんなことは知らないから、あたしがいくら訴えても、誰も真面目に聞いてくれないの。あたしが『お転婆なミラベルちゃん』だから、そんなふしだらなことをしたんだって。お屋敷では、あたしはふしだらな娘だっていうことになった。そうしたら、ほんとにほんとに怖い話が飛び込んできたの。それはね、ヴァーゼルのあたしがいた田舎で噂になってる、伯爵家への奉公のお話。そのお屋敷はね、いつも、本当にみんなが変だと思うくらいいつも、伯爵夫人の侍女として奉公に来る二十歳までの娘を募集しているのよ。もう十何年もずっと。十何年のうちにたくさんの娘がそのお屋敷に奉公に行って、誰も帰ってこないという噂だった。病死したなんて言われて、棺も帰ってこない。はやり病だったからって。ここ何年かはもう噂が完全に広まっていて、本当に貧しいお家の娘しか行かないくらいだったの。もちろん売られてゆく覚悟でよ。そんなところに、あたしを行かせようと言うの。もう決めてきたって言うの。それが一番いいことだって。使用人たちもお父様までそう言うのよ! いい考えだって! こうなったら、いくら嫌がってももう無駄っていうのは分かりきってたから、奉公に行く日が来る前に、あたしは逃げることにした。だから、あたしはクレアローゼ家のお屋敷から来て、そこは誰からも見えない地獄で、あたしは『お転婆なミラベルちゃん』だった。終わりよ。つい腹が立って長くなってごめんなさい」

 長い話を途中の勢いに任せて話し終わり、ミラベルはふうと肩を落とす。サンドラは、聞いているだけで息が詰まりそうな話だと思い同情する。エディが質問する。

「奉公人が返ってこない伯爵家って、返ってこない奉公人はどこへ行ったんだ? 伯爵家で殺されてたってことか?」

 ミラベルが暗い顔をして答える。

「噂だけれど、消えた娘は伯爵のお手つきになって、夫人に殺されたんじゃないかってみんな言ってたわ。逃げてきてそんな話をした娘がいたっていうのも聞いたことある。もし本当じゃなかったとしても、大勢が行ったきり帰ってこないのは事実だったから、怖かったの」

 エディはうわあと顔を顰める。そしてミラベルに「そんなところ行かなくて済んでほんとよかったな」と言う。ミラベルは誰かにその怖さを分かってもらえたことが嬉しくて、「そうなの。ほんとによかった」と力を込めて言う。次はジャンが質問する。

「継母が使ったという、相手を操縦する魔法は珍しいものなのか?」

 この人ならそんな魔法も使えそうねと思いながらミラベルが答える。

「そんな魔法がある可能性があるくらいは知っていたけれど、そんなのあっても宮廷魔導士かどこかの隠者くらいしか使えないと思っていたわ。あたしがいた世界では、珍しい魔法だったと思う」

 ジャンはそうかと頷いて、ミラベルの苦労をねぎらって言う。

「それでは、誰にも信用されず苦労したであろう。大変だったな」

 エディは意外に思う。ねぎらうのではなく、そのくらいさして珍しいものだとは思わなかった、等と言うのだろうと思っていたからだ。ロランも同じだったらしく、二人はしばし顔を見合わせてしまった。ミラベルも少し驚いて、「ありがとう」と言いながら少し照れくさくて俯く。次はサンドラがミラベルに言う。

「身体を操作する魔法なんて私だってお手上げだわ。貴女も苦労していたのね。『お転婆なミラベルちゃん』のままでいなさいなんて軽々しく言ってしまってごめんなさい」

 ミラベルは首を横に振って照れながら言う。

「ううん、サンドラに言われたのは嬉しいからいいの。継母の嫌な記憶を上書きしてもらったみたいで嬉しかった、とか、なんか、みんなの前で言うのは恥ずかしいけど」

 それならよかったと言ってサンドラは微笑む。ねえさんはミラベルの前ではこんなふうに笑うんだなと、ロランは思う。ミラベルはこのあたりでこの項目について打ち切り、次の項目へ進む。

「次は、得意分野ね。これはすぐ言えるわ。あたしが得意なのは、火の魔法と運動補助の魔法。運動補助の魔法は自分の身体にしかかけられないんだけれど、ものすごく速く走ったり、身体の組織が耐えられる限界までだけど強い力を出したりできるから、何かによじ登ったりするのもできるの。火の魔法は、魔力の炎を出して何かに使ったり、遠くの相手を攻撃したり。濡れた髪の毛を乾かすのも得意。あとは、飛行魔法もちょっと使える。お気に入りの箒がないとだめなんだけれど、箒さえあればけっこう長く飛べると思う。このくらいかしら」

 サンドラは、ミラベルがぶつかってきたときのあのとんでもない勢いは、補助魔法とやらのせいだったのかとか、髪がすぐ乾いたのはとか、あの縦長の荷物は箒だったのかしらとか、色々と気付くことがあってつい頬が緩む。ロランは、またミラベルがサンドラを笑わせた、と思う。ロランはミラベルに質問をする。

「何かによじ登ったりって、その格好のままでするのか?」

 今日のミラベルの服装は、裾の広がった派手なドレスである。ミラベルは自分の服装を見て、ああ、とようやく質問の意図を理解して、答える。

「まさか。このドレスはお転婆をする服じゃないもの。これは、今日が顔合わせだから、お父様が継母のいないところで罪滅ぼしみたいにたまに買ってくれたドレスの中で、一番お気に入りのを着て来たのよ。お転婆はもっと質素なドレスでするわ」

 お転婆をするのもやっぱりドレスなのかと思いながらロランは言う。

「そんなんで上に登ったら中身が見えるぞ」

 ミラベルはロランをきっと睨みつけて言う。

「中に何か履いてるに決まってるじゃない。見たいと思うから見えるのよ」

 サンドラも口を出す。

「ロラン。貴方そんなこと言うと嫌われるわよ」

 ロランは左胸に手を当てて大げさに応酬する。

「俺はサンドラねえさんが俺の名前を覚えていてくれただけで幸せだ。気の強いお嬢さんに睨まれるのも嫌いじゃないぜ」

 サンドラは呆れた様子でミラベルに「ほっときなさい」と言う。ミラベルも「そうね」と言って従う。ミラベルは話を最後の項目へ進める。

「最後は【探索】に参加する理由か。これは、さっき言ったような境遇から逃げるためと、あとは、大おばあ様からずっと言われてたこと——『あなたは運命を変える子』とか、『【崩壊期】に現れるほうき星』っていう言葉を、叶えてみたいからかしら。大おばあ様はあたしにずっと期待してくれていたし、あたしの魔女としての力を認めてもくれていたみたいだから。大おばあ様は絶対にあたしに何か押しつけたり勝手に決めたりしなかったしね」

 あとサンドラと一緒にいたいから、は言わないでおく。みんななるほどと納得していて特に疑問も出ないようなので、ミラベルは隣のロランへ順番を渡す。

「次はなんかすけべそうなおじさん」

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