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31.チート執事さんの思い出作り 1


「時間、ねぇ……」


 何やらみこさんの言葉に納得がいかないように見えるが、肝心のみこさんは表情一つ変えない。

 こっちにしてみれば、着物の羞恥プレイから逃れられる助け船。


「リンお嬢様。お早くなさいませ」

「……もう、分かってますから! 後の始末は、みこに任せます」

「ええ」


 いやいや、後の始末って……始末されるのか俺?


 令嬢であるからにはリンにも俺の知らない忙しい時間があると思われるが、まだ早いといった表情を見せているということは、想定外な行動を取った気まずさを感じたかもしれない。


「それではリーダー。またです! わたし、今からお稽古があるので……」

「稽古? そ、そっか。がんばって」

「頑張ったら、リーダーから何かくれるんですか? たとえば――」

「え、うっ……?」

「コホン!」


 みこさんの咳込みで、リンは俺からあっさり離れた。

 この場は完全に、みこさんの勝利だ。令嬢である前に、妹としての潔さがあったらしい。


 それにしてもあんなに過激な子では無かったはずなのに、リンはレベル制限が外れた、バーサーカーのような女子と化している。


 それとも、元からああいう性質を隠していたのか。

 真相は闇に葬り去っておくのがベストだ。


「イツキさま。隣、よろしいでしょうか?」

「あっ、はい……へっ!?」


 素直に返事をしてから戸惑っても、時すでに遅し。

 豪華すぎるソファに座らされた俺の隣に、何故かみこさんが座って来た。


「……懐かしいですね、イツキさま」

「――え」

「いえ、それを覚えているのはわたくしだけでしょうが……、何気なく隣に座る。ただそれだけのことで、同じ時間を長く共有して来たなと感じるのです」


 みこさんとはどこかで出会っていたか?

 しかし全く持って、俺自身が初期化されてて覚えていない。


 この口調といい、遠くを見る眼は、俺では無く過去の思い出にひたっている気がする。

 みこさんのVR内での動きは、素人のそれでは無かった。


 ――ということは、何かのゲームの中ですでに出会っている可能性がある。

 それはきっと、LORではなくその前にハマっていたゲームに違いない。


 でも、


「ミッションの最中……でしたか?」

「フフフッ、微かにでも思い出しましたね?」

「そ、そうでしたか」


 当てずっぽうであって、記憶に無い答えだ。

 うぅ、それにしても細くてしなやかなみこさんの体が、さっきから密着しているぞ。

 

 気のせいでは無くて、何かの香りがむんむんと鼻先をくすぐり続けている。

 うっかりすると、もたれかかってしまいそうだ。


「――ゆっくり、ゆっくりと……ですよ?」


 何だこれ、全身から力が抜けて……眠くなっ……。

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