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23.取り返しのつかない幸運!?


「ねえ、すぐ止むよね?」

「まぁ、局地的っていうくらいだから……あの雲さえいなくなれば」

「信じておりますよ、イツキさま」


 俺を信じられても雲は動かないんだが。

 ミコさんの笑顔は癒しもあるが、強制的笑顔のようでもある。


 リンはすっかり素が出まくりだが、聞いてないことにしとく。


 ◇


 しばらくして……。

 時間にすれば30分くらいだったが、ようやく雨を降らす黒い雲は場所を移動した。


 再び、強い日差しが照りつける。

 それと同時に、濡れた二人の透けた洋服から視線を逸らすのに、かなり苦労しそうだ。


 すぐ乾くし、そこは気にならないと思われたが甘かった。


「キャァッ……!?」

「……イツキさま、これもセットで起こるものですか?」

「そんなことは……」

「バカァっ! 何とかしてよ!」


 豪雨は確かにあがった。

 そして強い日差しも戻ったのに、どうして次から次へと試練を与えてくれるのか。


 リンとミコは紙袋を大事そうに片手で抱えている。

 その中身がとうとう露わになる!


 そんなことを思っていたら、

 唐突に狙い撃ちのような、暴力的な突風が吹き荒れて来た。


 軒下から出てすぐだったために、二人とも対処出来ず、手にしていた紙袋を手放してしまう。

 どうやら中身は空袋のようで、予想は大いに外れた。


 そこまではよかったが……。

 執事服のミコはともかく、制服姿のリンのスカートが思いのほかヒラヒラしすぎて、想像以上の突風で大きくひるがえってしまった。

 

「――っ!? 嘘っ……!」


 学院では大胆な言動と行動に出ていたリンが、素だったせいか、一気に赤面している。

 スカートの中身は、もちろん恐ろしいほど真っ白なお召し物だ。


「リーダー……見た?」

「見てない」

「嘘、絶対見た!」

「見てません」


 見たんじゃなくて、自然と風が俺に味方しただけで、意図的に見たわけじゃない。

 などと、令嬢には通用するはずも無く。


「あの紙袋を拾って来てくださいっ!! 早くっ、リーダー!!」

「あ、お、おう……」


 言葉遣いがいつもの口調に戻ってて、ついつい動揺してしまった。

 もしやと思うが、デパートで服を買う、試着するときに紙袋に入れる……。


 普段デパートに行ってる者からすれば、そんなのすら必要が無いのだが、そういうことだった。

 リンは濡れたスカートを必死に手で押さえながら、涙目になっている。


 俺が泣かしたわけじゃないはずなのに、何でか罪悪感を感じるんだが?

 

「イツキさま。紙袋はそういう意味でもありませんでしたよ?」

「へ?」


 クスクスと笑うミコだが、笑顔の裏が読めない。

 お着換え用の紙袋じゃないらしい。


 コロコロと転がった空袋を何とか回収。

 当然だが、濡れに濡れまくっていてもはや使えない。


「イツキさま、急激な天気の変わりようは運が悪いとしか……申し訳ございません。その紙袋には、私とお嬢様とで、イツキさまへのプレゼントをご用意するつもりでした」

「プレゼント……ですか?」

「そうです。決して、替えの下着などではございません」

「い、いや、そう思っていたわけでは……」

「いえ……その」


 何やらミコの歯切れが悪い。

 さっきから黙っていたリンが俺を睨んでいる。


 何かしたか?


「リーダーの視線がずっと集中していましたけど? 何かを期待したんですか?」

「私も先ほどからずっと感じておりました……」

「はい?」


 雨に降られ、突風でスカートがひらりと……。

 あーあーあー……紙袋を拾って安心したせいか、さっきの白い映像が目に残っていたのか。


 ミコまでが恥ずかしがる必要はないのでは?

 と思っていたが、透けまくったワイシャツを自然と見つめていたのか!?


『中止ですからっっ!! デパートもデートも中止! イツキくんは反省しながら一人で帰って下さい!』

「え、えええええ!?」


 天気の移り変わりで拾った幸運が、一気に不運になるなんておかしいだろ。

 リンとミコの二人は、送迎車を呼んでそのまま俺の前からいなくなった。


 白いのが見えただけの幸運が……なぜこんなことに。

 あからさまな下心は、相手を大いに不安にさせ、ヘイトを一気に上げてしまう。


 それを学んだ俺は、濡れて乾かない服のまま、家に空しく帰った。

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