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34.チート執事さんの思い出作り 4


 かつての仲間、そして今は攻略組で出会ったリンのお姉さん。

 彼女に求めていいのは、きっと――。


 俺はそっと彼女の細い腰に手を回し、無言のまま軽く抱きしめた。


「――イツキさま! ……それでいいのですか?」

「……」


 いいも何も、現実でどうすればいいのか分からない俺には、これくらいしか出来ない。

 ゲームの中では嗅ぐことの出来ないみこさんの香り、温もりが緊張しまくりの俺の体温をさらに上げまくる。


「フフッ……そうですか。イツキさま、いえ(ミキ)くんはお優しいのですね」

「そ、そんなことは」

「幹くんをお慕いしております。願わくばこのまま押し倒して、わたくしだけのモノとしたいところです」

「え? えぇ?」

「冗談ですよ。ですが、思い出をいくつか取っておきたいですね。ですので、まずは――」

「――!? んーんーんーん~!?」


 一瞬何事か分からなかった。

 抱きしめたままの姿勢ではあったが、身長差で俺よりもみこさんの方が、顔が高い位置にある。


 そんな彼女がして来たのが、見事といってもいい強引な”キス”。

 息継ぎも出来ず、息の根を止められそうになった。


 呆然とした俺を気にする間もなく、みこさんは次の行為に移る。


「どうです? 大人の味は」

「あ、あわわわわ……あひゃぅぅ」

「お次は感触を差し上げますといたします。幹くんの手をお借りします」

「――ど……どひぃぃ!?」


 みこさんの力で俺の手は封じられている。

 そんな俺の手を使い、彼女は微笑みながら俺の指先を、自分の口に(くわ)え始めた。


 これ自体に危ない行為は認められない、そう思いながら委ねていたが……。


「……幹くん、どぉれす?」

「どどど……どうって、何をしているんですか!?」

「簡単なこと、です。ゲームの中では味わえなかった感触、感情の変化、気持ちの揺らぎ……それら全てを、この身に刻みたい。それだけですよ」


 そう言いながらみこさんの舌先は、俺の指を何度も転がしている。

 うぅ、これはアレだ。指の消毒をされているに違いないんだ。


 自分でもどういう気持ちでいればいいのか、分からなくなってきた。


「ふぅっ……幹くんの乱れた感情を頂きました。お次は……」

「ええ? ま、まだ……?」


 みこさんに舐め回された指は、きちんと消毒をされた。

 この辺の線引きはしっかりしているのが、何とも言えない。


「頭をわたくしの胸に傾けて頂けますか?」

「そ、それくらいなら……」

「……お可愛い感触です」

「――あ」


 最後は母性本能を発揮したくなったのか、みこさんは俺の頭を、赤ん坊を撫でるような優しい手つきで撫で始めた。


 彼女の端正な指が、花を愛でるように動く。

 そこから優しく、ゆっくりと何度も這って来ているが、何かをする感じじゃないようだ。


「幹くん、わたくしと思い出をお作り頂き、ありがとうございます」

「え、あ……思い出?」

「本当はずっとずっと一緒に過ごしたいところでしたが、そろそろお時間……いえ、すでに時間切れのようですので、これで後は許しを請うだけとなります」

「時間切れ?」


 この部屋にはよく見ると、時計が無い。

 窓も無ければ、何か変わった道具が置いているでも無いが、何か嫌な予感がする。


『お楽しみの所、悪いんですけど!!』


 この声には怒気が含まれている……まさか、全部見られていた!?

 みこさんは瞼を閉じて、微動だにしない。


 嘘だろ、何でリンがこの部屋に!?

 

『……覚悟は出来てるんだよね?』

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