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32.チート執事さんの思い出作り 2


「フフフッ、良く眠っておいでですね……。出来ることなら、イツキさまを誰にも渡したくないのですが……」


 微かに聞こえて来るみこさんの声。

 気のせいでなければ、リンとは別に俺への感情が相当強そうに思える。


 しかし本当に思い出せない。ここまで想いを強くさせる程の思い出を、みこさんに与えたのだろうか。

 そうだとしたら忘れてはいけないし、すぐに思い出しても不思議じゃない。


 ◇◇◇


 どれくらいの時間が経過したんだろうか。

 眠くなってそのまま眠ってから、しばらく経った気がしてならない。


 俺の頭は、何やら弾力性のあるクッションか何かに置かれているようだ。

 目を開ければその正体がすぐに分かるだろうけど、何となく開けるのを迷う。


 時間をもう少し置こう……そう思いながら、頭の向きを変えようとした。

 しかしどういうわけか、頭の向きが何かに固定されていて寝返りも打てなくなっている。


 頭の向きはうつ伏せで、さっきまでは動かそうと思えば横向きになれそうだった。

 それがどういうわけか、何かの強い力で抑え込まれている。


 機械とか物の力の感触では無く、これは明らかに人の手の感触。

 ――ということは、この手はリンか、それとも……。


「くっ、くくっ……はぁはぁはぁ……お、おかしいな」

「無駄です。イツキさまは、わたくしの膝の上に頭を乗せています。動かすことは認められません」

「その声は、みこさん! 膝の上でうつ伏せ……だ、だだだ、駄目ですよ、そんなのっ!」

「いえ、これで問題ありません」

「だって、リンに見られでもしたら大変な目に……」

「それも心配いりません。だってここは、わたくしとイツキさまの空間なのですから」

「――え」


 おかしい。こんな大胆で、大それたことをする人じゃないはずなのに。

 しかもどこかは分からないけど、リンの目が届かない所に連れて来ているだなんて。


 もしやどこかに幽閉でもされたのか。


「ウフフッ……夢にまで見た時間と空間。それが今ここで繰り広げられるんですよ」

「な、何をするつもりですか?」

「本当は、リンさまのお屋敷の中で思い出を作って、お帰り頂こうとしていました。ですけれど、イツキさまはわたくしを必要とされました。それならと……」

「ひ、必要に? え、い、いつですか?」

「もちろん、今、今後、ずっと……一緒に、ですよ」


 う、嘘だろ……。

 一体どうしちゃったんだ、みこさん。


「ご安心ください。ここを知る者は他におりません。たとえ知られても、わたくしの手で抹殺しますから……」

「――ひっ!?」

「大丈夫、あなたに酷いことはしません。ですからどうか、心を開いてください」

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